【六の扉⑨】071)放火魔のせいでえらい目に遭う
島が生物だった場合、これ以上刺激するのは危険。弱っている今のうちに撤収するべき。ウェザーとゲオルさんの意見が一致したので、このまま大人しく帰ろうとした矢先、重要な器官と目された大木(?)を嬉々として燃やし始める放火魔ウェルさん。
私たちが呆気に取られている間に、あっという間に炎の中で崩れてゆく大木。
「ウェルよ、、、」流石に嘆息しながらウェルさんに声を掛けるゲオルさんだったけれど、「またか、、、」と続いたのでいつものことらしい。ウェルさんの危険度合いが私の中でまた一段上がった。
「燃やしてしまったものは仕方ないね。それならそれで、この後どうなるのか興味深い」と探究心を前面に押し出してくるウェザー。
「、、、、じめん、震えているぞ?」ノンノンの言葉でみんな一斉に地面を見る。大穴の空いた足元は、言われてみれば確かに僅かに震えているようにも感じる。
「何が、、、」誰かが呟いた瞬間、ぐるんっ! と地面が急回転! 今までのように、なるべく私たちに気づかれないようにという配慮は全くなし、私は遠心力で横に飛ばされそうになり、隣にいたノンノンが支えてくれる。
「ありがとう」とお礼をいう間も無く、地面は右へ左へとめちゃくちゃに回転を始め、立っていることすら難しい。どうにか周囲を確認すれば、広場の周辺もすごい勢いで動き回っているのが周りの木から分かる。これ、結構やばくない!?
「水が!」ぐわんぐわんと揺らされる中、誰かが叫んだ。
地面から水が染み出してきたのだ。「、、、これは、海水だね」と冷静に判ずるウェザーだったけれど、それはつまり、、、、
「もしかすると沈むなぁ、少なくとも広場はダメそうだ」と聞きたくなかった答えが。放火魔め!
「とにかく逃げるしかなかろう! ニーアのさっきのやつはできるのか!?」ゲオルさんに声に、ウェザーが反対。
「連発が難しいし、この状況だと跳ぶ場所が予測できないのは危険だ。自力で逃げたほうがいい!」
ウェザーの言葉はもっともだけど。私には困ったことがある。
「ウェザー、私、こんな状況の中動けないかも!」
左右に振られまくって、ノンノンに支えられて立っているのがやっとなのだ。ましてゲオルさんの一撃で大穴が空いて、すり鉢状になっているので脱出できる気がしない。
「なんだそんなことか。ウェザーはどうだ?」ゲオルさんが全く仁王立ちのままこちらを見てニヤリとする。
「実は僕も結構厳しいんだ、、、あんまりその選択肢は取りたくなかったけど、頼めるかい?」
、、、頼むって何を? 待って待って、なんか嫌な予感がする!
相変わらず地面は忙しなく回転しているというのに、全く影響なさそうにこちらへ近づいてくるゲオルさん。
怖い怖い! その笑顔が怖い!
身動きの取れない私はむんずと掴まれると
「そおい!!!」
と、ノンノンに捕まったまま、思い切り空中へとぶん投げられた!!
「ひやあああああ」自分で覚悟を決めて跳ぶのとは全く違う状況に、悲鳴を上げながらくるくると空中を舞う私。
それでも一緒についてきてくれたノンノンが着地を手伝ってくれて、どうにかこうにか着地する。着地した場所の地面の動きは緩慢だったけれど、そのすぐ隣は、人3人分くらいの範囲がものすごい勢いで回転していた。なるほど、さっきまではこんなふうに部分的に回転して方向感覚を狂わせていたのか。
「そういえば、猿はどうなったんだろう? 逃げたのかな?」
「いや、いるぞ。ほら、そことか」
ノンノンが指差す場所をみれば、猿が数匹、震えながら木にしがみついて回転に耐えている。とてもこちらに気を配る余裕はなさそうだ。なんだかちょっと可哀想な気もする。
そんな猿を眺めているうちに、ウェザーがすぐそばに投げ飛ばされてきて、次いでゲオルさん達がやってきた。
「やれやれ、参りましたね」爽やかな顔で言い放つウェルさん、ちょっとニーア棒で殴ってもいいかしら?
「しかし、ここからどうするか。これだけめちゃくちゃに地面が回転しては、真っ直ぐに進むのもままならんぞ、ジーノがいれば良かったのだが、、、」
「ジーノさん?」
「うむ」ゲオルさんが何か喋ろうとする鼻先へ、ふわりと泡の玉が漂ってきた。
「お、噂をすれば、であるな」ゲオルさんが指先で泡の玉をチョンとつつくと、簡単にはじけた泡の中から、
「何やってんだい!! あんたらは!!」
と、思わず首をすくめてしまうようなジーノさんのお説教が飛び出してきた!
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「ななな、なんですか!? 今の?」びっくりして思わず後ずさった私に、ゲオルさんは愉快そうに「これがジーノのギフトである」という。
「ほれ、そこにも」ゲオルさんの視線の先には、泡の球が一直線に並んでふわふわと浮いていた。
「ジーノは泡の中に声を閉じ止めて動かせるのだ。何かあった時にとても便利な能力である」
「確かに便利そうですね、、、あ、じゃあ、この泡を辿っていけば、、、」
「うむ。元の浜辺に戻れるであろう。では、行くとするぞ」ゲオルさんを先頭にして、私たちは泡を辿って歩き始める。
「ぼんやりしてるんじゃないよ!」
「全く鈍臭いね!」
「ちゃっちゃと歩きな!」
泡が弾けるたびにジーノさんのお説教が鳴り響く。
「、、、他に入れる言葉、なかったんですかね?」道標としては大変ありがたいが、ずっとジーノさんにお説教されながら歩くというのはなんとも微妙な気分だ。
「でもさニーア、「大丈夫かい?」「足元にきをつけて歩きなよ」なんて優しい言葉を入れるジーノさん、想像できる?」
「、、、、できない」ジーノさんには悪いけれど、そんな言葉が並んでいたら裏がありそうで恐ろしい。
「でしょ」
そんな無駄話をしながら歩いていると、程なくして林の向こうに海が見え始めた。広場から離れるほど、地面の動きも確実に鈍くなっている。今はポツンポツンと部分的に動いているのが見えるばかりだ。
そして、林を抜け、
「戻ってきたああああああ!!」
私は喜びのあまり飛び出して、そのまま砂浜へ転がり出た。
「ああ、良かった〜、ニーアちゃん大丈夫? 怪我はない?」こちらに駆け寄ってきてくれるフィルさん。似たような名前なのに、ウェルさんとは安心度に天と地ほどの違いがある。
「フィルさあ〜ん! 大変だったんですよ〜!」
フィルさんのもふもふ感を堪能しながら、出来事を説明する私。
「あらあら」と頭を撫でてくれるフィルさん。優しい。
「ジーノさん、助かったよ」ウェザーはジーノさんへお礼を言っている。
「ふん。馬鹿どもを助けるために、無駄に力を使っちまったよ! アタシはもう寝るよ!」とズンズンとテントの方に戻って行ってしまった。
「ジーノさんらしいわねぇ。さっきまであんなに心配していたのに」
「そうなんですか?」今の態度からは想像ができない。
「そうよ〜。ま、ゲオルゲガーさんへの信頼があるから、ギリギリまで様子を見ていたけどね〜。さすが元夫婦よね」
ん? 今なんて?




