【幕間5-2】074)思っていたのと違った初めてのカジノ
レジーに無理やりカジノに連れてこられた、私とロブさん。
レジーに続いて入り口を入ると、中は待合室のような空間になっていてその先は見えない。部屋にあるのは小さなカウンターだけだ。
カウンターにはすごく艶っぽいけれど、すごくやる気のなさそうなお姉さんが座ってこちらを見ていた。
「やぁ、レジー、また来たの? あなたも好きね」ハスキーボイスのお姉さんに
「ディップさんは今日もだるそうだね。飲み過ぎだよ」と軽口を返すレジー。それから、それよりも、と私たちを指差す。「お客の紹介だよ。うちのギルドのメンバー」を私たちを紹介する。ディップさんはゆっくりとこちらに視線を向けて、ちょっとだけ片唇を上げた。
「いらっしゃい。あなたたちもレジーに引っ張られてきて大変ね。ま、せっかくだから楽しんでいって。1チップ10クルールよ。いくら交換する?」
つまりここは、ゲームに参加するコインを購入する場所らしい。この独特な雰囲気の中で「私は冷やかしなので1チップ分の10クルールで」などと言えるほど肝の太くない私は、「あ、じゃあ50クルールで」とお金を出すと、5枚のチップと交換してくれる。
思ったよりも軽い感触のチップ。よく見てみればどうやら木製のようだ。とはいえ、さまざまな場所に細かな彫刻が施されていてとても精巧。なるほど、偽造ができないようになっているのかと一人で納得。
「私は500クルールだ」と眉間に皺を寄せながらお金を取り出すロブさん。
「あら、あなた初心者じゃないのかしら?」
「いや、カジノは初めてだが?」
「それにしては気風の良い買い方ね」と感心するディップさんに対して、ロブさんは苦々しい顔をしながら「不本意だが、そのような約束なのだ」と言う。
これはレジーとまたつまらない喧嘩をして、今回はロブさんが負けたのだなと察する。だからここまで黙ってついてきたのか。
私とロブさんがチップに交換するのを確認すると、レジーが手揉みをしながらディップさんに近づいて「や、紹介料ちょうだい」と手を差し出す。
「仕方ないわね。じゃあこれ」と手渡されたのは27枚のチップ。つまり270クルール分である。単に連れてきて紹介した費用としては破格のように思う。
「そんなたくさんの紹介料を渡して、お店が成り立つんですか?」と素直に疑問をぶつけるとディップさんは愉快そうに笑って答えてくれる。
「普通はありえないわねぇ。今回はお店の宣伝のためにオーナーも気張ったみたい。カジノ界隈の常連にこんな風に声をかけて、常連一人につき一回だけ、新規のお客さんを連れてきたら新規客の購入額の半分が紹介料になるの、、、」
「へえ〜」
「ただ、ねぇ」とディップさんが何か言いかけたところで、レジーは「先に行くよ!」とチップを握りしめて中へと入ってゆく。私はディップさんが何を言いかけたのか気になりその場に止まると、
「紹介元の常連さんの紹介料のチップは、その日に交換できないルールにしたのよ。勝っても一旦うちで預かって後日来店した時の帰りに換金できるのよ」
ディップさんが何を言わんとしているのか、分かってきた。
「、、、、結局換金して帰ることのできる常連さんはあんまりいないってことですか?」と私が聞くと、くすくすと笑いながら「いってらっしゃい。楽しんできてね」とだけ言った。
ディップさんから進むように促されて店内へ。
店内は思ったよりも明るい雰囲気で、あまり胡散臭い感じはしない。それに、怒鳴ったり大騒ぎをしているお客さんもいなかった。なんというか、、、ちょっとイメージと違う。こうもっと、ダメな感じの空間だと思ってた。
「遅いよニーアちゃん! 連れてきた手前、私は説明しなきゃいけないんだからのんびりしないでね!」などと言うレジー。なるほど、カジノの案内やゲームの説明まで常連に任せるわけか。これでレジーが負けて帰れば、このお店のオーナーは一銭も使わずに新規客の案内まで任せることができることになるなぁ。結構やり手なのかも。
私が益体もないことを考えていると、「ほら! ぼーっとしない!」とまた怒られた。
「このお店は1階がちょっと遊びたい人たち向け。2階は私のような玄人が出入りするフロアだから、ニーアちゃんやロブさんは立ち入らない方がいいよ」
、、、玄人というのは、ある程度勝ち負けをしている人のことを言うのではないのだろうか? 少なくとも私はレジーが勝っているのをほとんど見たことがないのだけど。
「1階にあるゲームは主に3つ。ダイス、ルーレット、ウィグラット。ウィグラットはルールが少し複雑だから初心者にはお勧めしないよ。最初はやっぱりダイスが無難かな。こっちへおいで」と、人々が集まっているテーブルの一角に連れていかれる。
テーブルの真ん中に大きな半円の穴があり、みんなその穴を注視していた。私も覗き込むと、中ではコロコロと横長の棒状のダイスが5つ、転がっている。どういう原理なのか、穴はゆらゆらと上下左右に揺れていてダイスはなかなか停止しない。
しばらく眺めているとようやく全てのダイスが停止。お店の店員さんと思しき人が「2、2、4、3、3。14、ハイの2と3のダブルです」と宣言すると、小さく喜ぶ人と、ため息をつきながら天井を仰ぐ人に分かれた。
「見ての通り、5まで書いてある5つのロールダイスを振って、合計が12までならロー、14から25までならハイ。ハイとローどちらかに賭けて当たればチップが増えるよ」
「13は?」
「フラット。滅多に出ないけれど、フラットに賭けると倍率アップ。あとは同じ数が何個出るかで他の賭け方もあるけど、とりあえずこっちはあまりに気にしなくていいよ」
「ふーん」
「分かった? ロブさんもダイスでいい? そろそろ私は2階に行くから、、、」
「いや待て、せっかくきたのだからルーレットやウィグラットも試してみたい。説明してくれ」というロブさんに、レジーはものすごく嫌な顔をするも、ちゃんと説明はするようだ。
「ニーアちゃんはどうする?」
「私は覚えきれないと思うから、このダイスってゲームで遊んでみるよ」
「そう、もしチップがなくなったら、向こうのカウンターで休憩してて。チップと一緒に渡された紙切れ、それがあればドリンクが一杯無料だから」
そのように言い残すと、ロブさんを連れて別のテーブルへと去ってゆく。
「お嬢さんは、初めてですか? うちはイカサマもありませんから、ごゆっくりお楽しみください」
店員さん、ディーラーと言うらしいけど、ディーラーの人からそのように言われ、私はドキドキしながらテーブルに着く。参加する人たちが着席し終わるのを待って
「では次のゲームを始めましょう。最初の1つ目のダイスが止まる前までにハイ、ローをお選びください」と、ダイスを握りしめた。
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それからしばらくして、レジーが夢破れて私のところに戻ってきた頃には、なぜか私の前にはたくさんのチップが積み重なっているのだった。




