【七の扉④】078)犯人と私と移りゆく景色と。
「ぶへっ」
本当に毎回女子としてはいかがなものかと思うのだけど、今回の異世界でも私はまだ見ぬ大地へとダイブをして、いささか情けない声をあげる。
特に今回は誰かに突然背中を押されて頭から飛び込んだので、飛び出した場所が柔らかくて本当によかった。
いや、何一つ良くない。誰だ押したのは? 流石にレジーでもそんな悪ふざけはしないと思う。。。。多分。
私が飛び出した方を振り向くと、「よっと」と登場したのはレジーと、、、私が「あ」と言いかけたところで、フィルさんも大きなリュックを背負って飛び込んできた。そして、レジーの横にはもう一人、女の子がレジーに掴まれてなんとか逃げようともがいている。
その顔は見たことがある。私と口喧嘩を繰り広げた馬鹿司祭、ロデオルに侍っていた少女だ。
「離しなさい! 私を誰だと思っているの!?」
その娘は騒ぎながらジタバタするも、意外に力のあるレジーにしっかりと拘束され、その手から逃れることははできない。
「その娘は、、、?」
「うん。ニーアちゃんを押した犯人。逃げようとしたからそのまま連れてきた」と、レジー。
「なんでそんなことを、、、」言いかける私をキッと睨みつけて、
「みんなあんたのせいよ! この偽聖女め! この、、、ぐえ」と大騒ぎするも、途中でレジーが締め上げて大人しくなる。
ま、偽聖女であることは間違いないので特に否定はしないけどね、、っていうかレジー、そろそろ手を緩めてあげて。その娘の顔が赤から青に変わり始めたよ?
レジーが手を緩めて、女の子がゲホゲホ言い始めたのを確認してからようやく周囲を見渡す。
「、、、、川の中?」
私たちが立っているのは川の中洲だった。ただ、中洲と言っても小さな島くらいある広い場所。草が私の腰近くまで茂っているけれど、樹木などはないので見晴らしはいい。
で、周囲をぐるりと見渡せば、水量豊富な大河が滔々と流れている。私たちの立っている場所は浮島になっているみたいで、周辺の風景はゆっくりと流れていて趣がある。
「そういえばウェザーたちは?」
私の問いにフィルさんが少し困った顔をした。
「多分、、、扉が閉まるまでに間に合わなかったんじゃないかしら?」
「間に合わない?」
「ええ、無限回廊の扉って、一定時間人の出入りがないと閉じちゃうのよね〜」
「へぇ、初めて知りました。っていうか、押されたくらいで簡単に扉、開いちゃうんですね」
「見た目は扉だけど、次元の狭間みたいな存在なのよ〜。一応押すと開いたように見えるけど」
「なるほど、、、っていうか、そしたらここに来ちゃったの私たちだけですか!? 結構まずくないですか!?」
「大丈夫よ。帰還の扉ですぐに帰ればいいんだもの」
「あっ、そっか。なーんだ。慌てちゃいました」
私とフィルさんはのんびりと笑い合う。そうか、そうか。帰還の扉からすぐに帰ることができるんだった。帰還の扉、、、、とび、、、ら、、、?
「、、、フィルさん、、、扉、、、」
「ええ、帰還の扉で帰れるわ〜」
「じゃなくって、、、、その帰還の扉、どこですか?」
浮島は私の腰ほどの高さの草しかない。草しかないのだ。
「おかしいわね〜帰還の扉は入った場所のそばにあるはずなんだけど、、、」フィルさんも頬に手を当てながら首を傾げる。
「2人してのんびりしている所悪いんだけどさぁ」レジーが呆れたように私たちの会話に参加。
「のんびりはしてないよ、これでも結構焦っているよ」私が抗議すると鼻であしらわれる。
「十分のんびりしてるって、もう帰れないかもしれないのに」
「帰れない?」
「ニーアちゃんもフィルさんもしっかりしてよ。帰還の扉がこの浮島にない。私たちがそれに気付いたのはついさっき。この浮島はずっと川を流れてる。それってどういうこと?」
「、、、あああああ!! 帰還の扉、上流にあるってこと!? 大変! 急いで戻らないと!」
「戻るって、どうやって?」
「そりゃあ、川を渡って、、、」
「無理だよ?」
「え? 川を渡るだけだよ?」
「だからさぁ、それが無理だって言ってんの! いい。この浮島が流されるほどの水量だよ? 深さもそれなりにありそうだし、全員流されて終わりだって。なんなら試しにこの娘、川に投げ入れてみようか?」
腕を掴まれたままの少女は「ひっ」と短く悲鳴を上げる。そのくらいレジーの表情は切迫していた。
「、、、どうしよう?」
「どうしようもないよ。こいつのせいで。運よくどこかで接岸できればいいけど、それは運次第だよ。祈るしかないね。あたし、神様とか信じてないんだけど」
言いながらもう一度少女を睨むレジー。睨まれた娘は泣きそうだ。というか若干泣いている。
「まぁまぁレジー、あんまり脅さないであげて」
「何? こいつのせいで今私たち死にそうになっているんだけど? そもそも場所によってはニーアちゃん、もう死んでたかもしれないんだよ?」
「レジーが私のためにも怒ってくれているのは分かるし嬉しいけど、まずはその娘がなんでこんなことをしたのかも聞きたいし、ひとまず無事に帰るまでは休戦にしない? ね?」
レジーは少し迷ってから、少女から手を離す。
「この貸しは高くつくよ」と脅すと、少女はフィルさんの後ろに逃げて隠れた。
とりあえずその場は一旦落ち着いたけれど、本当にこれからどうしよう。
そう思いながら、私は浮島がうまく接岸してくれますようにと、祈った。




