【七の扉⑦】081)大胆な発想とその理由
「、、、、全部、分かってしまいましたね、、、、」
私たちの前に座るポメルには、先ほどまでの反抗的な態度はない。そこにあるのはただもう、全てが終わってしまったかのように悄然と項垂れる姿。
現在のポメルは今までと同じ人間の少女の姿になっているけれど、この姿が仮初であることを私たちは知ってしまった。彼女の正体はたぬきのような種族、つまり、フィルさんやノンノンと同じ迷い人だ。
正体が露わになったポメルは、溜め込んでいたものを吐き出すように滔々と語り始め、私たちはただ黙ってポメルの言葉を聞いた。
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私がこの世界に来たのは3年前。元の世界でお母さんからお使いを頼まれた帰りのことよ。いつもの道をいつものように歩いていただけなのに、気がついたら見しらぬ場所にいたわ。
最初は大変だった。言葉を話すたぬきだって追いかけられたり、石を投げつけられたりもした。幸い、私たちには変化の術があったから、周囲の人間と同じ姿になってなんとか凌いできた。
そうして少しづつ情報を集めると、私のような存在は迷い人とか、擬人とか呼ばれていて差別対象になっていることが分かってきた。何にもしていないのに、奴隷として売られたり、殺されそうになっても誰も助けてくれない存在だって。
だから、私は生き残る方法を必死に考えたわ。このままこんなふざけた世界でおもちゃのように扱われるのはまっぴらだもの。この世界も、この世界の人たちもみんな、みんな嫌い。
私の願いはただ、元の世界に帰りたいだけ。
だから教会に入った。教会は身寄りのない者を受け入れる施設でもあったし、何より無限回廊の管理者。同時に私たちのような者たちを差別する元凶だけど、変化の術を使う私なら利用できると思った。
それから細心の注意を払いながら、無限回廊に近づける方法を探したわ。そうしてやっと見つけたロデオルっていう希望の光。ロデオルに取り入った私は、時間をかけてでも帰る方法を探せると思った。
なのにロデオルは無限回廊の司祭に就任早々、解任の憂き目に遭っている。もしこのまま解任されればロデオルと一緒にきた私もお祓い箱よ。ここまでの苦労も全て無駄。
あなたたちに分かるかしら、この気持ち。
だから私は最後の勝負に出た。問題を起こしたのはロデオルと、ニーア、つまりあなた。なら、問題を起こした片方がいなくなったら、、、もしかしたら問題が有耶無耶になるかもしれない。
だから無限回廊から出発するパーティの監視役に名乗りを上げて、あなたたちが来るのを待った。時折あなたのギルドへ動向を探りにもいったわ。
そしてあなたが来た。しかも少人数で扉を覗こうとしている。ここしかないと思った。
「だから私は、あなたを突き飛ばしたの」
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「さ、全て話したわ。はっきり言うわね。私があなたを危険に晒したのは、あなたからすれば全て逆恨みよ。でも、悪いけど私は謝る気はない。代わりになんでも甘んじて受け入れるわ。この世界に捨ててゆくなり、好きにしてちょうだい。どうせもう、あの不愉快な世界に戻ったところで私には希望がない」
受付でのんびりしている時に、時折感じた視線はポメルのものだったのか。
そして、彼女がそこまで追い詰められているとは全く知らなかった。知らなくても当然の話ではあるけれど、確かに発端は私とロデオルの喧嘩だ。最も、大元はロデオルが悪いのでそこは譲れない。
でも、私があの場所で売り言葉に買い言葉でやり合わなければ、ロデオルの発言は許せないけど少しだけ大人になって別の方法をとっていたら、もしかしたらポメルが追い詰められることはなかったかもしれない。
そう考えるとポメルの行動を、一方的な逆恨みと断罪する気持ちにはなれないのだ。
私はポメルになんといって良いかわからず、フィルさんとレジーの顔を見る。
2人とも複雑な表情でポメルと私を見ていた。あれだけポメルに腹を立てていたレジーでさえ、今の話を聞いて謝罪もしないと宣言したポメルに対して何も言わない。
2人とも、ポメルの状況が厳しい事が分かっているのだ。ポメルの言う通り、無事に帰還できたとしても彼女は何らかの罰を受けるだろう。自分の世界に帰るための扉を探すような余裕が生まれる可能性は絶望的だ。
かといってこの世界に止まるというのも厳しい。如何に私たちの世界を嫌っていても、向こうには街があり、安全な食べ物があり、少なくとも街の中にいる限りは危険な生き物に襲われる心配はない。
温泉で、そして遠吠えを聞いた大型の獣のことを考えると、こんな場所で一人で生きてゆくのは多分、無理だ。ポメルにできるのは変化の術だけ。他は普通の少女なのだから。
私はしばらく考える。そして思い至ったのは、「ウェザーならどうするだろう」ということだ。
「、、、、そうか、ウェザーだ、、、、」
私の呟きにポメルが訝しげな視線を向ける。その眼は赤い。ずっと声を殺して泣いていたのだ。
「ねえ、フィルさん、レジー、ウェザーならポメルの住んでいた世界を探せるんじゃない?」
私が見てきただけでも、様々な依頼を希望の世界へと導いてきたウェザーなら、なんとかしてくれるかもしれない。
「ニーアちゃん、それは私も考えたけど、今回の件の根本的な解決にはならないよ。この世界から帰還したらこの娘は多分拘束されるよ?」とはレジー。
「、、、そこは帰還するまでになんとか考える。何か方法があるはずだよ!」
うん。前向きな気持ちになってきたら、ちょっと元気が出てきた。
「、、、そうねぇ、ウェザーなら迷い人を放っておくようなことはしないわよねぇ」
フィルさんの賛同も得たので話は決まり! まずはとにかく帰ることに集中しよう!
「ポメル、聞いた通り、約束はできないけれど貴方が帰るための手助けはできるかもしれない。だから、ね、まずは一緒に帰ろう!」
そういって私が手を差し伸べると
「なんで、、、、なんでそんな優しいこと言うのよっ」と号泣しながらも、それでも私の手を握り返してくれた。




