【四の扉閉】049)悪者はだいたい諦めが悪いので。
「、、、そんなものは無効だ」
ギルド権を賭けた勝負だという誓約書を見せつけられたカインは、一切の表情をなくして呟く。
「いや、無効ではない。説明を不要と言ったのはお前だ。サインをしたのもお前だ。そもそも、ミスメニアスに身勝手な理由で喧嘩をふっかけたのはーーーーー誰だ?」
刹那、2人のやり取りを見ていた私の腕にぞわりと鳥肌が立つ。
素人に毛が生えた程度の私でも分かる、強烈な怒気。。。。。或いは殺気。私だけではない。ギルド内にいる全ての人の時間が止まったように、身じろぎ一つしない。
ゲオルゲガーさんとカインの差をまざまざと見せつけるような、ほんのわずかな時間。
カインが膝から崩れ落ちたその瞬間、それがギルド戦の終了の合図だった。
「さ、終わり終わり。帰るよ! じゃあ、ゲオルさん、あとは任せたよ」
沈黙を破ったのはウェザーだ。その言葉に、私以外のみんなは早々にカインから背を向ける。
私は「ちょ」と声をかけようとしたけれど、なんと言って良いか分からない。慌てて視線を走らせた先に、ポルクがどうして良いのか分からずにオロオロしているのが見えた。
「ポルクは!?」
反射的に出た言葉に、ウェザーはこちらに振り向いて「うん。じゃあとりあえず一緒においでよ」と言い、ポルクとラザは少しフラフラとした足取りで私たちの後ろをついてくる。
私が最後に振り向いた時、ゲオルゲガーさんの足元でカインがうずくまっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いやー疲れた疲れた。フィルさん、今日はご馳走にしよう。カインのギルド権はゲオルさんが買い取ってくれるし、パーっといこう! あ、そうだ、ポルク、それにラザ」
「は、はい!?」
「今日から2〜3日、うちのギルドで過ごしてもらうから、荷物があるなら今のうちにもってきておくれよ」
「え? あの、どういうことでしょうか?」
「多分、ゲオルさんが面倒見るつもりだったのだろうけど、ニーアが声をかけた以上は、うちが面倒見た方が自然だからね」
「え? 何か私まずいことしちゃった?」
突然私の名前が出たのでびっくりしたけれど、ウェザーは小さく首を振って
「どちらが担当するか、それだけの話さ」と言った。
私たちが持てる限りの食材やお酒を買って、ギルドに帰ったその夜。
「できたぞ!!」
ロブさんの掛け声に、みんなの歓声が上がる。本日はお留守番だったロブさんが、フィルさんに代わって腕に縒りをかける。
余計な食材さえなければ、料理に絶対的な信頼がおけるロブさんなので、私も素直に喜ぶことができた。
「こんな豪勢な夕食、初めて食べる、、、」
私たちに招かれたポルク君たちは、少し目が潤んでいる。普段どんなものを食べているのかと訊けば、大体カチカチのパンとチーズ。たまに余裕があれば果物を齧るという。。。ちょっと大図書館通いを控えた方が良いと思う。
「今後しばらくはお金の心配がいらないから、安心してちゃんと案内人として腕を磨くんだね」
「え? けれど、カインからはお金がもらえませんから、、、」
「いや、成功報酬で僕らから払うよ。実際に契約したんだし」
「そんな、助けていただいて、その上お金をもらうわけには、、、」
「いや、本来はカインが払うべき料金もゲオルさんからせしめるし、ポルクのおかげで貴重な鉱石が手に入った。相応のお金を払うし。君が今後案内人としてやっていくつもりがあるなら、ちゃんと受け取っておくべきだ」
ウェザーにそのように言われたポルクは、ラザと顔を見合わせてから「分かりました。ではいただきます」とウェザーに頭を下げる。そんなポルクの背中は、ちょっとだけ成長したように見えた。
と、そんな時だ。セルジュさんが「来たよ? 来たよ?」とウェザーに伝える。
「ああ、思ったよりも早かったね」ウェザーがゆったりとセルジュさんに答えた。
「来たって、何が?」
「うん? カイン達が仕返しにきたに決まっているじゃないか」とこともなげに言う。
「え!? もう勝負は終わったんじゃないんですか!?」
「勝負は終わったけれど、カイン達がギルドを失ってこのままおとなしくしているわけがないじゃないか。意趣返しにうちの建物を荒らしにくるくらいのことはするさ。ついでに万能薬を奪って、当面の資金にでもするんじゃないの?」
「そんな冷静な、、、そうだ、すぐにゲオルゲガーさんを呼んできた方が!」
「ニーア、落ち着きなよ。トッポさん、夕食前で申し訳ないけれど、お願いできるかい?」
ウェザーに声をかけられたトッポさんは、骨つき肉を片手に「分かった」とのんびりと答え、一人外へと出てゆく。
「ウェザー、私たちも助けに行かないと!」
焦る私の口に、ウェザーがパンを突っ込んだ。
「もぐもぐ! もぐもぐ!」
「いいかいニーア。僕らがカインに手を出さなかったのは、危害を加えないっていうルールがあったからだよ。戦闘になって困るなんて一度も言っていない」
「もぐもぐ、、、ごくん。でも、、、カインって実力はあるんでしょ?」
「その辺の冒険者にしてはね。そうだ。明日の朝、ゲオルゲガーさんを呼びにいく役割をお願いしていいかい。さ、暖かいうちに食べよう」
私やポルク君の心配をよそに、他の仲間は何事もなかったように食事をはじめ、早速ロブさんとレジーがお肉を取り合いをしている。
そしてそれほど時間を空けずにトッポさんも帰ってきて、普通に夕食を摂り始めた。
トッポさんが平気そうなので、私もようやく安心して食事に手を付ける。
翌朝、ゲオルゲガーさんのギルドへ向かおうと、外へ出た私の視界の端、誰だか分からないほど顔の腫れ上がった3人の冒険者が両腕を縛られて、木の枝に吊るされ、ブラブラと揺れていた。呻き声も聞こえるので死んではいないようだ。
私は何も見なかったことにして、ゲオルゲガーさんのギルドへと向かうのだった。




