【六の扉開】063)譲れぬ争い
「今年はやはり山であろう」
「何言ってるんだい? 今年は海に決まっているだろう!」
「む、しかし去年はジーノに選択権を譲ってやったのだ。今年は俺に譲れ」
「ばか言っているんじゃないよ。去年は私が勝負に勝ったから選んだんだろ? あ、そうか、去年”も”だったかね?」
「む、たかが2年連続で勝っただけで調子に乗りおって、そこそも去年、お前らは山を希望していたではないか!?」
「はん、今年はうちの奴らは海がいいって言ったんだよ! あんたらこそ、去年は海! 海! って煩かったくせに!」
ぐぬぬと睨み合うこの街でも指折りの冒険者ギルドと案内ギルドのギルド長。ゲオルゲガーさんはもちろんだけど、案内ギルドのジーノさんも全く負けていない迫力がある。
遠くから見る分には、猛獣同士の睨み合いとしてお金を取れるかもしれない。遠くで見る分には、だけど。
この言い争いは現在、私の目の前で繰り広げられており。私の頭の中ではホルプルスに襲われた時と同じくらいの本能的な危険信号が鳴っている。
ただ、言い争っている内容は非常にしょうもない。つまり、ゲオルゲガーさんとジーノさんは「今年の夏休みは山に行こうか、海に行こうか」という話を、わざわざ私たちのギルドまでやってきて言い争っているのだ。そんなもの、好きにすればいいのに。
私はそうっとウェザーのそばへ移動すると、「なんなの?」と小さく耳打ちする。私がせっかくこっそりと聞いたのに、ウェザーは大きな声で「毎年恒例の醜い争いだよ。この人たち物好きだから、わざわざ夏休みを異世界で過ごそうとしているんだ」と2人にも聞こえるように言う。
ぐりんとこちらに視線を走らせる2匹の猛獣、ひいい。私が見定められた獲物のように身を固くすると、ゲオルゲガーさんが獰猛な笑みを見せながら
「おお、ここには丁度聖女がいるではないか! ニーア! お前はどこに行きたい!? 山であろう!?」と言えば
「ニーア! あんたは私に恩があったね。ここは海を選んで利息を少しでも返しておくのはどうだい?」とジーノさん。っていうか、ジーノさんの恩は利息がつくの? どれだけ溜まっているか聞くのが怖すぎる。
「あの、、、私はお二人のギルドの人間ではないので、そう言うのは当事者が決めたほうが、、、」
私が無難な言葉でお茶を濁そうとすると、ゲオルゲガーさんは目をきょろんとさせて、不思議そうに首を傾げる。私、何かおかしなこと言ったかな?
「ウェザー、ニーアは知らんのか?」とゲオルゲガーさんに促され
「あー、ニーア。毎年この時期、この人たちは僕らに案内を依頼しにくるんだ」
「それってつまり、、、」
「そう。僕らも強制参加のイベントなんだよ」
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私への説明で少し落ち着いたゲオルゲガーさんとジーノさん。お互いソファにどかりと座ると、用意されたお茶を一気に飲み干した。
「お休みなのに、なんでわざわざ危ない目に会いに行くんですか? 馬鹿なんですか?」
「ニーアはたまに毒舌であるな、我々にそんな言葉を吐く者はそうおらんぞ!」ガハハと笑うゲオルゲガーさんに、私は思わず口を抑える。あれ?? 気持ちがそのまま言葉になって出てた。まぁ、2人もそれほど気にしていないようなので流しておこう。
「しかしニーアも馬鹿だね。なんのために私らがこのギルドにやってきたと思っているんだい。安全な場所をウェザーに探させるに決まっているじゃないか」と、早速ジーノさんにやり返される。先ほどの暴言は流されたわけではなかった。
「ウェザー、無限回廊に本当に安全な場所なんてあるの?」聞きながらもウェザーなら難なく見つけそうな気はする。
「安全の基準にもよるよ。極端な話、こんな人たち引き連れて行ったら、入り口付近の比較的難易度の低い扉なんてどこだって大した危険はないよ」
「なるほど」すごく納得。ちょっとした危険は向こうが逃げ出す気がする。ちょっと感覚が麻痺していたけれど、無限回廊に安全な扉などないのだ。依頼主たちがおかしいだけだった。
「ただ、環境の良いところとなると面倒なんだよ」
ウェザーが言うと、2人は我が意を得たりとばかり頷く。
「まぁ、あんたらだって良いことばかりじゃないか。案内料は入るし、無限回廊の挑戦費用は毎年私たちが持ってやっているんだ、むしろ感謝してほしいくらいだね」とのジーノさんの言葉に、「頼んだ覚え、ないんだけどなぁ」とぼやく。
しかしウェザーもこの2人相手に依頼を断るつもりはないらしく、「とにかく希望の場所だけちゃんと決めてさっさと帰ってくれる?」と言うと、話し合いに参加するつもりはないと言わんばかりに、セルジュさんと遊び始めた。
「そんで、ニーア、あんたはどっちに行きたいんだい、海か、山か?」ジーノさんが再度聞いてくる。うう、答えたくない。
「個人的には、、、個人的にはですよ、、、私は海を見たことがなかったので、、、」
初めて見た海はウルドさんの依頼で行った洞窟だけど、あの時は海に触れることもなかったからなぁ。
「ほらごらんよ!」勝ち誇るジーノさん。
「でも、この間行った、滝がたくさんあるところ、、、ベティオルズでしたっけ? 安全なら、あんな場所も素敵だなぁ、、、」
「そうであろう! やはり緑というものは癒されるのである!」とゲオルゲガーさんが身を乗り出す。
「はっきりしないね! どっちかに決めな!」ジーノさんも私に顔を近づけてくる。
「「さあ!」」
誰か助けて!!
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結局最後までどちらの意見も決め手にかけ、私がぐったりした頃に、今年も厳正な勝負で行き先を決めることになった。
何をするかと思ったらくじ引きである。
これだけ揉めたのに、、、、くじ引き。。。。
レジーとロブさんの争いよりも、不毛。
こうして私たちの夏休みは、3ギルド合同で異世界の海へと遊びに行くことになったのである。




