【六の扉閉】072)家に帰るまでが旅行です。
というわけで帰ってきました。私。ギルドに。お家に。
「おや、みんな、おかえりだね? 楽しかったかね?」
「セルジュさああん! 聞いてくださいよ! 大変だったんですから!」
ソファで寝ていたハルウを抱き寄せて思う存分撫でながら、セルジュさんにことの顛末を話す。
「、、、それで、ジーノさんのギフトで道案内をしてもらって、ようやく戻ってこれたんですよ! あ、そうそう、ジーノさんとゲオルさんて夫婦だったんですって、知ってました!?」
「ニーアちゃん、元よ、元」パタパタと片付けをしながらフィルさんが訂正。
「あ、そうですね。でもすごく意外でした! あの2人が、、、」そんな私の言葉に、フィルさんは一旦手を止めて、ソファへとやってきた。
「ジーノさんて今は存在感のある人だけど、昔はすっごい美人だったらしいわ。聞くところによれば、ゲオルさん以外にも何人かに求婚されて、ひと騒動あったとか」
「はー、人に歴史ありですね」
「ええ、ジーノさんは遠隔地からも情報を送り届けられるギフトがあるから、その容姿と相待っていっつも案内は予約待ちだったとか」
確かにあのギフトを使いこなせるのであれば、すごく便利だと思う。そうやって案内ギルド中でも大手になっていったんだなぁ。
「毎年こうして長期のお休みは、日程を合わせているみたいだから、なんだかんだといい距離でお付き合いしているみたいね」話がひと段落したところで、「ニーアちゃんも早く片付けしてきなさい」と母親のようなことを言われて、私は「はーい」と自室に戻る。
自室に戻る途中、珍しい人物がいた。私の手のひらくらいしかない小柄な体躯。滅多に部屋から出てこない双子の一人、ハーモだ。
ハーモは別に子供だから小さいのではなく、成人でこの身長なのだそう。つまり、ハーモともう一人のモニーも、本来はこの世界の人間ではないということだ。
2人が滅多に部屋から出てこないのは、この体格にもある。下手にうろついていると、片手で攫われかねないのである。そうでなくても内向的な2人なので、ウェザーの依頼でもなければほとんどを部屋の中で過ごしている。
「あれ、ハーモさん、珍しいですね」私が声をかけると、黒目の大きな瞳をキョロんとこちらへ向ける。ちなみにハーモさんは”自分の方が年上なので”とさん付けをしないと不機嫌になる。初めて会った時にちゃんづけをして怒られた。モニーちゃんの方は全然気にしないみたいで「ちゃんでいいよ」と言っていたけれど。
「やあニーアさん。ちょっとお使いに行ってきたんですよ」
「買い物ですか? 一人で?」
「買い物ではないですよ。ウェザーに留守中に頼まれていたことを少々。先ほどまでモニーも一緒だったのですが、先に部屋に戻りました。私はウェザーに報告をしていたもので」
「そうだったんですか。そうだ、たまにはみんなでお夕食を囲みませんか? 今回の扉でも色々あったんですよ!」
「お誘いはありがたいのですが、私たちも少々疲れておりまして。またの機会に」
やんわり断られるも、確かにウェザーに何か頼まれていたというし、強要するような話でもないので私もあっさり引き下がる。
「わかりました。じゃあまた今度! 約束ですよ!」
「ええ。それでは」ペコリと頭を下げてちょこちょこと廊下を進んでゆくハーモさん。私もあんまりのんびりしていられないので、すぐに自室へと入った。
翌日のことである。ゲオルさんがやってきた。
「やあニーア! 元気かね!」
「ゲオルさんは昨日の今日で元気そうですね。。。」全く疲れを感じさせないゲオルさん。対する私は正直少々疲れが抜けておらず、受付でのんびりしている最中だった。
「ウェザーはいるか?」
「ウェザーならさっき起きてきて、事務所でお茶を飲んでいると思いますよ?」
「そうであるか。ならばお邪魔する。そうだ、ニーア。お前も暇ならお茶に付き合うが良い。やはり女性がいた方が部屋が華やかだからな!」とガハハと笑うゲオルさん。暇だから良いですけどね。
ウェザーに来訪を告げると、私はお茶の準備を始める。本日はフィルさんはお休みの日なので、お出かけしている。ロブさんの彼女、リリーさんとお菓子を作るのだそう。リリーさんはロブさんのために作るのだろう。
しかしフィルさんはお菓子も作れるのか。女子力的なもので何か色々負けている気がするので、せめてお茶くらいはちゃんと入れたいものである。などとしょうもないことを考えながらお茶を入れていたら分量を間違えた。
「む!? 苦み走っているな!」
なかなか大人向けな味わいのお茶になったけれど、まぁゲオルさんなら気にしないかとそのまま出したら「良いか、ニーア、お茶というのはな、、、」と急遽お茶のいれかたの講釈が始まった。そういえばゲオルさんのギルド、センス良かったなぁ。意外にお茶にはうるさいみたい。失敗失敗。
「ロブの淹れるお茶は美味いので、ロブに教わると良いぞ!」と締める。確かにロブさんの入れるお茶は美味しい。今度ちゃんと聞いてみよう。なお、そのロブさんはフィルさんとリリーさんのお菓子作りが気になるらしい。ソワソワしながら出かけて行った。
「それで、今日は何しにきたの? ゲオルさん」
話が落ち着いたところを見計らって、ウェザーが本題について話を促すと、
「おお、そうであった。ウェザーはこれ、いるかの?」と懐から取り出したのは、古い腕輪のようなものだった。
「これは?」
「昨日の異世界から持ってきたのだ。元々は髑髏のそばに埋まるように転がっていたので、ひとまず腰につけていたのだが、そのまま忘れて持ってきてしまったのだ」
ジーノさん達も私たちも特に異世界から何かを持ち帰ることがなかったので、結果的にこの腕輪が土産となったようだ。
「多分あの島で朽ちた冒険者のものだと思うが、調べるのも面倒でな。ジーノにも聞いたが要らんというので持ってきた」
「へえ、ちょっと見せてもらっていい?」
「うむ」
ゲオルさんから腕輪を受け取ると、しばらく眺めるウェザー。
「うん。既製品ではないみたいだけど、本当にいらないの?」
「うむ。要らぬ。もしも持ち主につながるような記録が大図書館にあったら、縁者に返してやってほしい」
「ああ、むしろそっちが希望なのか。それはジーノさんも面倒臭がるよね、、、ま、いいよ。何かのついででよければ、ちょっと調べてみるよ」
「そうしてもらえると助かる。記録が見つからなければ売り払ってもかまわんぞ!」
そのように言いながら肩の荷が降りたような顔をするゲオルさん。お茶をぐっと飲み干すと、「休み明けは仕事が詰まっておるのでな、もう戻らんと」と立ち上がる。
それから部屋を出ようとしたところではたと止まって、「忘れとった」と振り向くと、
「そういえばポルクが言っておった。ロビーが帰ってくると手紙があったそうだぞ」と言う。
それを聞いた瞬間、
「えっ、ロビーさんが!? それじゃあ、、、」
ウェザーが珍しく驚きをあらわにしながら立ち上がった。




