【七の扉11】085)そして、また!?
「いい? 連れてはいけないの。一度ついてきたら帰れなくなっちゃうんだからね。さ、仲間の元にお帰り」
ウェザー達と合流して丸1日経過した今も、尻尾を振りながら私たちについてきていた狼。狼にダメもとで説明してみせる私。
「ね、仲間と会えなくなるのは嫌でしょ? だから、ね」
すると、しばし私の顔を見ていた狼は、小さく鳴いて私たちと離れ始めた。何度もこちらを向いて名残惜しそうだ。私も名残惜しい。
「すごいな。もしかしてあの狼、言葉を理解したのかな」ウェザーが同じように狼を見送りながら呟く。確かに私が説明したらなんとなく理解した風だったけど、まさかね。
「私たちを襲うために仲間を集めたり、火が使えなくなる雨を待っていたあたり、とっても頭のいい生き物だと思うわよ〜」フィルさんが言い、確かになぁと納得。ま、とにかく分かってもらって良かった。
それからの道中はのんびりとしたものだ。
これといって危ない目に会うこともなく、途中でトラン君に記念に何か持ち帰るように勧めて、簡単な探索をしたりもした。一応依頼人だったので、これで少しでも依頼達成となればいい。
大した物は見つからなかったけれど、トラン君は満足そうだったから良いかな。この世界から戻ったら、少しカジノで遊んでから故郷へ帰るそうだ。あんまり負けないように気をつけて遊んで欲しいものだ。
「それにしてもトラン君が合流した時、なんであんなに怯えていたの?」
私の疑問に答えてくれたのはダクウェルだ。
「合流する前にちょっと大型の鳥類に襲われましてね。危うくトラン君が連れていかれそうになったのですよ」
そうなる前になんとかしてあげられなかったものかとも思ったけれど、「自分の身は自分で守ると言って同行してきましたから、ギリギリまではこちらも手を出さないようにしていました」とのこと。
結局ノンノンが撃ち落として、ダクウェルが燃やして事無きを得たものの、自分を片手で簡単に掴んで持っていこうとする恐鳥にも、それを簡単に叩き落とすノンノンやダクウェルに対しても「自分が来るべき世界ではなかった」と痛感したそうだ。
「確かにニーアのいう通り、手前の扉としてはちょっと難易度の高い世界だよね。トランには厳しかったみたいだ」とウェザーがはっきり言うが、「ここまで差を見せつけられると、なんの言葉もねえよ」という言葉と共に、トランは苦笑するばかりだ。
「みんなトランみたいに物分かりがいいと楽なんだけどね」
うちのギルドで揉めるお客さんの大半は、つまり自分達の実力を過信して撤退に納得できないケースがほとんどだ。
一応ウェザー達が依頼人の安全を確保しての挑戦であり、今回のトラン君のようにあっという間に命の危機を味わう事がないので、実力不足を実感しずらいと言うのが大きな要因らしい。
「それは冒険者ギルドでも言える事ですね。その辺、冒険者ギルドは案内ギルドよりもドライですから、実力不足は力づくでわからせるので揉め事にはなりませんが」とは、つい先日まで冒険者ギルドに所属していたダクウェル。
そんなふうにダラダラと話しながら3日。
ついに私たちは、帰還の扉の前に立ったのだった。
「つ、ついたぁ〜〜〜」
帰還の扉を前に思わずひざまづいて祈りを捧げる私。長かった。疲れた。足が棒のようだよ〜〜〜!!
「あははは、ニーアちゃんがまた奇行をしている」レジーに揶揄われたけれど、今日は許そう。。。。いや、待てよ、今”また”って言った? いつ私が奇行をしたと言うのだ。解せぬ。
「けれど、こんなに長時間異世界にいたのも久しぶりねぇ、ニーアちゃんにはいい経験になったんじゃない?」フィルさんがのんびりと話しかけてきた。全然疲れてなさそうですごい。あんな大きな荷物をずっと背負っていたのに。
「そうですね、、、色々あったけど、いい経験にはなりました」
入り口前で立ち話に興じる私たちに、
「さ、その辺の話は戻ってから。女性陣から先に帰還しなよ」とウェザーが促し、「それじゃあお言葉に甘えて」と扉に体を向けた瞬間である。
どんっ!!!
「うえっ!?」私はまたも背中に強い衝撃を受けて、勢い込んで扉へと投げ出された。
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「ぶへっ」無限回廊の厳粛な雰囲気にそぐわない声をあげて、廊下に投げ出されたのはもちろん私だ。行きも帰りもこんな目に遭うとは、、、、今度は一体誰だ!? まさかまたポメル!?
振り向けばそこには大きなもふもふしたお腹。。。もふもふ?
「ちょっとニーアちゃん! 大丈夫!? こら、ばか犬、離れなさいよ!」もふもふの向こうからレジーの声が聞こえる。
「これってまさか、、、」
上体を起こしてみればそこにいたのはあの狼だ。
「ヒッ! 化け物が無限回廊に入り込んだ!!」無限回廊の監視を行なっていた教会関係者が、悲鳴をあげて逃げ出した。これは非常に宜しくない。
「待って!」と立ちあがろうとして、右足首に痛みを感じる。今の衝撃で捻ったのか。思わず右足に手を添えると、狼が心配そうにその部分を舐めてくれる。
「心配してくれてありがとう。でも今それどころじゃないの。君の方が危ないの!」
教会の人たちが大騒ぎすれば、この子が討伐されてしまうかもしれない。
と、そこへゾロゾロと戻ってくるウェザーたち。
「相変わらずニーアは予想外のことをするね」と呆れるウェザー。
「実に期待通りのことをしてくれる方です」と満足げなダクウェル。
「近づくまでまったくけはいがなかった」と少ししょんぼりしているノンノン。
「騒ぎになりそうだね、ウェザー、どうするんだい?」最後に戻ってきたトッポさんがのんびりした口調で言う。
その間も狼は私の足首を気にしていたけれど、不意に、私の服の襟を軽く噛んで何か伝えようとする。
「え? 何? 今遊んでいる場合じゃないよ?」
それでも何度も同じ動作を繰り返す狼。それを見たトランが一言。
「あのさ、、、もしかしてだけど、、、乗れって言ってるんじゃないか?」
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「ニーアさん、、、、あなたって人は、、、、なんですか、何がどうしたらこうなるんですか!? なんの嫌がらせですか!?」
困惑しながら私に「一体自分が何をした!?」とばかりに訴えるのは、教会の管理職の人こと、ノリウスさんだ。
逃げた教会の関係者の知らせを受けて、呼び出されたのがノリウスさん。前回の騒動以来、なんとなくミスメニアス関係の問題ごとはノリウスさんに担当させろみたいな空気があって、今回も忙しい中呼び出されたらしい。
それで嫌々来てみれば、無限回廊へ繋がる広場には大型の狼の上にちょこんと乗った私と、それをざわつきながら遠巻きにする冒険者や観光客。
出てきた当初は大きな悲鳴が上がったり、冒険者が武器を構えたりと剣呑な雰囲気だったけれど、ダクウェルがそつのないイケメンを振り撒きながら「ブレンザッドの聖女が異世界で従えた生き物です」と喧伝したことで、人々の意識は恐怖から興味へと移行した。
外面だけは良い男、それがダクウェル。
というか、いよいよ持って「ブレンザッドの聖女」なる不相応な肩書きが広まりつつあることに大いなる懸念を持ったけれど、今それを否定するのは、この狼のためにもできない。
私は勤めて平静を装って「この狼は全然危なくないですよ?」という無言のアピールに必死である。
「その微妙な笑顔はいいですから、説明してくださいよ!」とノリウスさんに突っ込まれる。む、聖女の笑顔のイメージでしたけど?
「まぁまぁノリウス、今回の件の教会の不手際も含めて、色々頼みがあるんだよ。ここだと目立つから、うちのギルドに行こう」
と爽やかな笑顔で肩を叩いたウェザーに、ノリウスさんはものすごい嫌そうな顔を返していた。




