【一の扉⑦】007)入り口から早々にひと悶着
「ここが無限回廊の入り口、、、」
私が眺める先には、とても広くて長い階段が続いている。いや、階段自体は遠くからでも見えていたのだけど、こうして近くで目の当たりにすると迫力が段違いだ。そこを一段一段踏みしめるようにして辿り着いた先には、階段からは想像できないほどのささやかな扉が一つ。
早朝だというのに周辺は観光客が数多くたむろしている。それらの人々との期待値との対比で、見た目のささやかさに拍車がかかっているのかもしれない。
無断侵入を防ぐためか扉はしっかりと閉められて、扉の前にはエルグ教の紋章の入った兵士が数名立っていた。
もちろん、通常の扉に比べれば大きくて立派。意匠も優れているけれど、こんなに幅広い階段は必要だったかな? と思わざるを得ない。扉の隣にはデーンとエルグ教の教会が建っている。ここはウチの所有です! と主張しているように見えて、なんかちょっと嫌な感じだ。
ウェザーに連れられて、この教会の片隅に設えられた受付窓口へと歩を進める。そこには既に数名の冒険者が並んでおり、お金を払って木札のようなものを貰っていた。
しばらくすると私たちの番だ。
薄暗い窓口からフードを被った神官の姿が見える。こちらを見ることもなく、つまらなそうに「ギルド名と責任者。それに1500クルール」と業務的に述べて手を出してきた。
「1500クルール!?」私は驚いてちょっと大きな声を出してしまう。1500クルールといえば大金だ。高価だと思っていたこの街で求めたマントが1着380クルールもした。これだって、ひと家族が余裕を持って1ヶ月暮らせるお金である。
私の驚きにフィルさんが「入場料は500クルールよ。あとは怪我して帰ってきた時の治療費だから、無事に帰って来れば750クルールは帰ってくるわ」と説明してくれる。
「、、、あとの250クルールは?」単純に計算が合わないのだけど。
「あとの250クルールは無事に帰ってきたことを神に感謝して、寄付ってことになるわね」自分の所属している教会ながら、がめつい。
私とフィルさんがそんな会話をしている間に、ウェザーは窓口で「ミスメニアス。責任者はウェザー」と言って1500クルールを差し出す。するとギルド名を聞いた神官は初めてこちらを見て
「なんだ、擬人のパーティか。なら500クルール追加だ」と言い放った。
その言い草に私が抗議しようとすると、フィルさんが止める。ウェザーも黙って追加の500クルールを支払うと、神官は投げるように木札を差し出してきた。
列を離れてから「なんなんですか! あの態度!」とプリプリ怒る私をフィルさんが慰めながら歩く。
「まぁでも教会の方針からすれば、断わられないだけましなのよねー」と慣れた物だ。
私はそう言われてハッとする。この世界の人ではない者たちを、神から授かられたギフトがないと言う理由で積極的に差別したのはエルグ教なのだ。
私は少し落ち込んだ気持ちになったけれど、「気持ち、きりかえていけよ? でないとけがをする」とノンノンに注意されて気を引き締め直した。
先ほどの扉の前までに戻ってきたところで、少しだけ周辺を見渡す余裕ができた。うろうろしている人みんな観光客かと思っていたけれど、よくよく見ればそこかしこにパーティらしき集団がたむろしている。
「えっと、、、これからどうなるんですか?」私はてっきり木札をもらったら、そのまま入場できるのかと思っていたけど、どうもそうではなさそうだ。
「受付の締め切りがあってね。受付時間が終わるまでは扉が開かないの」と再びフォルさんが説明してくれた。
時間を決めているのは、入ったパーティの数と戻ってきたパーティの数を集計するためだという。つまり、帰還しないパーティがいると言う事を示唆しているのだ。そこに思い至ると緊張してくる。
ただ、本日挑戦するパーティがその日のうちに帰ってくることはほとんどない。早くても2〜3日、上級のパーティになると10日ほど”潜って”いるらしい。
異世界から持って帰ってこれるものが1つと決まっている以上、より価値の高いものを探しているのだそう。
当日帰還のパターンは、いきなり大当たりを引いた幸運な人たちか、退避可能な外れを引いた場合が多い。あとは経験豊富なパーティが探索の割りが合わないため、食料などの経費と天秤にかけて帰還するケースなどだ。
そして10日以上帰ってこないパーティは、、、先ほどの返金対象の750クルールが教会のネットワークを使って家族の元へと送られる。つまり、葬儀代というわけだ。
差額の250クルールはこの辺りの手数料でもあるらしい。単にぼったくっているわけではなかった。
「お、ウェザーじゃないか!」
私が再びフィルさんから説明を受けていると、こちらに手を上げながら近づいてくる人がいる。さらさらとした金髪と、仕立ての良い鎧。私でもそれなりの人物などだと分かる。
「カイン。やあ」
ウェザーが応じると、カインと呼ばれた青年は「ウェザーがいるなら今日は安全な星回りかい?」と気軽に声をかける。
「さあ? どうだろう。僕は依頼人の目的の扉を探すだけだからね」
「まぁ、そうだな。ついでに今日の当たりを教えてくれよ」
「50,000クルール、即金で」そのようにウェザーがいうと、両手を広げてやれやれとリアクションをとったカインは去っていく。
そんな後ろ姿を眺める私に、フィルさんが「あいつには気をつけたほうがいいわよ」とボソリといった。
私がどういうことか聞こうとした瞬間「開門する!! 木札を持つ者たちは、前へ!!」と門兵が声を張り上げた。いよいよだ。
門兵の声で、門の周辺の観光客がサッと離れてゆき、代わりに思い思いの場所にたむろしていた無限回廊の挑戦者たちが集まってくる。
そんなパーティを眺め、小さく歓声をあげ期待を込めた目で見つめる観客達。早朝からこの場所に観光客が集まっているのは、挑戦者を見にきていたのか。
私たちのパーティが広場に出ると、どよめきと嘲笑が聞こえるけれど、もう気にしない事にする。
本日無限回廊に挑むパーティは、私たちを含めてちょうど10組。
そして、ついに、入り口の扉が開いた。




