【五の扉④】055)ニーア、巻き込まれる
ウェザーが折れた。
そう簡単に発行されないはずの上級証書を、半日もたたずに奪取してきて、今、私たちと一緒に楽しそうに夕食を食べているノリウスさんの粘り勝ちだ。
しっかり食べて大満足の夕食後、不意に、「ただし条件がある」とウェザーがノリウスさんに口を開く。
「なんだい? これ以上は無茶なこと言わないでくれよ」
「いや、一般的な話さ。何度も言うけれど、あのパーティじゃホルプルスを狩るなんてのは絶対に無理だ。悪いけれど、向こうが全滅しそうでも僕らは見捨てて帰らせてもらう。その辺りちゃんと依頼主に言いふくめてほしい」
「あー、それは多分大丈夫だと思うが、できれば、、、」
「できれば、何?」
「そのー、できればドノバンだけは一緒に連れ帰ってきてくれないか? 正直俺も戻ってこない方が都合はいいんだが、あれさえ帰ってくれば、ミスメニアスに迷惑をかけない形で事を収める。約束する」
「、、、ま、そんなところが落とし所か、あと、当然だけど出発までに数日かかるのは分かっているんだよね?」
「そこは大丈夫だ。ドノバン様はあれでも無限回廊への挑戦回数は多い。適当に引き留めるから、数日なら問題ないさ」
「そうだね。彼らにとっては、これがこの世界での最後の余暇になるかもしれないから、十分に遊んでおくといいよ」
そんなふうに言われたノリウスさんの顔が引き攣る。
「、、、なるべくなら、そうならないように頼むよ、、、」
情けなさそうに言いながら、「話は終わったら帰れ」とウェザーに言われて追い立てられるように帰ってゆくノリウスさん。
「もう遅いし、泊めてあげればよかったんじゃないの?」と私が聞くと、
「いや、ノリウスはああ見えて立場のある人間だからね、本人も早く戻って、溜まった仕事に手をつけたいはずだよ」と返ってきた。あの人も大変だなぁ。
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それから数日間、ウェザーは星読みと大図書館通いで忙しくしている。今回のメンバーはウェザーとノンノン、トッポさんの3人だけ。他はお留守番だ。「今回はすぐに逃げられるように最低限の人数で行く」と言っていたので、本当に危険があるのだろう。
「明日出発だね。ニーア悪いけど伝言を頼まれてくれる?」
星読みを終え、「ちょっと仮眠する」というウェザーの言葉を届けるため、朝一番に私は教会までお使いに行くことになった。
仰々しい大階段をぽくぽくと歩いて、ふと後ろを振り返ると、ブレンザッドの街が一望できた。いつもは無限回廊に挑むドキドキ感で、周辺を見渡す余裕がなかったので、これは新しい発見だ。そろそろ夏でも暑くなってきた、階段を登って汗ばんだ頬を撫でる風が身持ちいい。
「あ、いけない。いけない。のんびりしていられないや」
私はもう大分大きく見えてきた、教会へと急ぐ。
「ノリウス様ですか? 少々お待ちください」
入り口にいた教会の人にノリウスさんを呼んでくれるように頼むと、まさかの「様」付けだったので少しびっくりしたけれど、ノリウスさんはすぐにやってきた。
「ニーアちゃん! ウェザーからの伝言だって? 朝からすまないねぇ」
「いえ、それで、ウェザーが出発は明日だって伝えてくれって」
「そうかそうか! いやー助かった。実はそろそろ引き止めも限界だったんだよ〜」と顔を綻ばすノリウスさん。
「それにしても、やっぱり大きな教会ですね」
私たちは入り口で話していたけれど、開いた扉の奥に広がる建物の規模に少し感心する。私のいた教会の5倍くらいはありそうだ。
「そうか、君は元巫女だったっけ。実はここ、下にも建物が伸びているんだ。だから見た目よりもさらにでかい」
「下にも? へえ。そんなに多くの人がいるんですか?」
「半分くらいは来客用だね。そうだ、良かったらちょっと見学していくかい?」
少し興味があったけれど、今はお仕事中なのだ。
「いえ。また今度案内してください」
「そう。見学したくなったらいつでも言ってくれよ」
「ありがとうございます。それじゃあこれで、、、」
ノリウスさんと挨拶を交わしてギルドに戻ろうとした時、「ノリウス! ノリウスはいるか!?」とがなる声。ロデオルだ。私たちを見定めると、ドタドタとした足取りでこちらへ走ってきた。
「ノリウス! 私は聞いておらんぞ!」
「は? 何がでしょう?」
「あのミスメニアスとかいうギルド、擬人の集まりだと言うではないか! そんな胡散臭い連中にドノバン殿を任せることなどできん!」
そう言いながら憤慨しているロデオル。そういえばロデオルが来た時に、対応したのは私とウェザーだけだったから、フィルさんやノンノンのことは知らないのか。
「、、、しかし、依頼されたのはドノバン様ですよ?」流石に困った顔で、私をチラチラと見ながらロデオルに対応するノリウスさん。そっと帰れと言う意味と捉えて、静かに後ろに下がったが遅かった。
「む、そこにおるのはあのギルドの受付の女だな! 貴様ら、ワシを謀りおって!」
私たちは一つも謀っていないので、とんだ八つ当たりだ。。。。あれ? 待って、上級証書の発行は、、、うん。ノリウスさんが勝手にやったので私たちが騙したわけではない。
「えーっと、じゃあ、今回の依頼はなかったと言うことにしましょうか?」そうしてくれるなら私たちも望むところだ。こんな馬鹿馬鹿しい話に付き合うつもりはないのだ。
「いや! それではドノバン殿の顔に泥を塗ることになる、、、しかし、擬人どもなど信用できん、、、、むむむ、、、」
ロデオルがしょうもないことで悩んでいるのを眺めていたら、はっとした顔で私を見た。なんだか嫌な予感がする。
「そうだ、受付にいた女、お前は元教会関係者という話であったな? お前もロデオル様の冒険に同行するのだ。そうすればロデオル様は元教会関係者のいる、弱小案内ギルドに温情を与えて案内を依頼してやったという形にできる。どうだ?」
この人は本当に何を言っているのだろう? あまりに呆れた話に、びっくりしていしまった私が固まっていると、
「よし、決まりだ。ドノバン殿に選ばれたことを感謝して、精々励め! それに、チンチクリンでも男ばかりのパーティに彩りがあった方が良いだろう!」
ははははと笑うロデオル。
チンチクリンって、、、私のことか! むううう!!
一度その頭ぶん殴ってやろうかとニーア棒を握ったところで、ロデオルが言ってはいけない事を言った
「そういえば、擬人の女はそれなりの顔立ちらしいな。耳と尻尾を切り落とせば見れるようになるかもしれん」
その言葉で、私はキレた。




