【四の扉⑦】044)大魚を釣るのは
これは一体どう言う状況なのだろう。
私は今、大滝の流れによってできた大きな穴に向かって、釣り糸を垂らしている。私だけではない、ウェザー達も、そして現在争っているカインのパーティーも大人しく釣り糸を垂らしているのだ。全員の狙いは1つ。黄金の鱗を持つ大魚だ。
上空をチピピと小鳥が飛んでゆく。特に誰かが喋るわけでもなく、黙って釣り糸を垂らす昼下がりの午後。。。。本当にこれは一体どう言う状況なのだろう。
「それにしても、よく人数分の釣竿なんか持っていましたね」
沈黙に耐えかねた私は、隣で同じように竿を眺めているフィルさんに声を掛ける。
「さっきも言ったけど、釣竿は基本装備の一つよ。釣りはもちろんだけど、色々なことに使えるから」
「色々なこと?」
「例えばだけど、この釣り糸も釣竿も結構特殊な素材で作られているの。人を2〜3人くらいなら引っ張り上げても切れることが無いくらい」
「それって凄いですね」
「ね。その分とても高価だけど。それでね。例えば崖の上に荷物を持ち上げたい時なんかを釣り竿にくくりつけて、リールを回せば簡単に持ち上げられるのよねー。もちろん、持ち上げられるだけの力はいるけどね」
「他にもちょっとした罠に使ったり、竿の方も本当に困った時は武器代わりに使えるし、結構汎用性が高いのよね」
「はー、なるほど」私は感心しながら竿を振ってみる。私が片手で動かせるくらいの軽なさのに、凄いなぁ。
「ん?」
私が何度か竿を振った直後のこと、急に竿に重さを感じた。
「あれ? なんか…」
フィルさんに様子がおかしいと伝えようとした瞬間、私の体が滝壺に向かって引っ張られ始める。
「え!? ちょ!!」
「!! ニーアちゃん!!」
慌ててフィルさんが私に抱きついて、どうにかその場に止まる。そして改めて竿をてみると、ググーっとしなっている。
「これ! どうすればいいんですか!?」
「ゆっくり、ちょっとずつでいいから、リールを巻くの!」
言われるがままにちょっとずつ、ちょっとずつリールを巻く。時折一気に引っ張られて、釣り糸が再び伸びてゆく。
「わっ」
「大丈夫、ゆっくり引けば大丈夫だから」
とにかく慎重に引いてゆくことしばし、ようやく反応が緩くなってきた。と、急に竿が重くなる。水中で暴れていた生物が、水面へと引き出されたのだ。
「重いけど、、、ぐぬぬぬ」
頑張って引き上げると滝壺から現れたのは、金色に輝く魚。日の光を浴びてキラキラしている。
「綺麗、、、」
「ニーアちゃん! やったわね! 大当たりよ!」
「よく頑張ったね」フィルさんやウェザーが労ってくれているところに、カイン達もやってくる。私は警戒して一歩後ずさる。
「おいおい、何にもしねえよ、俺たちも見るのは初めてなんだ。ちょっと見せてくれよ」
「、、、、いいですけど、あんまり近づかないでもらえますか」
「警戒されてんな。そうだ、おい、ポルク、お前勉強のために見せてもらえよ、こいつなら問題ねえだろ」
「、、、はぁ、どうぞ」
カインの後ろから魚を覗き込んでいたポルクが、おどおどしながら前に出てくる。私も少し前に出て、魚を突き出した瞬間だった。
どんっ
鈍い音がしたと思ったら、私の目の前にいたはずのポルクが横に吹き飛ぶ! カインが蹴り付けたのだ! そのまま滝壺へと吸い込まれそうになるポルクに、私は反射的に竿を捨てて手を伸ばす!
かろうじて掴んだ右手、しかし力のない私では一緒に落ちてしまいそうだ!
「ニーアちゃん!!」
ポルクを掴んだまま一緒に落ちかけた私を、フィルさんが掴んで引き戻してくれる。引っ張られた勢いでポルクと一緒に地面に転がった。本当に危なかった。
「何するんですか!!」
カインを睨みつけると、カインは私の釣った黄金の魚を掴んで眺めている。私の言葉にゆっくりとこちらを見ると、
「何って? ルール違反はしていないぜ? 俺たちはお前らのパーティに危害は加えていない。俺たちの内輪揉めに、お前らが勝手に首を突っ込んだだけだが?」
「、、、最低! 返して! その魚! 私が釣ったんだから!」
「釣ったのはお前だが、お前が捨てたんでね。俺が拾った。だから俺のものだ。それとも、力ずくで奪い取るか? 俺たちを攻撃したらルール違反で失格だぜ」
「っ!!」
悔しくて涙が出そうだ。そんな私の肩にウェザーが手を置く。
「カイン、それじゃあ、君たちとポルクとはここで契約終了ということでいいね?」
「ウェザー!? 今はそんなこと、、、」私が抗議しようとすると、肩に置いた手に少し力が入る。
「今回のルールとは別だけれど、冒険者と案内人の契約としては明確なルール違反だ。この場合危害を加えられたポルクは一方的に契約を破棄できるし、帰還したら訴えることもできる」
「ああ、好きにしろよ。どうせもう用無しだ。俺たちを訴える度胸があるなら、な」
「だってさ、どうするポルク?」
「、、、、訴えるかは帰ってから決めますけど、契約はここまでです」
地面に手をついたまま、ポルクはカインを睨んでいる。
「よし、じゃあポルクは、僕らと改めて契約しよう」
「は、はい。いいんですか?」
「もちろん、じゃあ契約は成立だ。と、そっちの荷物持ち(ポーター)の彼も宜しく」
と、そこにカインが待ったをかける
「おい待て、荷物持ち(ポーター)は関係ない」
「あるさ、案内人の契約解除ということは荷物持ち(ポーター)も一緒さ。それとも力づくに出てみるかい? 先ほど契約は成立したから、ここからは僕らのパーティへの危害と見做すけど?」
しばし睨み合うウェザーとカイン。
「ちっ、勝手にしろ。おいお前ら、撤収だ。ウェザー、精々釣りを頑張ってくれや、今度は銀色の魚でも釣れるんじゃねえか?」
そう言って近くにあった岩を持ち上げると滝壺へと投げ込んでから、笑いながら去ってゆくカイン達。
「、、、すみません、僕のせいで」泣きそうなポルク。
「気にしなくていいよ。もう一回釣ればいいから!」と殊更明るく声を掛ける私に、「釣るのはもう無理かもね」と冷や水を浴びせるウェザー。
「金色の魚がどれだけいるかわからないけれど、残った魚は警戒していると思う。ご丁寧にカインが岩も投げ込んでくれたことだし」
「本当にあの人最低ですね」
「うん。だからもう容赦はしない。必ず勝てる宝を見つけて帰ることにする」
「必ず勝てる宝? 他に何か知っているの?」
ウェザーはふるふると首を振ってから
「これから考えるさ」と言った。




