【幕間3-2】051)ロブのギフト
「ロブさん?」私がキョトンとしていると、店内をリリーさんが駆け抜け、ロブさんに飛びついた!
「ロブ! 来てくれたのね!」そう言うリリーさんの顔は恋する乙女のそれだ。
私が口をパクパクしながら、ロブさんとリリーさんを指差すと、フィルさんがこくりと頷く。
お店の奥の私室へと誘われた私たちは、とても不機嫌そうなロブさんから
「何をしているんだ、お前らは?」と詰問される。言外に帰れオーラが滲み出ている。そりゃあ私だって邪魔をするつもりはない。少ししか。でも、ご機嫌な妖精のようなリリーさんに、ぜひ一緒にお茶でもなんて笑顔で言われたら断れないじゃない。私は悪くないのだ。
「何してるって、買い物よ〜。リリーちゃんのお店のお洋服はかわいいもの。ニーアちゃんなんか、3着も買ったのよ〜」
ロブさんの発する気配にまったく動じないフィルさんがそのように言うと、「む」と視線を私の持った紙袋に移して、小さくため息をつく。ここぞとばかりに私は「リリーさんとロブさんは、その、恋人なのですか?」と聞いた。
ロブさんが渋面を作り、フィルさんが楽しそうに口を開く。
「ロブさんは私たちのギルドに来る前、この街のレストラントで働いていたのよね。その時に知り合ったのよね〜」
「ふん」話す気はないとばかりのロブさん。リリーさんがお茶を持ってやってくると、スッと立ち上がって手伝い始めた。
「なんのお話をしていたの?」リリーさんの言葉に
「大した話は、、、」
「2人の馴れ初めよね〜、ニーアちゃん、聞きたいわよね〜」
私はロブさんの視線が痛くてフィルさんになんと答えて良いか悩む。けど、聞きたい。恐る恐る小さく頷きつつ様子を伺う。
そんな私の様子を見たリリーさんが、あらあら、と話をする姿勢になって、隣に座ったロブさんが小さくため息をついた。
「私、ロブに命を救われたの」
穏やかではないそんな言葉から、リリーさんが2人の出会いを語り始めのだった。
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かつて、別の街でコックとしてそれなりに名前の知られたロブさんは、富豪の依頼で無限回廊に挑戦するパーティの一人としてこの街にやってきた。そこで異世界の食材の魅力に取り憑かれ、故郷の職を辞して、移り住むことになったというのは聞いている。
けれど、簡単に無限回廊に挑戦できるわけはないことは、実体験として私もよく知るところだ。
ロブさんは料理の腕なら自信があったので、街のレストランでお金を稼ぎつつ、無限回廊に挑戦するお金持ちや冒険者に自分を売り込もうと考えていたそうだ。
そんなロブさんの働いていたレストランに、お客としてやってきたのがリリーさん。
「当時私はとても体調が悪くて、とても外食なんかする気分じゃなかったのだけど、その時お付き合いしていた人がたまにはって、、」
料理は美味しかったけれど、とても食べきれる状態ではなく、少し手をつけては下げてもらっていた。すると、しばらくして、ロブさんが厨房から出てきたそうだ。
鋭い目つきで睨まれたリリーさんは、最初、残したことを怒られるのかと思って縮み上がった。そんなリリーさんへ真っ直ぐと歩いてくるロブさん。
他のお客さんからも何事かと注目を浴びながらも、リリーさんの目の前に立ったロブさんは、リリーさんの顎に手を当てると、「なるほど」と呟いた。
「あ、あの、、、」口を開こうとしたリリーさんに、「失礼」と突然リリーさんの首筋にキスをしたのだそう。
「いきなりキスって!!」ロブさん、しかも彼氏さんが目の前にいたのに!?
「驚くわよね。私もびっくりして固まってしまったわ」
それはそうだろう。大胆とかそう言う問題ではない。無茶苦茶だ。
「でも、違ったのよ」
「、、、、何も違わないと思いますけど?」
「私ね、”毒”を盛られていたの。その彼から」
、、、、、どう言うこと? ちょっと意味がわからず、私はロブさんに視線を移す
「ニーアには俺のギフトについて説明していなかったな。俺は摂取した毒を体内にストックすることができ、人に触れることでその毒を移すことができる」
、、、、何その怖いギフト
「それじゃあ、ロブさんがリリーさんに毒を?」
私の言葉にリリーさんが笑う
「違うわ、言ったでしょ、当時付き合っていた彼から毒を盛られたって」
「あ、そうか。でもロブさんも毒で攻撃できるって、、、」
「話は最後まで聞け。俺は逆に毒を吸い上げることもできるのだ。条件は相手に触れること。ただ、リリーの時はかなり深刻な状態だったから、より効率の良い方法をとったのだ」
それが首筋にキス? 物語で読んだ吸血鬼みたい。
「実際、私はあのままだったら、数日中に死んでいたのよ。それを見越して、私の体調の悪さを周囲に見せつけるために、連れ出すのが目的だったみたいだから」
「なんでそんなことを、、、」
「目的はこのお店の権利だったようね」
「ひどい、、、あれ? でも良くその男が罪を認めましたね?」
「俺が毒を注入したからな。喋らなければ半日くらいで死ぬような毒を。真っ青な顔で死にそうになりながら、助けを請うてペラペラと喋った」
、、、たまに思うけれど、うちのギルドメンバーの仕返しはエッジが効きすぎていると思う。
「殺したんですか?」
「ニーアは俺をなんだと思っているのだ。死なない程度の毒を残して、衛兵に引き渡した」
、、、、死なない程度の毒は残ったのか。御愁傷様。
「それからロブは、私の体内の毒を浄化するために、何日も通い詰めてくれて、、、ね、、」
ポッと頬を赤らめるリリーさん。もうお腹いっぱいだね!
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その後ものろけを十分に聞かされて、これ以上はお邪魔するのもなんなので、適当なところでロブさんだけ残して店を辞した私とフィルさん。
通りを歩きながら「あんな可愛らしい恋人がいるのに、わざわざ案内ギルドに入って危ない目に会うなんて、ロブさんもつくづく変わっていますね。料理人として生きてゆく選択肢だってあったはずなのに」そう言った私に、フィルさんが少し困った顔をする。
「ロブさんのギフトが知られてしまったこの街では、料理人は難しいわねぇ」
そのように言われて私はハッとする。”毒”を使える料理人。それは料理人にとって致命的な評判だ。
「リリーから命の恩人が困っているって聞いて、私がウェザーに紹介したの。1〜2回無限回廊に挑めば、満足してリリーと堅実に生きてくんじゃないかしらって思ったのだけど、、、失敗したわぁ」
「、、、、でも、ロブさんがギルドにいれば、いろんなお薬の心配がいらないから、すごく頼もしいです。ちょっと変わっているけど」
「そうね。私もそう思うわ。。。ちょっと変わっているけど」
2人でクスクスと笑って、穏やかな休日は過ぎてゆくのだった。




