【七の扉⑤】079)脱出の選択肢はあるのだけど、どれも選べないので。
私たちが大河の流れに漂う浮島に投げ出されてから、一夜が過ぎた。
不機嫌そうなレジーと、レジーと私から隠れるようにフィルさんに隠れるポメル。場の空気は重い。
この場所に来てから、なんとかして脱出をしようと知恵を捻ったけれど、結局良案は浮かばなかった。
いや、リスクに目を瞑れば選択肢がないわけではないのだ。特に効果的なものが2つある。
一つは私の瞬間移動の能力である。ここで使わなくていつ使うのだというギフトなのだけど、問題点がいくつかあった。
まず単純に精度の問題。跳ぶ場所次第ではみんな仲良く水の中だ。ただ実は、精度の問題に関してはそこまでの懸念材料ではない。何度も練習して、少人数ならある程度イメージしたところに飛べる可能性が高くなっていた。私だって成長しているのである。
それよりも心配なのはポメルの存在だ。私をこの世界に突き落とした少女、ポメル。私やレジーが聞いても睨め付けるばかりだった少女は、フィルさんが聞いたらようやく名前を名乗ったのだ。
とにかくこの娘は私を敵視している。そして私のギフトは私に触れている人にしか発動しない。もし、ポメルが私を信用せずに手を離したら、或いは瞬間移動の瞬間に暴れて移動先がずれたら、、、、彼女も私を信用できないだろうけど、私も彼女を信用できない。
けれど、彼女を一人この場所に置いてゆくのは、事実上彼女を見捨てるということだ。流石にそこまで非情になる気はない。
もう一つはレジーの能力だ。レジーは水を固めることができる。ここから脱出するにはうってつけのギフトである。けれどこちらも問題があった。
レジーの能力も万能ではないのだ。自身のごく周辺に関しては自由自在に水を固めることができるレジーだけど、効果範囲を広げる場合はそのコントロールが難しい。動きの少ない水面ならともかく、浮島を動かすほどの流れの河の上で安全なルート確保するのは大変だと言っていた。
「いや、一人くらい流されてもいいなら試してみてもいいけど」と言いながらチラリとポメルをみるレジーの目は冷たい。これ、流されてもいいと思っているなぁ。
というわけでこちらの案も色々な、言い方は悪いけれど主にポメルという足枷によって実行が難しくなった。
私たちがうんうんと唸っている中、一人のほほんとしているのはフィルさんだ。
「まぁまぁ、まずは身の安全を優先しましょ。とにかく全員無事ならウェザーたちが助けに来てくれるわ」とのんびりとまとめる。
「そう、、、ですよね」
それは間違いないと思う、どれだけかかっても、きっとウェザーたちが迎えに来てくれる。問題は、それが何日後になるかという事。
もちろんウェザーはすぐに星読みでこの異世界を探してくれるだろう。だからと言って、目的の扉が見つかるかはまた別の話だ。
私たちだけなら協力し合って一週間でも10日でも過ごせる。幸いにもここにはフィルさんがいて、遠征のための荷物がある。それにレジーは盗賊だ。危険察知はお手のもの。
だけど、ここにはポメルがいる。
彼女はまだ、なんでこんなことをしたのか話そうとはしなかった。ただ、やはりレジーに連れてこられたのは予想外だったようで、ひたすらに私たちやこの世界に対して怯えているように見えた。
唯一フィルさんには心を開いているようで、本当に僅かだけどフィルさんとは言葉を交わしている。今もフィルさんの用意してくれた朝ご飯を、手ずからもそもそと食べていた。
私がこの重苦しい雰囲気をどうしたものかなぁと考えながらパンに齧り付いた時、足元がぐらりと揺れる。瞬間的に「沈む!」と思ったのは、この間の人喰いの島のせいだ。つまりあの放火魔のせいだ。
けれど浮島は沈むことなく、少し揺れただけ。
「なんか今、揺れなかった?」気のせいかもしれないので口に出してみると「揺れたわね」とフィルさんが返してくれる。気のせいではなかった。
「みんな! 逃げるよ!準備して!」
私たちがのんびりと揺れたねぇと会話しているうちに、すぐさま様子を見に行っていたレジーが私たちを急かす。
私たちは取るものもとりあえず、レジーの方へと向かった。視界の端にポメルの姿も見える。少なくともついてくる気持ちはあるみたいだ。
ほんの少しだけホッとしつつレジーのところへ行くと、ちょっとびっくりする光景があった。
堰がある。それも流木で作られたとても規模の大きなものだ。私たちの乗っている浮島は、この堰に引っかかって止まったのだ。
「すごい、何これ?」
流木の堰の幅は私たちが横並びになっても問題ないほど広い。興味深く眺めていると、その堰の端で水飛沫が上がる。
「なんか、今、、、」
見ればハルウとちょっと似てなくもない、胴の長い可愛い生き物がたくさん泳いでいて、せっせと木々を集めてきては、堰へと押し込んでいた。
「これ、あの子たちが作ったの!?」
「みたいねぇ。そういえば前にウェザーに聞いたことがあるわね。川にダムを作る生き物の話」
頑張って働く動物をほっこりした気持ちで眺めていると、またレジーに呆れられた。
「そういうの、後でやってくれる? とにかくこの上を歩けば陸に上がれる。急いで脱出しようよ!」
レジーの言うことは最もだ。でも、、、
「上に乗って大丈夫かな?」
「ニーアちゃん、ぼやぼやしていると本当にダメになるかもよ、ほらそこ、浮島に押されてギシギシ言ってる」
「、、、、ほんとだ! い、急いで逃げないと!」
「さっきからそう言っているでしょ! もー、ニーアちゃんとフィルさんはのんびりしすぎだってば!」
私たちは慌てて堰の上に飛び乗る。フィルさんが大きな荷物を持って降りた時に、ちょっと嫌な音がしてたんだけれど、なんとか持ちそうだ。
ー頼むから壊れないでね!ー
私の祈りのおかげではないけれど、ともあれ私たちは丸一日ぶりに河の上からの脱出が叶ったのだった。




