【六の扉④】066)猿、さる、サル!
「面倒だね! あたしゃ行かないよ!」
夜になっても戻ってくる様子のないゲオルさん達に、流石に皆心配し始め、探索隊の手配を相談する中、ジーノさんが高らかに宣言する。
「でもジーノさん、心配じゃないですか? だってここ、人喰い孤島ですよ!?」
「心配するだけ無駄ってもんさ。ま、いい。好きにしな。私は明日も休日だ」
言うだけ言うとさっさとテントに戻るジーノさん。それを見ながらフィルさんが「あらあら」と頬に手を当てながら「仲良しなのにねぇ」と呟く。仲良しなのかなぁ。でも一緒に休暇を取るんだから仲良しなのか。
私がそんなことを考えている間に、着々と捜索隊のチーム分けが決まってゆく。「ニーアはどうする?」ウェザーに聞かれて、私は足手まといにならないか少し迷ったけれど一緒に行くことにした。
捜索は翌朝早朝、5つのチームに分かれて行われることになった。私のチームはウェザー、ノンノンに加えてウェルさんとビーツさんという冒険者の5名体制だ。レジーやロブさん、フィルさんは浜辺で待機。それでも半分以上の人たちがゲオルさんの探索に参加する。
「それじゃあ、フィルさん、後は頼むよ」とウェザーが言い残し、私たちは人喰いの孤島の内部へと足を踏み入れた。
「藪が凄いですね。いっそ燃やしますか?」綺麗な顔をして物騒なことをさらりと言うのは、ウェルさんだ。冒険者ギルド「ドフィーネ」でも有数の炎の加護の使い手らしい。
本人がその気になれば、この藪一帯は簡単に火の海になると笑っていた。最近気づいたのだけど、ギルドの人たちのジョークは笑って良いものか迷うものが多い。
「まぁまぁ、俺が先頭で道を作るから」とウェルさんを宥めるのがビーツさん。岩のようにむっくりした体格に、ウェルさんとは対照的なゴツゴツした顔つきだけど、表情はおっとりとして優しげだ。
ビーツさんは体を鉄のように硬くするギフトを持っていて、現在も先頭でバキバキと枝を折りながら進んでくれているので大変助かる。
「しかし、ゲオルさんはどっちに向かったんでしょうね?」
私は周囲を見回しながら言った言葉に
「ゲオルさんは嗅覚みたいなもので動くからなぁ。本当に予想がつかない」とウェザーが苦笑する。
「それでももし本当に迷っているのなら、水辺にいる可能性は高いと思う。何せほぼ手ぶらで藪に入っていったからね。水分くらいは確保する必要がある」
「そうですね。では、水辺を探しましょうか」ウェザーとウェルさんの意見が一致したことで、私たちは水辺を探すことにする。
と言っても、今回はハルウはいない。小川のせせらぎなどを聞き逃さないように気をつけながら先へ。
孤島というから小さな無人島かと思ったけれど、思った以上に大きな島だ。目に鮮やかな花が咲いていたり、銀色に輝く虫が木に止まっていたりと目を引くものも多い。
ずっと昔、この島に降り立った人たちも、最初はこんなふうに珍しいものに一喜一憂していたのではないだろうか。
「、、、しせんを感じる。きをつけろ」
ずっと黙って一番後ろを歩いていたノンノンが警戒を口にしたことで、一気に緊張感が高まり「燃やすか?」とウェルさんが武器を構える。わかった、この人まぁまぁな危険人物だ。
そのままの状態で様子を伺うことしばし。ノンノンが挨拶代わりとばかりに威力のない電撃を一行の上へ向けて放つと、「きいっ」と獣の声がして、何かが枝を飛んで逃げた。
「猿!?」
それほど大きな体つきではない。ノンノンよりも一回り小さいくらい。思ったよりも危険性はなさそうだと少し肩の力を抜いた瞬間、私たちの視界にその猿が何かを握っているのが見えた。布切れに見える。無人島で、、、布切れ? もしかして、、、
「ききゃっ」
猿が持っているものがなんなのかはっきり確認する前に、猿は枝から枝へと飛び移り、わたしたちから逃げ出した。
「逃すわけにはいかないな! ビーツ!!」
「ああ、任せろ!」
ウェルさんに声をかけられたビーツさんが加速を始めると、びっくりするほどの速さで道が造られてゆく。
「ノンノン、狙えるかい?」
「ちょっとむずかしい」
走りながらではノンノンも正確に狙うことができないみたいだ。猿は時折こちらを見ながら、「きゃっきゃ!」と楽しそうに逃げてゆく。見方によっては少し揶揄っているようにも見えて腹立たしい。
「なんだか誘導されているみたいだ。気をつけたほうがいいかもしれない」
ウェザーも何か違和感を感じたみたいで、少し表情が険しい。
「だからと言って放っておくわけにも行かないですね。とりあえず追いましょう。最悪燃やします」隙あらば火の海にしようとするウェルさんに引っ張られるように、私たちは猿を追って島の奥深くへと進んでゆく。
「あれ?」
なんだか先を走る猿がぼやけたように見えた。最初は気のせいかと思ったけれど、やっぱり猿の姿がゆらりと揺れている。
「なんか変じゃない?」
「そうだね。ビーツ、ウェル、流石に一旦止まろう。様子がおかしい」
ウェザーの言葉に、ひたすらに道を切り開いていたビーツさんが減速してようやく止まる。私たちが立ち止まったのを確認した猿は「キキー」と一度叫んで、森の中へと姿を消した。
「なんだったんだ、、、」訝しげに猿が消えた方向を睨むウェルさん。
「僕らは随分と先行しているみたいだ、、、一度戻って他の探索チームと合流してから進んだほうがいいかもしれない」ウェザーの提案に誰からも異論は出ない。
直後、ノンノンが「あれぇ?」と、ノンノンにしては珍しい、キョトンとした声を上げる。
「どうしたの? ノンノン?」
ノンノンのいる方を振り返った私も、すぐに違和感に気づく。
「え? なんで?」
私が振り返った場所、本来はビーツさんが切り開いた道があるはず。なのに道どころか、折れた枝一本ない藪が広がっていた。




