【七の扉10】084)ウェザーの反応と放火魔の理由
「簡単に飼えるわけでもないし、そもそも一度連れていったら返してあげることはできないのよ。雨が上がったら、情が湧く前に帰していらっしゃい」
犬を拾った娘がお母さんに言われるタイプの注意を受けた私。
注意したのはフィルさんで、原因は私に懐いてしまった大型の狼だ。
「分かってるよフィルさん。連れて帰る気なんかないから」私の言葉に満足げに頷くフィルさん。当の狼は私の後ろで丸くなって目を閉じている。干し肉を食べて満足したので眠くなったのだろうか。
「ま、とりあえずその狼のことは後で考えよう。それで、そのポメルって娘はなんでこんなことをしたんだい?」
ウェザーに促されて説明を始めようとして、ウェルさんに視線がゆく。ポメルが迷い人である事を必要以上の人に広めていいのか分からない。
視線に気づいたウェルさんをウェザー。
「先にこっちから説明したほうがいいか、、、」と小さくため息。
「えーっと、すごく助かりましたけど、ウェルさんはどうしてウェザー達と一緒に?」
その質問を待っていましたとばかりに、ウェルさんが一歩前に出る。
「実はですね、私、この度ドフィーネを辞めまして」
「えっ!? なんでまた?」私の質問に手を出して待ての合図。
「それでですね、ミスメニアスに入りました」
「「ええ!?」」今度こそ驚いた私はレジーと共に飛び上がる。フィルさんでさえ「あらあら」と少し目を見開いている。
「不詳ながらこのダクウェル、聖女にお力添えを致したく」慇懃に頭を下げながら不穏なことを言うウェルさん、っていうかウェルさんは通称でダクウェルさんが本名なのか〜、はー。
そしたらフィルさんと呼び方が似ていて紛らわしいから、今度からダクウェルさんって呼ぼうっと。
「、、、ニーア、なんか現実逃避しているみたいだけど、ダクウェルがなんか声をかけて欲しそうにこっちを見てるよ?」笑っていいのか悪いのか、流石に判断が付かなかったであろうレジーがなんとも言えない表情で私に促す。
うう、ダクウェルさんから、先ほどの狼と同じ視線を感じる。
「えっと、、、よろしくお願いします?」
「はい。私はニーア様の炎、ご自由にお使いください」
私は目でウェザーに「どういうこと? 説明して」と必死に合図を送る。
「実はね、この間の島でニーアが庇ってくれたのが嬉しかったらしいんだ」
庇った? そんな覚えはないけれど? あ、そういえばダクウェルさんがやりすぎて、浜辺に戻った時に流石にゲオルさんとジーノさんに怒られた時に、少しだけ庇ったな。一応、空中で助けてくれた恩返しと思ったのだけど。
「ウェザー、それではあまりに言葉が足りません。私はニーア様が聖女と呼ばれた頃から注目していたのですよ。以前皆さんとご一緒したポルクなどに話を聞いたり、教会のノリウスさんに話を聞いて回ったりしてました」
何それ怖い。
「なんでそんなことを?」
「どうもここのところ、ミスメニアスが楽しそうだなと思って。少し前までは無理くり押し付けられた案内を嫌々こなして、結構な割合で依頼人と揉めていたあのギルドが、急に様々な依頼をこなすようになって、その都度何か話題を振りまいている。気になって調べてみると、貴方が来たあたりから状況が変わったことに気づきました」
「、、、、そうなの?」
それは私では分からない話だ。レジーに視線を向けると「そうだね〜。ニーアちゃんが来てからなんだか騒がしくなったのは事実だね。揉め事も減ったかも」
いや、結構揉めてるよ? ロデオルとか、カインとか。
「でしょう!」我が意をえたりといったダグウェルさんは言葉を続ける。「そこであの島での夏休みです。ニーア様がどのような方なのかを確認する良い機会でした。そして私の想像以上でした。瞬間移動という類まれなギフト、私を庇ってくれた優しさは噂に違わぬ聖女の如し。何よりいるだけで何か起こすその存在感!」
、、、ちょっと待って、最後のは褒め言葉に見せかけた悪口だよね?
「この方のそばにいれば、もっと面白い、、、失敬。素晴らしい冒険ができるのではと私は確信しました。なのでゲオルゲガーさんにギルドを変えたいと申し出たのです」
「私のことはともかく、よくゲオルさんが許可しましたね」
「ええ、ちゃんとした理由があれば、ギルドの移動は珍しくはないですよ? ライバルギルドへの移籍なら些か問題がありますが、この場合案内ギルドへの移籍ですからなんの問題もありません」
「今の話のどこにちゃんとした理由が!?」
「あったでしょう? ちゃんと言いましたよ。面白そうだから移籍したいと」
それでいいの!? 困惑する私にウェザーが補足をしてくれる。
「普通はもう少しちゃんとした理由がいるよ。ただゲオルさんところだからねとしか言いようがない。この大変な時にやってきて、一方的にウェルを頼むって置いてったんだ」
「よくそれでウェザーも受け入れたね!?」
「いや、ある意味これも君たちが無関係な話じゃないよ? 普段だったらもう少し考えるけど、なんなら多分断るけど、今回は時間がなかったし人手も足りなかった。ダクウェルは性格はアレだけど実力は申し分なかったからね。今、試用期間中ってところ」
「性格はアレとはひどいですが、ま、とにかくよろしくお願いします。ニーア様、それに先輩方」
「えっと、とにかくその様付けだけはやめてもらえますか?」
「しかし、、、、」
「お願いします。絶対にやめてください。っていうかやめて」
「分かりました、では私のことは呼び捨てと敬語はなしで。それならばニーアさんと呼びましょう」
なんだかよく分からない譲歩条件だけど、とにかく話はまとまった。
予期しない話ではあったけれど、ダクウェルも同じギルドの仲間ということであるなら、ポメルの事情を話しても問題ないだろう。トランもいるけれど、彼はブレンザッドの人間ではない。一応言いふらさないように約束もしてから口を開く。
「それじゃあ、こっちの話。実はね、、、、」
私たちは、ポメルがなぜこんな事をしたのか、ことの経緯を説明し始めた。
当のポメルは死刑宣告を待つかのように、下を向いて大人しく座っている。
説明が終わるまでウェザー達は一言も発することはなかった。
「それで、ここまできたところで狼に襲われて、ノンノンが助けてくれたの。改めてありがとうね、ノンノン」お礼を言われたノンノンはふんすっと胸を張る。
「でね、ウェザー、ポメルも悪気があって、、、」そこまで言ったところで、ウェザーが見たことないくらい真剣な顔でポメルを見ていることに気づく。睨みつけているようにも見えるほどだ。
「ポメル」ウェザーに呼ばれてびくりと肩を震わせたポメルは、青い顔でおどおどと顔を上げる。
「君は、帰りたいのかい?」
ポメルは小栗と頷く。
「なんで帰りたい?」
ウェザーは低い声で問う。ポメルは震えながら
「お母さんに、みんなに会いたい。元の生活に戻りたい」と絞り出す。
「いつもの道を歩いていたら、知らない場所にいたと言ったね。その時のことを詳しく話せるかい?」
ウェザーのただならぬ雰囲気に私は思わず口を挟む。
「ウェザー! どうしたの!? なんか変だよ!?」
私に言われてハッとするウェザー。
「あ、ああ。ごめん。こんなことがあり得るのかと、つい。。。。」
「こんなこと?」
「とにかく詳しいことは元の世界に戻ってからにしよう。ポメル。安心してくれ。元の世界に戻れるかは約束できないけど、ひとまず君のことはうちのギルドが預かる。最低限帰るまでの安全は保証する」
そう言われたポメルは、黙ったまま肩を震わせた。




