【四の扉⑨】046)大滝の壁面
「壁面って、、、まさか?」私の言葉に、ポルク君は大きく頷く。
「予想ですが、ゾフィ博士とコーンズ博士はこの場で持ち帰る宝で言い争いになったのではないですか? 生物学者のゾフィ博士は金の鱗を持つ大魚を、コーンズ博士はビード鉱石を。そしてゾフィ博士の意見が通った。ゾフィ博士がリーダー格で、妹さんのこともあったのでしょう。コーンズ博士はそれがずっと悔しくて、後年、論文にしてまとめたのでしょう! ああ、その気持ちは分かります。僕だって目の前にビード鉱石があるのに持って帰ることができないなんて、悪夢以外の何者でもない! ゾフィ博士と袂を分かった気持ちも理解できますよ! でしょう!?」
ポルク君がめちゃくちゃ喋る。ちょ、分かった。ビード鉱石っていうのがすごく貴重なものだっていうのは良く分かったから、ちょっと落ち着こう? ね?
「ま、ビード鉱石の産出場所も、ことの経緯も全部ポルクの予想だけどね」と逆にウェザーは静かなものだ。
「ですが!」興奮冷めやらぬポルクにスッと右手を出すウェザー。
「とにかくきっかけは掴んだ。あとは確認しよう。もしも本当にビード鉱石があるなら、金色の魚だろうが虹色の魚だろうが、そんなの目じゃないからね」
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「、、、先程はつい興奮してしまいましたが、、、こんな絶壁どうやって、、、」
先ほどまでの勢いは何処へやら、ポルクは大滝が穿った穴を除いて困惑している。確かにこの絶壁を降りながら調べるというのは無理な気がする。
「いや、それについては心配ないよ」
ウェザーの言葉で「出番だね」とレジーがグーっと伸びをする。
「さっきから難しい話で疲れちゃったよ!」
そんなふうに愚痴ったレジーは、その場でぴょんぴょんと飛び上がると、「よっと」となんの準備もなく滝壺に飛び込んだ。
「!? レジー!!??」
そのまま滝壺に落下するかと思われたレジーは、空中でとんっ、とんっとステップをしながら、滝壺の中央で踊る。
「、、、どうなってるの?」唖然とする私やポルク。
「レジーは自分の触れた水分を固めることができるんだ」とウェザーが説明してくれた。つまり、固めた瀑布の上を移動してるってこと?
レジーのギフトらしいけれど、そんなこと可能なの??
私の疑問をよそに、実際に空中を歩いているレジーは、少し楽しそうだ。
「レジー!! 悪いけれどそのまま壁面を確認して!」ウェザーの頼みに、レジーはステップを踏みながら滝壺の方に降りたり、水飛沫を上手に踏みながら、私たちよりも高い場所へ駆け上がったりする。
そんな姿を見て「これ、さっきポルク君が落ちたとき、私が助ける必要あったのかな」と口にすると、「いや、ニーアの判断は間違っていなかったよ。立ち位置から考えたら、滝壺に落ちるまでにレジーが間に合ったかは微妙だし、下まで落ちたらポルクが怪我しない保証はなかったからね」とウェザーが言ってくれた。
そうこうしている内に、レジーが一旦戻ってくる。
「うーん。鉱石らしいものは見つからないよ。崖に生えていたのはちょっとした蔦くらい」
「そうか。一応滝の裏側も確認してみようか? とにかくお疲れ様、今フィルさんがお茶の準備しているから、少し休憩しよう」
お茶を飲みながら一息入れている時、ふいにレジーが「ところで、ビード鉱石ってどんな色なの? 形は?」と聞いてきたのでびっくりする。レジー、見た目も分からないのに探していたの?
「なんか珍しい鉱石なら、キラキラ光ってるんじゃないの?」すごくざっくりとした認識だったらしい。
「いえ、ビード鉱石は光ってはいないですよ。淡い緑の鉱石で、止まっているときは柔らかいので岩の合間なんかに、葉脈のように佇んでいるそうで、、、」そこまで言ってポルクがハッとする。
、、、、さっき、レジー、「崖に生えていたのはちょっとした蔦くらい」って言っていなかったっけ?
みんなの視線を浴びたレジーは、てへぺろってして、美味しそうにお茶を飲んだ。
「これが、ビード鉱石」ポルクが感動に打ち震えながら、ビード鉱石を見つめる。
お茶の後再度滝壺に挑んだレジーは、あっという間にビード鉱石を採ってきたのだ。
ビード鉱石は確かに不思議な鉱石だった。レジーが掴んで滝壺から駆け上がってくる時は、固まった緑の枝みたいだったのに、レジーが地面に置くとへにゃりとなって、力を入れなくても簡単に丸めることができた。
「これは本当に、不思議だね」ウェザーが感心したようにビード鉱石を触る。
「ウェザーでも初めて見るの?」
「加工済みの物を一度だけ見たことはあるけれど、原石は初めてだね」
ウェザーが見たことないというと、すごく珍しい物の気がするから不思議だ。
「とりあえずポルクのおかげでお宝は手に入れた。さ、急いで帰ろうか」
私たちは撤収の準備を終えて、急ぎきた道を戻ろうとする。どのみちどこかで一泊する必要がある以上。これ以上はのんびりしていられない。
私は最後にもう一度だけ、この雄大な姿を目に焼き付けようと大滝を振り返る。
「あ」
虹が出ている。
そして虹の先に、虹色に輝く尾の長い鳥が気持ちよさそうに翼を広げていた。
きっと、この世界にはもっと沢山の素晴らしい生き物や宝があるのだろう。
今度は、もっとゆっくりと来てみたいな。そんな風に思いながら、私はその場を後にした。




