【五の扉②】053)教会の使者②面倒な権力者。
ドノバンとかいう何だかよくわからない人がきた翌日、またドノバンが来た。
あれ? 違う。よく似ているけど今日は屈強そうな取り巻きはおらず、あんまり戦えなそうな眼鏡の男性と、気の強そうな女の子の3人。
それより何より服装が私のよく知っているものだ。少し前までは私も毎日着ていたエルグ教の教服である。
偽ドノバンは私の前までやってくると「このギルドの主人、ウェザーを呼んでもらおう」と、本物のドノバンほどではないけれど、やっぱり偉そうに言った。
とりあえずウェザーを呼びに行くと、昨日の今日で機嫌が悪そうだ。「もう面倒だからノンノンの槍で強制退場願おうか。この世から」などと全く笑えないことを言って笑っていた。
そうして受付までやってきたウェザーは「あれ?」と、ちょっと驚いた声を上げる。視線は偽ドノバンではなく、その向こうにいる眼鏡の人に向けられていた。眼鏡の人は偽ドノバンに見つからぬようにしながら、何だかすまなさそうにウェザーに手を上げる。
そんなやりとりに全く気づいていない偽ドノバンが「貴様がウェザーか。私は新たにエルグ教、回廊殿の三司祭の一人となった、ロデオルである」と名乗ると、横にいた小柄だけど気の強そうな娘さんが「こんな場所までお越しいただいてありがたく思いなさいよ!」と胸を張る。
三司教。無限回廊横にある大きな教会の統治者の一人だ。教会の本部は別にあるけれど、この街の教会は少し特別な存在で、権力だけなら本部と同等、場合によっては本部にも命令できる立場にある。そのくらいは私でも知っている。
ウェザーはまた面倒臭そうなやつが来たね、というオーラを隠そうともせずに
「それでどんな用です」と頭をかきながら聞く。なお、横で少女がキーキー言っているけれど、完全に無視だ。
ロデオルは少し顔を顰めたものの、
「昨日、ドノバン殿がこのギルドに依頼に来たはずだ」
「はあ」
「君の実力がないのは、このギルドを見れば良く分かるが、君から断られたのではドノバン殿の面子に関わる。なに、ドノバン殿の抱えておるパーティは歴戦の強者達だ。扉さえ選べば、あとは全て任せておけば良い。そうすれば案内をした君のギルドにも、多少の箔くらいはつくであろう」
、、、、この人は何を言っているんだろう、私がポカンとしてしまった向こうで、メガネの青年が手を合わせて必死にウェザーに祈っている。依頼を受けてくれってことかな?
「いや、あの三下を連れて行って、僕らにも危険が及ぶのは嫌なので、お断りします」
言うとは思ったけれど、躊躇なく言うなぁ、ウェザー。。。
「何だと? この三司教の命令が聞けぬ、と?」
「命令? 教会は案内ギルドに頼みではなく強制をしようと?」
「何が違う?」
と、ロデオルとウェザーの間に不穏な空気が流れた直後、メガネの青年が間に割って入った。
「ちょ、ちょっとお待ちください! ロデオル様! ほら、先ほど申し上げた通り、案内ギルドと敵対するのは宜しくないです! ね、この弱小ギルドはドノバン様達の実力を知らないんですよ、だから私の方でちゃんと説明しておきますから!」
「しかし、、、」
まだ何か言いたげなロデオルへ、「ほら、そのドノバン様との会食のお時間が迫ってきておりますので! 私が責任を持ってちゃーんと説明しておきますから!」
「そうか、、、ならば、ノリウス、お前に任せる。全く、無知に説明するのは面倒なことだ」
そうして帰ってゆくロデオルと少女を見送ってから、
、私たちがゆっくりと振り返ると
ノリウスと呼ばれたメガネの青年は地面に正座していた。
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「いやー、ウェザー。頼むよ〜。受けてって言ったろ〜」
ひとまず事務所へ戻った私たち。早々にノリウスがウェザーに愚痴る。
「言われてないよ?」
「こう、念じたじゃん! 届いてたでしょ!?」
「届いてないよ?」
「頼むよ〜」と言いながらソファへ崩れ落ちるノリウス。
「いつも大変ねぇ、ノリウスさんは」フィルさんがお茶を持ってきてくれると、ノリウスは今度はフィルさんに泣きついた。
「フィルさん、聞いてよ〜、何にもわかってない馬鹿な司祭と、空気を読んでくれないギルド長の間に挟まれた俺! 可哀想!」
教会の関係者が、フィルさんのような迷い人を差別せずに対応するのは珍しい。ちょっと驚いたけど、それ以前に司祭を馬鹿呼ばわりして大丈夫なのだろうか。
私が素直にそのように聞くと、ノリウスの愚痴の矛先が私に向かう。
「えーっと、新人さん? 初めまして、エルグ教会の準司祭のノリウスです。ニーアちゃんっていうの。宜しくね。で、聞いてくれる、あの馬鹿司祭、危うく案内ギルドに喧嘩を売るところだったんだよ! フレディアの悪夢再びとなるところだったんだよ!?」
「フレディアの悪夢?」
「知らない? ああそうか、新人さんは知らないか。もう10年も前の話だものね。当時の司祭フレディアと案内ギルドが揉めて、一切の協力を取りつけられなくなった事件だよ。この街の教会の上層部どころか、本部の大司祭が退任する羽目になったんだ」
「あれ? 退任した大司祭ってヴェベル様のことですよね? 体調不良を理由に勇退されたはずじゃ?」
「君、詳しいね? え、元教会の関係者なの? どおりで」
「と言っても10年前はまだ教会にはいませんでしたから、後から聞いただけですけど」
「表向きは君が言った通りの理由だよ。教会が案内ギルドに泣きついて、何とか体裁を保つ形を取らせてもらったんだ」
「ええ〜、そんなことが、、、っていうか、案内ギルドってそんなに強いんですか?」
「当時は各国に教会に協力しないって言い渡したからね。実質ボイコットだよ。各国からすればまともに無限回廊に挑戦することもままならなくなって、何とかしろってせっつかれるし、冒険者ギルドも教会のせいだって怒るし、大変だったんだよ」
「はー、大変ですね。でも、ロデオルって司祭もそのくらいのこと、知ってるんじゃないんですか?」
「それがさぁ、あの馬鹿は金で司祭の椅子を買ったって言われる位だから、なーんにも分かってないの。多分、俺の注意も、ウェザーのギルドを見て強気に出ても大丈夫だと思ったんじゃない? つまり舐めてかかったんだよね。ねえ、ウェザー、最近儲かってるだろ? そろそろ外観だけでも直そうよ」
「その予定はないなぁ」
「まぁ、シャロさんのこともあるから、気持ちはわかるけどさぁ。ま、いいや、そんで昨日来たドノバンってのが、ロデオルの後ろ盾の一人ってわけ。ある国の有力貴族でロデオルの従兄弟。教会にゴンゴンと金を積んで、ロデオルを売り込んできた」
やっと話がつながってきた。
「そんなの教会内部の問題だろ? そっちで何とかしなよ」
「それはそうなんだけどさ、ロデオルとしては司祭に就任したばかりで、案内ギルドに舐められたって思われたくないのさ。ドノバンにもいい顔をしたい。朝から「私がちゃんと話をつけて参りましょう!」なんてドノバンに言い出して大変だったんだから」
「教会もちゃんとしたのを任命しなよ、、、」
「教会内部にも色々あるのさ、、、それで、今回は何とか折れてくれない? 適当な扉でお茶を濁してさ」
「ノリウス、無限回廊に適当な扉なんかないよ」
ウェザーに指摘されたノリウスは、少し真面目な顔になって
「そうだな。すまん。今のは失言だ」と謝った。けれど直ぐに「何とかならないかな〜」と情けない声を出す。
「はっきり言って割に合わない。見たろ? あの残念なパーティ」
「残念なって、、結構強そうなパーテイだったろ?」
「全然ダメだね。どうしてもって言うなら、上級証書でも発行してくれよ」
「上級証書!? それこそ無茶だろ!?」
何だかわからないけれど、ウェザーが何か無茶な要求をしたのだけは分かった。完全にウェザーはこの件を引き受ける気がないという事だろう。ところがである。
「、、、、待てよ? 上級証書、上級証書ならもしかして、、、」と、ノリウスが口に手を当ててぶつぶつつぶやく。
少ししてウェザーに向き直ったノリウスは、
「分かった。上級証書を発行すれば、受けてくれるんだな」と念を押した。




