【四の扉10】047)ロヴァ
「お、帰ってきたな。お前らが先か」
スタート地点で待っていたゲオルゲガーさんの言葉に、私は小首を傾げる。先に戻って行ったのはカイン達の方だ。まだ辿り着いていないのだろうか?
「ん? なんでカインの方の案内人が一緒にいるのだ?」
私たちの後ろに隠れるようについてきて、森の中から様子を伺っていたポルクとラザをめざとく見つけるゲオルゲガーさん。
「実は、、、」
とウェザーの説明を聞いて「なるほど」と納得する。
ゲオルゲガーさんに怒られるわけではなさそうだと、おずおずと森から出てきた2人に「災難であったな」と労いの言葉をかける。それから後ろにグリンと向き直ると、レジーの手により早々に脱落していた、カインのギルドの3人を睨みつけた。
「ヒッ」睨みつかけられただけで、怯えて一塊になる3人。よく見ればブルブルと震えている。私たちが帰ってくるまでに果たして何があったのだろう。
そんな3人をひとしきり見て、ふんっと鼻を鳴らしたゲオルゲガーさんは「では、カインは間に合わぬかもしれんな」と呟く。
ゲオルゲガーさんの定めた期限、5日間にはまだあと丸一日残っている。それならば帰って来れそうだけど?
私が納得いかない顔をしていたのを見て、ゲオルゲガーさんは私に向かって言葉を続ける。
「お嬢ちゃんはまだまだ分かっていないようだが、案内人も地図もなく、見知らぬ森の中を動くのは間抜けのすることだ。まぁ、あいつらなら死なぬとは思うが、今頃は散々迷っている最中だろうな」と楽しそうに笑った。
「ま、ルールはルールだ。明日まで待って帰って来なければ、カイン達は失格。救援に向かうことにしよう。ところでウェザー、お前らは何を見つけてきた? 見せろ」
「え。一応カインが戻ってきてからにしようよ。ゲオルさん」
「む? それもそうか。では、あとは自由時間だ。好きに過ごせ!」
そのように言われた私たちはキャンプの準備を整えてから、思い思いの時間を過ごす。と言っても良い時間だったし、あんまり遠くに行くのも怖いから近くをうろうろしていたけれど。
他の仲間、特にレジーなんかは結構遠出していたみたい。逆にウェザーはゲオルゲガーさんと何やら話し込んでいた。
その夜、みんなで焚き火を囲んで夕食。ゲオルゲガーさんを中心に騒がしい時間が過ぎてゆく。そんな中で私がふと、隣にいたフィルさんに大滝で帰りがけに見かけた、虹を生む鳥を見かけたと話した瞬間、周囲が静寂に包まれた。
「え? 何?」全員の視線が私に注がれている。
「ちょっとニーア、今のもう一度言って?」ウェザーに促された私は
「えっと、だから羽が虹色でね。虹の先で飛んでいて、まるでその鳥から虹が生まれているみたいで綺麗だったなぁ、、、、って」
焚き火に照らされたみんなの目が怖い。え? もしかしてなんかまずことを言った?
「、、、ニーア、、、」
「は、はいっ」ウェザーの言葉に背筋を正すも、「なんで教えてくれなかったのさ、、、」とウェザーはガックリと肩を落とす。
「え?」困惑する私を見て、ゲオルゲガーさんが「お嬢ちゃんはとんでもないものを見たのだよ」としみじみと言うと、ポルク君も続く。
「ニーアさんの見た鳥は、多分、”ロヴァ”という鳥です。ほとんど伝説みたいな話しか残っていなくて、たとえ異世界の話でも、創作ではないかとされていました。羽の一枚も僕らの世界には存在せず、口伝のみが伝わっている鳥です」
「、、、じゃあ、もし羽を拾ったりしたら、、、」
「多分、、、大国と教会が奪い合う事態ですね」ポルク君が怖いことを言う。
、、、、私、とんでもないの見ちゃった。
その後はロヴァ、という鳥の話で盛り上がり、曰く、ロヴァは幸運の鳥であるとか、いやいや逆に、何かが起こる予兆だとか、みんなが好き勝手に言っていた。とにかく、ギルドの職員なら一度は見てみたい幻の鳥だと言うのはよく分かった。
そして翌日。朝になっても帰って来なかったカイン達3人を待ちながら、私は滝で遊んだり、レジーとマッピングの反省会を行なったり、フィルさんの美味しい料理に舌鼓を打ったりして過ごす。
ようよう日も暮れて「いよいよ迷ったか。面倒な」とゲオルゲガーさんが呟いた頃、ようやくカイン達が帰ってきた。
カイン達は目の下にはっきりとクマがあり、夜通し歩き回ってきたことがひと目で分かる。
「うむ。なんとか間に合ったな!」というゲオルゲガーさんに、疲れの見えるカインは小さく舌打ちを返すにとどまった。
そんなカインに対し、疲れなど気にもしないように、ゲオルゲガーさんが畳み掛ける。
「戻って早々で悪いが、早速宝の鑑定を行おうではないか! 両者、準備はいいか!?」
カインは少し不満そうだったけれど、こちらをみて少しニヤリとしながら、金色の鱗を差し出した。
それを興味深そうに眺めるゲオルゲガーさん。
「ほほう、金色の鱗か。確かベティオルズの記録にあったお宝だな。。。しかし、魚自体はどうしたのだ」
ゲオルゲガーさんの質問に嫌そうに顔を顰めながら、「途中で捨ててきた。鱗があれば十分だろ!」と吐き捨てる。どうも、生かしたまま持ってくることができなかったみたいだ。案内人も、荷物持ちもいなかったのが影響したのだろうか。
「そうか。それではウェザーの方は?」
ゲオルゲガーさんに促されて、ウェザーがだらりとした緑の物質を取り出す。
「それは?」
「ゲオルさん、これ、掴んでちょっと振ってみてよ」
ゲオルゲガーさんが訝しげにしながらも、言われた通りに振ると、ズアっと風を切る音がして、地面に一筋の線が現れる。
「、、、これは、まさかとは思うが、ビード鉱石、か?」
「さすが、ゲオルさん。説明の手間が省けて助かるよ」
驚くゲオルゲガーさんの向こうで、もっと驚いているのがカインだ。
「ビード鉱石!? 馬鹿な! そんなものある訳ない! これは不正だ! 予め用意していた宝を持ち込んだのだろう! そうだろう!」と詰め寄る。
そんなカインに対して
「なるほど、そういう考えもあるか。だが、それは帰還の扉を通ればすぐに分かる。ウェザー、先にビード鉱石を持って行け。そのあとにカインが抜けて、カインの金の鱗が残っていれば、カインの勝ち。カインの手元に何もなければ、ウェザーの勝ち、だ」と宣言するゲオルゲガーさん。
私たちは慌ただしく撤収の準備を整え、帰還の扉の前に集まると、次々と扉をくぐってゆく。
私が帰還の扉をくぐり、無限回廊に飛び出して最初に目にしたものは、先に戻っていたゲオルゲガーさんが、カインの胸ぐらを掴んでいるところだった。




