【五の扉⑧】059)ニーア棒
小山のような2匹のホルプルスの巨体がぶつかり合う。
衝撃波と共にお互いの身体が一瞬浮いたかと思ったら、今度は長い口を振り回すようにして互いの身体にぶつけ合い始める。尋常ではない迫力だ。
両者が伸びた口を振り回すたび、周辺の木々や地面がえぐられてゆく。あまりの迫力に却って現実感がなく、私は縄張り争いか何かなのかなぁ、迷惑な話だなぁと、どうでも良いことを考えてしまう。
「ニーア!気を抜かない!」そんな私の思考をノンノンが現実に引き戻す。ノンノンの尻尾は膨らんだままだ。いつでも攻撃できる体勢のまま、ジリジリと後退している。
「ドノバンさんの様子は?」私の後ろで少しずつ進むドノバンさんと、それを支えるトラヴィオさん。
「だめだ、折れておる」とドノバンさんが冷静に自分の状況を伝えてくる。トラヴィオさんが背負えばもう少し早く動けるだろうけれど、下手に動いてホルプルスの意識がこちらに向くのが怖い。
焦れるけれど、今は確実に退避した方がいいというのが、4人の共通認識だ。示し合わせたわけではなく、本能がそう言っている。
私達がいる場所から、ホルプルスの口の届かぬ範囲までは、まだまだ距離がある。とにかく、ホルプルスの口がこちらを向いたら、私の瞬間移動かノンノンの槍で凌ぐしかない。
頼むからこっちに口を振り回さないで!
けれど私の祈りは虚しく、ホルプルスの口は私たちのそばを「ぶおん」という太い風切り音を残して通り過ぎる。
「トラヴィオさん! もう一度跳ぶかもしれません! 私の肩に触れておいてください」と伝えるも、私の能力は連発できないのだ。
この短い時間でもう一度瞬間移動できるか、ちょっと自信はない。けれど、泣き言を言っていられない状況である。
「まずい! くる!」
ノンノンの鋭い声が飛び、その正面、私たちに向かって縦にまっすぐにホルプルスの口が向かってきた!
それに向かってノンノンが「ムン!!」と槍を突き出し、槍から放たれた電撃がホルプルスの口に直撃、逆方向へと跳ね返しす!
「ごおおおおおおおお!!」と頬が震えるほどの大きさで吠えるホルプルス。
どこに目がついているか分からないけれど、明らかにこちらを睨んでる気がする!
「ニーア! さがれ!」
そのようにいうノンノンの顔にも焦りが見える。あの口を押し返したのは凄いけれど、ノンノンにとっても全力の一撃だったのだ。尻尾が萎んでしまっている。つまり、すぐには2発目は撃てないということ。
「ノンノン! 跳んでみるから! 私に捕まって!」できるかどうか分からないというか、こうなったらやるしかない!
「わかった!」ノンノンが私に捕まったのを確認して、ニーア棒に力を込める。
。。。。。跳べない!!
「お願い! 跳んで!!」
ホルプルスの口が大きく振り上げられる。時間がない!!
「跳んで! 跳んで!」
ニーア棒を握りながら、瞬間移動できるように強く願うけれど、いつものように光に包まれる感覚がない!!
もう、時間がない!
「お願い!!」
悲鳴と共に祈ると、ニーア棒が強い光を放った。
瞬間移動の時は私の体が光る感じだったけれど、今はニーア棒だけが強く輝いている。
「えっ、なに!? 何!?」
慌てる私の手の中で、一際強い光を放ったニーア棒、余りの光の強さに思わず目を瞑ってしまい、光が弱まってから目を開くと
「何これ?」
私の手には光でできた大きな鎌が握られていた。刃渡の長さは私の身長よりもあるけれど、重さは全く感じない。
「ダメだ! ニーア、にげるぞ!」ノンノンが叫ぶ。でももう間に合わない!
「来ないでええええええ!!」
目の前に迫るホルプルスの口。私は思わず手にした光の鎌を思い切り振った! 全く斬った手応えがない! もう駄目!!
、、、、、、、、、
、、、、、、、
、、、、、?
「あれ?」4人で抱き合って衝撃に備えていた私たちだったけれど、いつまで経っても何も来ない。
恐る恐るホルプルスを見上げると、私たちにぶつかる直前で、ホルプルスの口がぴたりと止まっていた。
「え? どういうこと」
キョトンとする私に、「とにかく逃げる!」とノンノンが私を引っ張る。この後に及んではなりふり構わず、ドノバンさんはトラヴィオさんが背負って、私達は力の限り遠くへ。
と、先ほどまで固まっていたホルプルスが、もう一匹のホルプルスに叩かれ、大きく後方へと転がり、ずうんと音を立てて止まる。
優勢となった方のホルプルスはここぞとばかりに回転を始め、勢いに任せて動きの止まったホルプルスへ突っ込んだ! 玉突きのように向こうの方へと飛んでゆく2匹の巨大生物。
完全に危険な範囲から脱出できたことを確認した私達は、「はぁぁ」と息を吐いて、その場に崩れ落ちた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ニーア!」
「ドノバン様!!」
その後しばらくして、へたり込んでいた私たちのもとに、ウェザー達がやってきてくれた。
「ニーア、ノンノン、無事かい!? よかった、、」
「うん。あ、でもドノバンさんが足を折っているから万能薬を!」
私の言葉にドノバンさんが目を剥く。
「エリクサー!? そんな高価なものを持っているのか!? いや、良い、自分達のポーションで良い。この痛みはワシの反省である」
「いや、今はそういうのいいんで、いつホルプルスの争いがこちらにくるとは限らないので、飲んでください。嫌なら無理やりねじ込みますよ?」
「う、、、いや、分かった。飲む」
「あ、もちろん料金には上乗せで」というウェザーに少し苦い顔をしながらも、トッポさんの取り出した万能薬を口にするドノバンさん。
「おお、痛みが見る間に、、、」万能薬本当に便利〜
「それで、何があったの、、、いや、今は聞くよりもこの場を離れよう。なるべく遠くへ。安全が確保できてから話は聞こう」
ウェザーに促されて、私達はホルプルスに背を向ける。
戦いの場を少し離れた場所に移した2匹のホルプルスは、未だに大きな音を上げながら争いを続けていた。
もう大丈夫だろう、とウェザーが判断した場所でキャンプ。今日は本当に疲れた。今回ばかりは駄目だと思った。
「それじゃあ話を聞かせてもらおうか。僕らの方からは何が起きているかよく分からなかったんだけど、多分、一回はノンノンが攻撃したんだよね? 電撃が見えたから。ただ、その後がよく分からない。何があったの?」
一息ついて焚き火を囲んだところでウェザーに聞かれたものの、「えっと、、」と私は悩む、なんと説明して良いのか分からないというか、私自身、何があったのか分からない。
言い淀む私に代わって、饒舌に話し始めたのはドノバンさんとトラヴィオさんだ。2人は興奮したように捲し立てる。
「ニーア様の手から光の鎌が現れたのです!」
「その鎌を勇ましく振ると、ホルプルスの動きが止まるという奇跡が!」
、、、、、うん。2人の話でちょっと気になることがある。なんで私に”様”付けをして、敬語で話しているんだろう。あと奇跡ってなんだろう?
最後はドノバンさんが感じ入ったように締める。
「とにかく、私たちは聖女様の奇跡によって救われたのです」
、、、、ちょっと何を言っているのかな?




