【七の扉開】075)おかしな人たちがやってきた
「途中から私も見ていたがな、なかなか見応えがあったぞ」
私がカジノで交換した5枚のチップは、なんと200枚になった。現金にして2,000クルールと言う大金である。私は単に数字が大きいか小さいかに適当に賭けていただけなのだけど、5枚が10枚、10枚が20枚と瞬く間に増えてゆく。
一度も外すことなく50枚を超えて、ディーラーの人の笑顔が少し引き攣ってきたところで私は怖くなり、もういっそ全部負けて帰ろうと思い、フラットに賭けたのがまずかった。
この遊びは5つの棒型のダイスを投げて、数字が12までならロー、14以上ならハイに賭ける。ハイでもローでもない数字が13。これがフラット、つまり滅多に出ない数字ということだ。
「では、次の勝負を」そう言って投げ込まれるダイス。目を皿のようにしてダイスを睨む客と、思い思いに張られるチップ。対して私は気楽なものだ。ここで全部負けて退散するつもりなのだから。
「そろそろです」ディーラーの人の声が響く。ぼんやりしているうちにダイスが止まりそうだ。私以外はみんな賭け終えたみたい。慌てて私がフラットに全てのチップを置くと、私の周囲が大きくざわつく。驚いて周囲を見渡せば、背後にはたくさんの観客がいた。
後からロブさんに聞いた話だと、「着席から一度も外していない女がいる」と話題になっていたみたい。普通は勝ったり負けたりで少しずつチップを増やしてゆく遊びらしい。
私の隣に座っていた冒険者が「あんた、本当に素人かい?」となんとも言えない顔でこちらに顔を向けながらも、チラチラとダイスの動きを追っていた。
4つのダイスが止まる。残るは一つ。
「、、、、3、1、5、1、、、、おいおい、、、まだフラットの目があるぞ、、、」隣の冒険者の人がごくりと生唾を飲み込む。
「3、1、5、1、3。13のフラット。1と3のダブル」ディーラーの宣言によって、店内は今日一番の盛り上がりを見せた。
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「おかしいだろ!? 絶対におかしいって!」
思いがけずに大金を手にした私に大いに文句を言っているのは、店員ではなくレジーだ。フラットが4倍返しだということをすっかり失念していた私は、突然200枚になったチップに完全に尻込みをしてそこで止めた。
その頃には騒ぎを聞きつけた2Fの客も何事かと集まってきて、私が何も話さぬうちに「最後まで一度も外すことなく、しかも最後はフラットを当てて5枚のチップを200枚に変えた女」という物語が、様々な人たちから語られてゆく。
レジーも何事かと降りてきて私の前に積み上がった200枚のチップを見て目を丸くしていた。私があまりにも注目を浴びてしまったので、ロブさんは丁度半分のチップを消化したところ、レジーは残り3枚となったところで撤収となった。
突然重たくなった財布を手に店を出る私たち。少し歩いたところで「ちょっと待っってくれませんか!」と声をかけられる。振り返れば強面の男性が追いかけてきている。
もしかして何かまずいことしちゃった? と私が身構える横で
「ジュニオじゃん? どうしたの?」とレジーが言う。
ジュニオ? どこかで聞いた気が?
「レジー、さんをつけなさいと言っっているでしょう? 目上には最低限の敬意を払いなさい。さもなくば預けた3枚のチップ。没収しますよ」と返す。
ああ、ジュニオって入り口の人とレジーが話していた時に出てきた名前か。ってことはオーナーさんなのかな? レジーとひとしきり言い合ったジュノさんがこちらの視線を向けたので、私は思わず謝ってしまう。
「あの、、、すみません」
「何が?」
「そのう、、、なんだか勝ちすぎちゃったので、、」
私がそのように伝えると、ジュニオさんは一瞬キョトンとしてから破顔。
「なるほどなるほど! さすが最近売り出し中のブレンザッドの聖女! レジーにも見習って欲しいものですね! いやいや失礼、私はジュニオ、あの店のオーナーをやっております」
「あ、ニーアです。初めまして。その、、、ブレンザッドの聖女っていうの止めていただけると、、、」
私がなんとかしてその恥ずかしすぎる通称を否定したいと思い否定するも、ジュノさんには逆効果。
「なんと奥ゆかしい。噂に違わぬ聖女ですね。 いや、私は貴方が勝ったことに文句を言い立てにきたのではないのですよ。勘違いされたのなら申し訳ない」
「はぁ」
「それよりも感謝も伝えにきた次第でして」
「感謝ですか?」特にジュニオさんに感謝される覚えはない。私がやったことはジュニオさんのお店に赤字を出しただけである。
「我々カジノ業界も頭打ちの昨今、いくらイカサマがないと謳っても、お客様にはなかなか信じてもらえません。ところが今日、貴方はたった5枚のチップを200枚にしてお帰りになられた。その様を見たお客さまたちは目の色を変えておりましたよ。いやー、実に良い宣伝となりました!」
「は、はぁ、、、それなら良かったです、、、」
「事情を聞いた私は、ぜひにお礼を伝えたく馳せ参じた所存です! またよろしければ私のお店にお越しください。このお店以外に3つのカジノを経営しております。ニーア様でしたらどのお店でも歓迎いたします」と一気に捲し立てる。
ジュニオさんには申し訳ないけれど、今後入店の予定はない。勝っても負けてもハラハラするので私には向いていない遊びだと思う。
「ちょっと! ジュニオ! 私には!? 私には何かないの!? ニーアを連れて行ったのは私でしょ!」とレジーが抗議するも「紹介手数料は払ったでしょう? カジノを運営する私がいうのもなんですが、君は少し自重したほうがいい」と、まさかのカジノオーナーからカジノの出入りについて説教される始末。
そんなわけでカジノオーナーのジュニオさんと知り合いになって、お金も増えた私にとっては振り返ってみれば中々充実したお休みだったけれど、この話はこれで終わらなかった。
数日後。
いつものように受付でハルウと戯れていた私。
「やっと見つけた!」という声で、ギルドの入り口に視線を向ける。
入り口には私と同じくらいか少し年若な男の子が3人。服装からすれば冒険者かな?
その中でも気の強そうな短髪の少年が一歩こちらに踏み出すと、
「見つけたぜ聖女の姉御!! どうか俺たちにその運を分けてくれよ!!」と、私の元に駆け寄ってきた。




