【幕間5-1】073)レジーの猫撫で声は大体ろくなことがない
「ニ〜アちゃ〜ん、あーそーぼ!」
完全に何か企んでいるレジーが、わざわざ私の部屋までやってきて、ノックと同時にそんな声を上げた。
本日のお休みの順番は私とレジーとロブさんだ。予定もなく暇だけれども、レジーに付き合うつもりがあるかはまた別の話である。
私は小さくため息をついて扉を開ける。するとそこにはレジー以外にロブさんが立っていた。
「あれ? ロブさんも一緒ですか? てっきりお金の無心かと思ったんですけど」
つい本音が溢れると、レジーが不満そうに口を尖らせる。
「ちょっと! ニーアちゃんそれはひどくない! 私だって傷つくんだけど!」
「ごめんごめん」
「許さないから! 私今、泣きそう!」と目を潤ませるレジーに私は慌てて
「悪かったってば、どうすれば許してもらえる?」と思わず口走ってしまった。
私の言葉を聞いたレジーは、我が意をえたりとばかりにニヤリとして、「今、なんでもするって言った?」と勢い込んでくる。いや、なんでもするとは言ってないけど、、、
「やっぱりニーアちゃんは優しいよね! ありがとう! やっぱり持つべきものは優しい友人だよ!」
「いや、あの、レジー、、、」
「そしてきっとニーアちゃんはすぐに意見を翻すようなひどい子じゃないって信じているんだ!」
畳み掛けてくるレジー。その背後ではロブさんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。これは完全にレジーに陥れられた表情だ。
「だからね、レジー、、、」
「ここでニーアちゃんに裏切られたら、私生きていけない」などと言いながら、わざとらしくヨヨヨと泣き真似をする。これは私が折れるまで続くやつだ。とりあえず要件だけでも聞いてみよう。
「はぁ〜、もうわかったよ。でもお金は貸さないからね。それで、要件はなんなの?」
「うん、実はね、新しくできたカジノに一緒に行ってほしいんだ!」
予想はしていたけれど、碌でもないお願いをされた。
その後少し抵抗して見せたけれど、いつにも増して食い下がるレジーに、私はついに折れる。
「全然賭けなくてもいいんだよ! 1ゲーム10クルールから遊べるから、1ゲームだけやったらあとは適当に時間を潰してくれればいいよ!」
「えー、めんどくさいなぁ。なんでレジーはそんなに私たちを連れて行きたいの?」
「実はね、新規店だから宣伝したいらしくて、お客さんを連れていけば私には紹介料のチップがもらえるんだよ! 今月はもうお小遣いがなくて!」あどけない笑顔でまぁまぁダメな発言をするレジー。
それでもお金を貸してほしいと言わないだけマシなので(後から聞いたら借金はフィルさんに禁止されていたらしいけど)、仕方なくレジーに付き合うことにした。まぁ、カジノにも少しだけ興味がある。
私が住んでいた村にはカジノなんてなかったし、そもそも一応、本当に一応、聖職者だったので。
気だるそうな雰囲気が漂う、日中の飲み屋街を3人連れ立って歩く。
「けど、カジノの新店って、そんなにカジノってたくさんあるの?」
「うん。小さいのも入れれば普通の街よりもずっと多いかなぁ」
まぁ、多少は分かる。無限回廊自体が博打みたいな存在なのだ。そんなところに群がってくる冒険者という人たちなのだから、地に足をつけた生活など望むべきもない人たちも少なくない。
レジーによれば冒険者以外にも需要は多いらしい。まずは観光客。この街の最大の観光地は無限回廊の入り口だけど、挑戦するわけでもない人たちが長時間いて楽しめる場所ではない。冒険者パーティを送り出したら高台からの見晴らしの良さを楽しむくらいが精々だ。
タイミングが良ければ、一攫千金を手にした冒険者の帰還というシーンに出会うこともあるかもしれないけれど、基本的に景観などの側面では見るべきものは少ない。
そうなると必然的に、充実した品揃えの各店舗を冷やかすか、美味しいものを食べるか、あとはカジノで遊ぶか、らしい。
他にも冒険者を雇って無限回廊に挑戦するお金持ちの中には、自分は扉へ向かうことなく、パーティの帰りを待つ人も結構いる。そんな人たちの格好の暇つぶしとしてもカジノは手頃な受け皿となっている。
「お金持ちが出入りするから、表向きはかなり健全だから安心して!」というレジーだったけれど、”表向き”という言葉に全く安心できない。
そんな風にレジーにこの街のカジノ事情を聞いているうちに、お目当てのお店が近づいてきたらしい。
「ここだよ! やぁブリッツ! 今日もご機嫌な髪型だね!」
顔と同じくらいの長さの髪をツンツンに立てた門番の人に、気軽に声を掛けるレジー。
「おう、レジーか。こないだ負けてスカンピンだって言ってなかった?」
「ふふーん。今日は紹介特典でチップをもらって、この間の負けを取り戻すさ!」
「へえ、まぁ、頑張ってな」と言いながら、ブリッツと呼ばれたその人は、私とロブさんに視線を移して、ジロジロと品定めをする。
やな視線だなと思う間も無く、レジーがブリッツの後頭部を叩いた。
「痛えな! 何するんだ!」
「何するんだはこっちのセリフだよ! 新規客に失礼を働いたらジュニオに怒られるんじゃない?」
「なんだよ? 旦那にチクるつもりかよ」
「さて、どうしようかなぁ。いくら払う?」
「は、ふざけんな!」
「よし、交渉決裂だね。ちゃんとジュニオに伝えておくよ」
有無を言わさぬレジーに、ブリッツは慌てる
「待って、わかった、これでどうだ?」と財布から数枚のコインを出した。
「これだけ? しけてるなぁ」
「勘弁してくれよ、、、」情けない顔をするブリッツ。心なしか髪の毛も垂れ下がったように見える。
「ま、仕方ないなぁ、一つ貸しね! それじゃあニーアちゃん、ロブさん、行こうか!」
入り口に入る前のやりとりで既になんとも言えない気分になり、正直少し帰りたい私たちをレジーは元気に扉の中に誘ったのだった。




