【五の扉⑦】058)予想外の展開
初日の夜。夕食作りの中心となったのは、トッポさんとトラヴィオさん。
トラヴィオさんもかなり大柄なので、私としては料理を用意されるというよりも、料理されるの待つ獲物のような気分にならなくもない。
「できたよ〜」
2人が出してきたのは、また当人たちには似合わない、繊細な飾り付けがされた品々。特に飾り付けはトラヴィアさんがやったらしい。本人は「こういうの好きなんだよな〜」とのんびりと言っていた。
夕食を終えて焚き火を囲みながら、ドノバンさんのパーティの武勇伝というか、自慢話を聞く。
ドノバンさんのパーティはトラヴィオさんと、お兄さんのソブリオさん、それにホルエラさんという3人の前衛がいて、中衛にサヴァルさん、レイーニアさん。後衛にキーフルさんとドノバンさんの7人パーティー。ドノバンさんも弓で戦うらしく、本人曰くかなりの腕前だそう。
ウェザーには頼りないと評されたトラヴィオさん達だけど、話を聞いて、私はそれなりに実力者揃いという印象を持った。
少なくとも、ゴーウィン商会のカイン達よりは強いんじゃないかなぁ。他人の実力なんて全く分からないけれど。
というか、ホルプルス、あれほどの大きさだと思わなかった。トラヴィスさん達に限らず、あんなの誰でもどうしようもないと思う。
「しかし、惜しいな。ホルプルスに一矢でも放つことがかなえば、貴族仲間にも自慢できるというものだが、、、」
ドノバンさんが未練を見せ、ウェザーが「その場合は僕らは先に帰りますので、どうぞご自由に」と言うと、苦笑しながら首を振る。
「いや、あれは安易にちょっかいを出して良い生き物ではない。つい言葉に出ただけぞ」
その言葉を聞いて、ウェザーも安心したように「ドノバンさんがベテランの冒険者でよかった。明日、半日ほど行った所くらいが、確実に安全だといえる距離でしょう。そこまで行って、帰りましょう」と宣言する。
ドノバンさんを始め、誰からも異論はなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝も順調に道を進むのだけど、少し気になることが出てきた。この辺りの地面が柔らかいのか、ホルプルスの作った道の抉れ具合が深くなってきたのだ。
もう、道というよりも轍に近く、水分を含んだ地面は少し水が染み出している。
回避行動がとりにくくなった事に、ウェザーが難色を示して「ここまでに、、、」と言いかけたその時だ。
「危ない!!」
ノンノンの声と同時に、私達は木の棒のようなものでお尻を叩かれて、前方へとつんのめった。
「何!?」と振り返る間も無く、私たちのすぐ後ろで「どおおおん」と大きな音が鳴って、巨大な岩が降ってくる!
「横に、、時間がない! 前に走れ!!」
背後を警戒しながら、尻尾を大きく膨らませたノンノンの言葉を聞くまでもなく、やばいものが飛んできたのは分かる。私は慌てて轍を前へと駆ける!
その間にもどん! どん! と、大きなものが背後に落下する音が続いた。合間に何かを砕く音が聞こえるのは、ノンノンが飛んできたものを砕いているのかな!? ちょっと振り返っている余裕がないので状況は確認できない。
すると、前方の方から「まずい!! ホルプルスが!!」という声が聞こえ、見れば巨大な塊が回転しながらこちらへ向かってきている! めちゃくちゃ早い!!
最悪の知らせは続く。最後方にいたノンノンから「後ろからも何か来てる!! そいつが色々投げてる!!」と叫んだ。
ホルプルスの厄介な攻撃と言えば、長い口から食べたものを何でも吐き出して攻撃する、、、、もしかして、ホルプルスが2匹いるの!?
「まずい!! 横へ!! なるべく離れるんだ!」と叫ぶウェザーの声が頭の上から聞こえる。声の方を見れば、トッポさんに投げられたのか、空中を舞いながら回避を叫んでいた。その後も近くにいた人たちをポンポンと投げるトッポさん。
トッポさんとは離れた場所にいた私達は、自力で横へ避けようとするけれど、走った先の轍は私の身長より遥かに深くなり、気軽に乗り越えられる感じじゃない。
ここは私が瞬間移動で、と、ニーア棒を握りしめたところで、「ぐっ」というくぐもった声が聞こえた。
見ればドノバンさんが足を押さえてうずくまっている。飛んできた岩の破片が当たったのだ。慌てて駆け寄ったのは私とトラヴィオさん。それからノンノンがこちらに駆けてくる。
「ニーア!!」トッポさんもこちらへ体を向けたけれど、少し距離がある。トッポさん以外はみんな轍を脱出したようだ。
「トッポさん! 私は跳ぶから大丈夫!!」
それだけ聞くと、トッポさんは納得して轍から飛び上がって脱出!
「ドノバンさん! トラヴィオさん! 私の腕にさわってください!! 死にたくなければ離さないで!! ノンノン! 早く!!」
有無を言わさぬ私の声に、2人が私の腕にしがみつく。最後に私に飛びつくようにノンノンが身体を触ったのを確認すると、私はニーア棒に向かって力を込めた!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
瞬間移動は成功し、近くの藪の少し上に跳んだ私達は、お尻から地面に落っこちた。
「ぐへ」変な声を出ししたのは恥ずかしながら私だ。この能力、今後の切実な課題は華麗な着地である。
しかしお尻を痛がっている暇もなく、ノンノンが「急いで離れるぞ!」と手を引く。ここに至って何が起きるかは私にも完全に分かった。
最初に私達が目指していたホルプルスと、私たちの後ろからやってきたホルプルスが、回転しながらぶつかろうとしているのだ! 衝撃で何が飛んでくるか分からない。
私達が走り出そうとした瞬間、「どごん!!」巨大なものがぶつかる音がして、衝撃波が襲ってきた。なす術もなく衝撃派で転がる私は近くの木に引っかかって止まる。
「いてて」突然の衝撃に驚いたけれど、身体に動かない場所はないことにほっとする。
「みんなは!?」ノンノンはすでに起き上がって、私たちの前で尻尾を膨らませていた。ドノバンさんとトラヴィオさんもとりあえず無事なようだ。
けれど、ドノバンさんは足を引き摺っていて、トラヴィオさんに抱えられないと動くのもキツそうだ。
「ノンノン、どうしよう? もう一回跳ぼうか? できるか分からないけれど、、」
私が前方を警戒しているノンノンに聞くと「念の為とっておけ」との返事。私のギフトはそう連発できないのだ。
こうして私達は、少しずつ距離をとりながら、けれど全く安全の距離とは思えない眼前で巨大生物の喧嘩を見せつけられることになったのである。




