【七の扉⑨】083)私と野良犬の思い出
「「「ノンノン!!!!」」」
これ以上ないタイミングで私たちを助けにきてくれたノンノン。普段の5割り増しで凛々しく見える。
ノンノンは私たちの方を振り向くことなく狼を牽制。先ほどよりも弱い電撃を数発放つ。狼も警戒して距離を取り、しばしの睨み合いが続いた。
雨足は少しずつ強くなってきている。まだ、狼達も私たちを襲うことを諦めてはいない。私たちも再び戦闘体制をとる。
そんな息詰まる睨み合いに終止符を打ったのは意外な人物だった。
「フレアクラウン」
雨中でも消えることのない炎の塊は、数珠繋ぎになって私たちの先へと線上に着弾すると火柱を上げた!
どうも火が苦手な狼は立ち上る火柱に驚いて後ずさる。その中の一頭が「ウォン!!」と一声鳴くと、まるで消えるように立ち去っていった。
間違いなく立ち去った狼を見送ってから、私はヘナヘナと膝をつく。雨で濡れた地面が少し気持ち悪いけれど、ちょっと立っている余裕がなかった。
「やあみんな、無事でよかった」
のんびりした言葉と共に暗がりから現れたのはウェザーとウェルさん。後からトッポさんと、さらにはトランの姿もあった。
「もー! 遅いよウェザー!!」躊躇なく文句を言うのはレジーだ。
「ごめんごめん、でもこれでも最速でやってきたんだよ? そうだ、フィルさん。ポインターを上げててくれたの、フィルさんだろ? 助かったよ。あれがなかったら間に合わないところだった」
私たちがここにいるという目印に掲げたポインター、ウェザー達はこれを発見して向かってきてくれたのだ。フィルさんの機転に感謝!
「それで、ウェルさんとトラン君はなんで一緒に、、、」
「ウェルに関してはちょっと後回しで、、、トランは最初3人でついてくるって聞かなかったんだけど、普通に邪魔だから断ったんだ。それでも命も覚悟するっていうから、一人だけ連れてきた」
そのように言われたトランだったけれど、先ほどの戦闘がよほど衝撃的だったのか、トッポさんにしがみついて震えていた。気を張って見せても、まだやはり子供なのだ。
「トラン君、大丈夫?」私が声をかけると
「あ、、、ああ。ちょっと雨で、そう、雨で冷えただけだから」と言いながら、震えが止まらない。
「ま、一応彼らなりに責任を感じていたみたいだよ。料金は教会持ちだし、本人がいいならいいかって連れてきた」
この辺りウェザーは結構ドライだ。断ったのについてきた以上、必要とあれば割と本気で見捨てかねない。
「トラン君、ありがとう」震えながらも心配してここまで来たトラン君にお礼を伝えると、どうにかこうにかぎこちない笑顔で返してくれた。
「それからウェルさんもありがとうございます」私がお礼を伝えると「雨でも私の炎は美しい」と満足げだ。突っ込みたいけれど助けられた手前突っ込み難い。
「こちらの事情はともかく、そこの娘が問題の娘だね」とウェザーが視線をポメルに向ける。ポメルは少し怯えた表情でフィルさんに縋りついた。
そんな様子を見たウェザーは少しため息をついて「まずは一旦雨を凌ごう。トランじゃないけどずっと雨に打たれていたら体が冷えるよ。トッポさん、ターフ出せる? ウェル、ターフの下に焚き火作ってくれるかい?」と指示を出す。
そうしてあっという間にできた焚き火と雨宿りできる休憩スペースで、私たちはようやく人心地ついた。
「さてと、何から話そうか、、、そうだ。まずはトラン」ウェザーに指名されたトランは、なぜ自分が指名されたのかわからずに首を傾げる。
「そこで伸びている狼、あれの皮を剥いで持って帰ればそれなりのお金になると思うよ。君、お金が欲しかったんでしょ? どうする?」と聞いた。
ウェザーが言っているのはノンノンの電撃を受けて伸びている狼のことだ。他の狼は逃げたけれど、その一頭だけはまだ電撃に痺れて動けないでいた。時折痙攣しているので死んではないみたいだけど、苦しそうだ。
個体としては他の狼よりも一回り小さく、もしかすると子供なのかもしれない。
「皮を、、、」トランがびくりと狼を見る。その顔色は良くない。少ししてから、「いや、いいよ。今回の件で分かった。俺に無限回廊は無理だ。あの毛皮を剥いで持って帰ったら一生夢に出てきそうだ、、、」と首を振る。
「そうかい? じゃあ、ニーア、僕らで剥いで持って帰ろうか?」と、今度は私を見て聞いてくる。
確かに襲われた相手だけど、流石に息の根を止めて皮を剥ぐのはかわいそうだ。お金になるかもしれないけれど、とてもそんな気分になれない。
それよりも。
「ね、ウェザー。私の借金につけてもいいから、万能薬貰えないかな?」
「いいけど、どうしたんだい? 怪我でもした?」私が首を振ると、横で見ていたレジーが「まさかニーアちゃん、あの狼にくれてやる気?」と眉根を寄せる。
「うん。だって、あんなふうに痙攣して、かわいそうだよ」私の言葉に呆れた顔をするレジーだったけれど「あー、もう、ニーアちゃんはお人好しすぎ。ポメルの件といい、気をつけないといつか痛い目を見るよ」と忠告するも、否定することはなかった。
そうして私はウェザーから万能薬を譲り受けると、雨の中小走りで痙攣している狼の元へ。念の為ウェルさんがついてきてくれた。危なくなったら火で牽制してくれるつもりのようだ。
「くう」弱々しい声をあげている狼の口に、私は万能薬を流し込む。
程なくして狼の痙攣は治まり、少ししたら立ち上がれるほどに回復した。
「ああ、良かった。さ、みんなの元に帰ってね」と送り出そうとするも、こちらを見つめたまま動こうとしない。
威嚇もしてこないので襲ってくるわけでは無さそうだ。とりあえず放っておけば去っていくだろうと、私たちがターフへ戻ろうとすると、私の後をついてくる。
「、、、、もしかして、お腹が減っているのかな?」
私が自分の分の干し肉をフィルさんから出してもらって、狼に投げてあげると少し匂いを嗅いでからガツガツと食べ始めた。
「本当に君は、、、」とウェザーも呆れているが、いいのだ。実はお姉ちゃんと教会で暮らしていた時、よく餌をあげていた野良犬がいた。その子もいっつもお腹を空かせていて、たまに餌をあげると嬉しそうに食べていた。いつもあげられれば良かったけれど、田舎の教会の経済状況からすれば野良犬を保護する余裕はなかった。
その時のことをなんとなく思い出してしまったのである。なので私としては満足だ。
けれど狼は干し肉を食べてもその場を去ろうとしなかった。雨の中、ずっとこちらを見ている。
「ウェザー、、、、」私がウェザーを見ると、ウェザーは大きくため息をつく。
「仕方ない。。。呼んで来るようなら好きにしなよ」
私が狼を呼び寄せると、その子は嬉しそうにターフの中へと入ってきた。




