【六の扉②】064)姉への手紙
「うみーーーーーー!!!!!!」
突き抜けるような青い空、白い砂浜、透き通った海。海へと駆けてゆくレジー。
私たちは今、ゲオルゲガーさんとジーノさんの両ギルドの依頼で、両ギルドの夏休みのために異世界に来ている。扉を開けた先にあった風景はご覧の通り、文句のないロケーションだ。
砂浜はカーブを描いてずうっと伸びて、どこまでも海と空の線引き役を担っている。時折海から小魚らしき生き物が跳ね、わたしたちを歓迎しているようにさえ感じる。
「おおっ、やっぱり海はいいな! お前ら、バーベキューの準備を始めろ!! おい、酒は後だ! まずは肉を焼け! 肉だ!」
自分達で持ち込んだ肉と酒に群がる、ゲオルゲガーさんのギルド、ドフィーネの人たち。
「あれだけ山だ山だって騒いでいたくせにね、、、さ、あんたら、のんびりするよ! 椅子と敷物を用意しな!」ジーノさんの号令で、砂浜に快適環境を作り始める紅翼団の人たち。
先ほどまで波の音だけが包んでいたであろう海辺は、一転、狂騒の渦中へと変わる。
そんな両ギルドを眺めながら、私の横で「毎年のことながら、騒がしいなぁ」というウェザー。
今回の参加パーティーは、トッポさんとハルウ、セルジュさんと引きこもりの双子以外の全員。トッポさんはあまり暑いところは得意ではないとのことで、進んで留守番を申し出てくれた。
ハルウも興味がなさそうなっだったので、セルジュさんと共にトッポさんの相手をしてくれる。
「それにしてもウェザー、よくこんなところ見つけたね」
「まあちょっと、この間面白い記録を見つけてね。行ってみたいと思っていたから丁度よかったんだ」
「へぇ〜、どんな記録?」
「ニーアは見なかったかな、ほら、、、、」
「おい、しゃべっていないで2人も手伝ってくれ!」
私たちがそんな会話をしているうちに、フィルさんやロブさん、ノンノンが大きな日傘やシートを準備してくれている、そのうちのロブさんから声が飛んできて、慌てて手伝いに走った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「だははは! 食え食え!! 飲め飲め!! おいレジー! 食っとるか!?」
「もちろんだぜゲオルの旦那! あっそれ、私が焼いているやつ! ロビンソン! 取るなよ!」
「やだね! 取っておきたければ名前でも書いとけよ!」
「なんだとぅ! じゃあ、こっちの肉、もーらい!!」
「ああっ、それは俺が大事に育てていたんだぞ!」
「、、、、、元気ねぇ」
ゲオルゲガーさん達とちゃっかり相伴に預かっているレジーの肉の取り合いを眺めながら、寝っ転がったフィルさんがのんびりと呟く。私もフィルさんと一緒に潮風を感じながら休憩。
前回、初めて異世界で海を見たときは触れることもなかったけれど、今回はしっかり海に足を踏み入れてみた。波の感触が面白い。ちょっと舐めてみたら、噂に聞いたようにとてもしょっぱい。これが、海か。
「お姉ちゃんにも見せてあげたかったな」
思わず言葉になって口からこぼれた。それを聞いたフィルさんが
「そういえば手紙、返したのかしら?」と聞いてくる。
私から手紙を出そうか、なんと書こうか悩んでいるうちに、お姉ちゃんの方から手紙が届いた。元気ですか、ちゃんと食べていますか、私は無事に村まで帰ってきました、そんな文章から始まった手紙は、徐々に困惑の様相を呈してくる。
『村に帰って、言われた通りに託された手紙を司長に渡したら、司長と統括長が慌ててやってきて、今回の功績を讃えてどこかの教会の司長にならないか? なんて言ってきたんだけど、、、断ったら今度は急に待遇が変わって、すごく戸惑っているのだけど? あの手紙には何が書いてあったの?』とあった。
司長達には無事に伝わったようで良かった。けれど、何が書かれているかは教えることはできないなぁ。いつか、時間が経ってからこっそり教えてあげよう。
『それから、帰りの道中で無限回廊は私が思っていたよりもずっと危険な場所だったと聞きました。多分大丈夫だと思うけれど、危険な場所に行ったり、危ない思いをしていないよね? ニーアはあんまり考えなしに行動したり、発言することがあるから心配です』
さすが我が姉である。つい最近、教会の偉い人と口喧嘩をしたうえ、巨大生物の口に押しつぶされそうになりました。
さすがに『つい最近この街の司長を怒らせて、ひくに引けなくなった上、異世界で死にかけたよ!』とは手紙に書けない。
私が手紙を出すのを逡巡しているのはまさにこの点で、私が体験したとこをそのまま書くには、姉には、というか客観的に見れば危険すぎると気づいたのだ。
「とりあえず無難な返事はしておいたので、返信が来るまでに何か考えます、、、」
「そう、、、もういっそ正直に言っちゃえば?」
「姉が卒倒するかもしれません」
「うーん。難しいところねぇ」
「あれ、そういえばウェザーとノンノンやロブさんは?」
さっきまでバーベキューから串を持ってきてもぐもぐしていた3人が、いつの間にか見当たらない。
「ああ、ロブさんは多分変わった食材がないか探しに行ったんじゃないかしら? あ、そうだ。ニーアちゃんも早めにお腹いっぱいになっておいてね。暗くなってからだと、ロブさんが何を料理し始めるかわからないから、間違って食べたら大変よ」
「、、、それは恐ろしいですね。ちょっとお肉もらってきます」
それこそお姉ちゃんへの手紙には、間違っても書けないようなことになりかねない。私は慌てて立ち上がって、お肉を分けて貰いに向かうのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その夜。
「あ! ロブ、てめえ! 何入れやがった!? なんか変な味がしたぞ!」
「安心しろ、試しに食べたが毒はなかった」
「入れんなって言ったろ!!」
「うむ。もう少し味を整えれば旨くなるぞ」
「え!? 旨くなるのか? よし! やってみろ!」
酔っぱらい達がロブさんの料理で大騒ぎしているのを見て「うわぁ」と喉から声が出た。先に食べ物を確保しておいて本当によかった。
「よく未知の食材を食べますね、、、」
「まぁ、ここにいる人たちは全員、歴戦の冒険者だから、死ななきゃ大丈夫よ」とフィルさんは笑う。私はそれを聞いて改めて感心してしまう。
ここには案内ギルドと冒険者ギルド含めて、40人ほどのギルド職員がいるけれど、私以外は何度も無限回廊の中で死線をくぐり抜けてきた人たちなのだ。
現在進行形で、ロブさんの食材で死にかけている人もいるけど。
焚き火に照らされた強者達の宴を眺めていたら、海とは反対側、林の中からウェザーとノンノンが帰ってきた。
「あれだけ騒がしいと、明かりがなくても場所がわかって助かるよ」というウェザーに、「おかえり、2人のお肉も取っておいたよ」とお皿を渡す。
「ああ、助かるよ。さすがに素面でロブさんの異世界料理を食べる気はしない」そう言いながら肉にかぶりつくウェザー。
「それで、どこに行っていたの?」
「ここが記録にあった無人島で間違いないか、確認しに行ったんだよ」
「無人島? ここってどこかの島なの?」
「そうだよ。随分昔の話になるけど、ここでちょっとした事件があったんだ」
「事件?」
無人島で、事件? 私の頭に嫌な予感がよぎる。なんかそんな記録を大図書館で見た。
ーーーこの手記を書いたパーティは孤島に投げ出されたらしい。手記の主は、最初は変わった植物や生物を興味深そうに写生していたけれど、途中から様子が変わっていった。14名からなる大所帯のパーティーメンバーが次々に姿を消してゆくのである。姿の見えぬ敵に恐怖する文章が続く。ーーーー
「え? もしかして、、、、14人が行方不明になった孤島、、、、」
「あ、やっぱり読んだ? 正確には3人帰ってきているから行方不明は11人、、、」
違うよ、ウェザー。問題はそこじゃないよ?
「なんでわざわざそんな場所を、、、」
「え、気になるじゃないか。丁度手頃な人手が同行してくれるなら、原因を探ってみようかと思って」
手頃な人手って、ゲオルゲガーさんやジーノさん達のこと? ええ〜
楽しそうに言うウェザーに、今回もお姉ちゃんの手紙には書けない内容になるかもしれないなぁ、と、私は少し諦め気味に思うのだった。




