【四の扉11】048)決着
異世界から戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、ゲオルゲガーさんがカインの胸ぐらを掴んでいるところだった。
もう一つ補足すると、空いた手でカインの顔を鷲掴みにしていた。カインはどちらかといえば体格の大きい方だけど、ゲオルゲガーさんはさらに巨体。カインはなすすべなく中空でバタバタしている。
「、、、何が、、、」
まぁ大体予想がつくけれど、それでも一応声に出してみるとウェザーが答えてくれる。案の定、異世界から戻った直後にウェザーに襲い掛かろうとしたらしい。ゲオルゲガーさんもある程度織り込み済みだったようで、カインの直後に帰還して、すぐに拘束したのだ。
「離せ!! 離せ! うおおおおお」
なりふり構わず必死になって脱出しようとするカインに対して、ゲオルゲガーさんの方はまだ余裕があるように見える。「うるせえからこのまま連れて行くか」とニヤリとしている。うちのトッポさんよりも熊な人間がいる。
騒いでいるうちにみんな戻ってきた。反応はそれぞれだったけれど、みんな一様に若干引き気味だ。最後にゲオルゲガーさんの部下の人が戻ってきたのを確認すると、「よし、じゃあうちのギルドに戻るか」と、本当にカインを掴んだまま歩き始めた。
普段のフィルさん達に注がれる視線とはまた違った、純度100%の好奇の目にさらされ、とても目立つ思いをしながらゲオルゲガーさんのギルドへ戻る。大手のギルドなので無限回廊から近いのだけが救い。悪目立ちにも程があるよ。
ゲオルゲガーさんのギルドに入ったところで、ようやくカインを投げ捨てる。
2回、3回と転がってから起き上がったカインは「てめえ!」とゲオルゲガーさんへ向きなおったけれど、周辺を全てゲオルゲガーさんのギルドの人たちに囲まれているのを確認して、ぎりっと音が聞こえるほどの歯軋りをしながら止まる。
「さて、それじゃあ、今回のギルド戦の結果を発表しよう。宝の価値であればウェザー達のビード鉱石だが、カインより「元から持ち込んだのでは」と異議があった。そこで異世界から持ち出せるか確認した訳だが。それぞれ、宝を出してもらおうか」
その言葉にウェザーが「はい」と手を差し出した。手のひらにはもちろん、ビード鉱石が佇んでいる。
「おい、ビード鉱石だってよ」
「初めてみたぜ、なんかぷにぷにしてんな? あれ、本当に鉱石かよ」
周辺を固めていた、ゲオルゲガーさんのギルドの人たちがざわつく。いずれも歴戦という風貌の人たちが、興味深そうにウェザーの手の平を覗いていたので、本当に珍しいものなのだろう。
「さて、では、カイン、ウェザーの宝がこちらから持ち込まれたものなら、お前の金の鱗も持って来れたはずだな。出してみろ」
カインは黙ったまま動かない。その様子を見ていたゲオルゲガーさんが、部下の人たちに指示を出す。
「カインの部下達を拘束しておけ、そこの案内人以外全員だ」
「な!?」
カインが何か言いかけたが、瞬く間にカインの部下は取り押さえられる。実力者と聞いているグレアとヒーチは一瞬抵抗する素振りを見せたが、この状況では分が悪いと判断したのだろう。渋々ながら拘束されていた。
「ここで暴れられても面倒なのでな。さ、出せ」
ゲオルゲガーさんの言葉に、カインは
「ねえよ」と小さく吐き捨てた。
少し離れた私にも聞き取れたので、近くにいたゲオルゲガーさんには間違いなく聞こえたろうに、「ん? 声が小さくてよく聞こえんかった。なんだって?」と聞き返す。ゲオルゲガーさんとウェザーって、こういうところよく似ているなぁ。
「ねえよ! あー、もう俺たちの負けでいい! めんどくせえ! 金はきちんと後日払うからもう帰るぜ! おい、俺の仲間の拘束を解け!」
しかし誰もそのまま動かない。冷めた目でカインを見つめるばかりだ。
「おい! 聞いてんのか!?」
「聞いている。しかし、お前が何を言っているのか分からん」
「何言ってんだ? イカれてんのか?」
「いや、俺は正常だ。おい、誰か出発前に交わした誓約書を持ってこい!」
ゲオルゲガーさんの言葉に、一人の部下が奥の部屋へと走って、すぐに書類を持ってきた。
「なんだ?」訝しげな表情のカインに、誓約書が突き出される。そのままわずかな時間誓約書を睨んだカインは、そのまま固まる。
「おい、なんだこの条件は?」
「なんだとは? 最初からこの条件だが?」
「俺がサインした時は、こんな条件はなかった」
「ああ、そうだろうな、カイン。お前は説明を聞かずに帰ったからな。だから言ったろう、話を聞かなくていいのか? と」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
出発前、カインがサインだけして先に帰った後のこと。
「さて、では改めて説明させてもらう」そのように言って、ゲオルゲガーさんがギルド戦のルールを説明してくれる。
ひとしきり話が終わったところで、「今回の報酬だが、カインの希望は前回の挑戦でウェザー達の妨害で受けた損失と、信用を傷つけられた補償として、50,000クルールを希望した。この誓約書にもある通り、お前らが勝った場合は、同等の価値のものをカインに請求することができる。この条件で良いか?」
ゲオルゲガーさんの言葉に、ウェザーが首を振る。
「良くないね。僕らは不当な言いがかりでギルドの看板を傷つけられた。ここで負ければギルドを畳まないといけないかもしれない。なら、向こうもギルドを畳む覚悟で挑むべきだ」
事前に2人の打ち合わせを聞いていた私でさえ、ウェザーの真剣な物言いにごくりと喉を鳴らすほどの雰囲気があった。周囲で聞いていたゲオルゲガーさんのギルドの人たちや、ギルドに来ていた依頼主からも息を呑むのが伝わってくる。
「ギルド権を奪う、というわけか。だが、はっきり言って、ウェザーのギルドとカインのギルドの価値が等価値とはいえんな」
「だろうね。だから僕は差額は金を積もうと思う」
「おいおい、そうすると倍の100,000クルールは必要だ。お前らのギルドに払える金額だとは思えんが」
「いや、今なら払える。うちには今、大量の万能薬の在庫がある。全部放出すればそのくらいにはなる」
これは嘘だ。万能薬はあるけれど、全部売ったってそんな金額になるわけがない。そもそも50,000だって無理だ。だからこれは、周囲へ伝えるためだけの茶番。ゲオルゲガーさんのギルドにはたくさんの冒険者や、富裕層が出入りしている。それらの人たちが、私たちの会話を興味津々で聞き耳を立てている。
「ならいい。本来ならカインにも話を聞かねばならんが、あいつは説明は不要と言ってサインをしていった。等価値のもののやり取りをするというルールは守られる。ならば、俺はこの誓約を成立したものとみなす」
一瞬ギルド内がざわつく。彼らがギルドを出れば瞬く間に噂が広まるだろう。「カインのギルドとウェザーのギルドがギルドの存続をかけて勝負する」と。筋立ては強引だけど、カインのいちゃもんよりはルールに則しているのだ。後からいくらカインが文句をつけたところで、広まった噂はどうにもならない。勝負に負けてなお、ギルドを存続させることは難しいだろう。
ちなみに、この場所にカインが残っていたとしても、引くに引けない状況を作って同じ状態にするつもりだったので、もうこの時点でカインに逃げ場はなかった。今まで自分も勝手な解釈で好き勝手やっていた報いが来たのだとしか言いようがない。
「では、この時をもって冒険者ギルド本部長として、このギルド戦の成立を宣言する!!」
ゲオルゲガーさんの大きな言葉に、ギルド内が大きく湧いた。




