【四の扉⑥】043)遭遇
「レジー!? なんで!?」
暗がりから現れたレジー。私の驚きに対して
「なんで? って、追いかけて来たに決まってるじゃん。ニーアはぼんやり屋さんだなぁ」
「ぼんやり屋さんって、、、そうだ! 追いかけてきた奴らは!? レジー、怪我はない!?」
慌ててレジーの体を触って無事を確認する。レジーはされるがままに、私の頭を撫でて「ニーアはいい子だねぇ」と言う。私の方が年上ですけどね!
「レジーお疲れ様。無理言って悪かったね。それで、首尾は?」私がレジーを心配している肩越しに投げられたウェザーの言葉に「ばっちり」と返すレジー。
「ハルウが頑張ってくれたよ。ね、ハルウ」
レジーに褒められたハルウは、嬉しそうに「キャン」と鳴く。
私たちと別行動となったレジーは、私たちを追いかけて来たカインの手下をどうやったのか無力化して、拘束したらしい。そこからはハルウのターンだ。レジーはハルウに手紙をくくりつけ、ゴール地点で待機しているゲオルゲガーさんの元へと走らせた。
ハルウの運んだ手紙はこうだ「自分たちの跡をつけてきて、痺れ薬を使おうとしたので拘束した。こちらから危害を加えるわけにはいかないので回収してほしい」。その手紙は無事にゲオルゲガーさんの手元へと届き、配下を一人派遣してくれた。
拘束していた3人を引き渡すと、レジーはハルウの鼻を頼りに急いで私たちを追ってきたと言うことだった。
「それは、すごく大変だったね。あ、お茶入れるから座ってて!」
「お茶も嬉しいんだけど、お腹が減ったんだよね。ニーア、何か食べるものない?」
「あらあら、お疲れ様。すぐに何か簡単なものを作るわね」
レジーの希望に応えたのは私ではなかった、私たちの騒ぎを聞いてフィルさんがテントから出て来たのだ。
「あ、ごめんフィルさん、起こしちゃった?」
「いいえ、ちょっと前には目が覚めていたから大丈夫よ。レジーちゃん、準備するからちょっと待っていてね」
「やったフィルさん、愛してる!」
こうして、真夜中にも関わらず私たちはちょっとした軽食をつまみながら、レジーとハルウの武勇伝を拝聴してから、夜も白み始めた頃、私は再び眠りについた。
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「ふわあ」
少し余裕を持って出発した翌朝のこと。変な時間に起きてしまって生活リズムの狂った私は歩きながら大きなあくびをする。
無事にレジーとハルウと合流した私たちは、黙々と大滝に向かっている最中だ。
囀る鳥の声と木漏れ日。
異世界でこんなに緊張感がないのもどうかと思うけれど、雰囲気は完全にピクニック気分。ノンノンはハルウが周囲に危険がないと判じた上、ウェザーからも「完全に安心はできないけれど、猛獣が出た記録はない」と言うので私はかなり気を抜いていた。
「大滝まではもう少しだね。少し休憩しようか」
ウェザーの言葉で一息入れる。微かだけど大量の水が地面に打ちつける音が、風に乗って聞こえてくる。本当にもう少しで目的地だ。
「カイン達はどうしているんだろ」
昨日の3人組以外、カインからの妨害はない。もちろん彼らもお宝を探しているのだろうけど。
「さてね。カイン達がベティオルズの記録に目を通していれば、案外大滝でばったり、なんて事もあるかもしれないね」
ウェザーの本気とも冗談とも取れない言葉に私は顔を顰める。できればそんなことになってほしくないなぁ。
その後、大滝にたどり着いた私たちは、カインのパーティと鉢合わせることになるのである。
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「おやおや、ミスメニアスの諸君、奇遇だね。その細い脚では大滝までは大変だったろう」
ニヤニヤとしながら嫌味を言ってくるカイン。
「そうだね。まぁ、カイン達がハンデをくれたおかげで楽になったよ」
笑顔で返すウェザー。
「ハンデ?」
「うん。わざわざ序盤でパーティの中から3人も脱落させるなんて、太っ腹だよね。僕らに本気は必要ないと思って、わざわざ減らしてくれたんだろ?」
カインのこめかみがピクリと動く。
「……相手への攻撃は禁止されていたはずだ」
「うん。彼らは自ら進んで棄権を申し出てくれたみたいだね。ゲオルゲガーさんも受理したから今頃ゴールでのんびりしているはずさ」
「……使えねえ奴らだ」笑顔を消して、不機嫌そうな様子を隠そうともしなくなったカインに、ウェザーが続ける。
「ところで、カイン。君がよくこの場所を知っていたね。ベティオルズの記録に目を通しているなんて意外だったよ」
「ベティ、、、なんだって? おい」カインは後ろに控えていた気の弱そうな案内人に目を向ける。案内人はびくりとしてから「ベティオルズですよ。お伝えしたじゃないですか」と告げる。ベティオルズを知っていたのはカインではなくて案内人の方だったのか。なんとなく納得。
「そちらの案内人は? 僕はウェザー、同業者だよ。よろしく」
「あ、ポルクといいます。よろしくお願いします」と手を差し出そうとしてところで、カインに睨まれながら「おい、馴れ合うな」と苦言を呈されて、慌てて引っ込める。
ウェザーは小さく肩をすくめ、カインを見た。
「まぁいいや、それよりも君たちがここに来たってことは」
「ああ」カインが腰に手を当てる。腰には剣。私は攻撃してくるのかと思って、「危ない!」と声を上げる。
そんな私を怪訝そうに見ながらカインが取り出したのは、ニーア棒と同じくらいの長さの棒。カインが腕を振るとしゅんっと伸びる。。。あ、これ釣竿だ。
「不愉快なお前らの相手をしている暇はねえ。さっさと釣って、帰るぞ」
カインの音頭でカインの部下のグレアとヒーチも釣り竿を用意し始めた。
狙いはもちろん、”金の鱗”を持つ大魚なのだろう。
「ニーアちゃん、ほら、これ」フィルさんが私にも釣竿を渡してくれる。「え? え?」と混乱する私に「釣竿は冒険者の基本装備の一つよ。色々なことに使えるから」と簡単に説明しながら釣りの仕方を教えてくれる。
大滝は、大きな竪穴の中に吸い込まれるように流れている。竪穴のヘリから覗き込むと下の方に滝壺が見えた。落っこちたらと思うとゾッとする。
「ニーア、君、異世界で転がるのが好きだからって、こんなところで転がらないでよ? 怪我するから」
ウェザーの言葉に私は「好きで転がっているわけじゃないよ!」と抗議するも、その間にみんな一斉に滝壺に向かって釣り糸を垂らしてゆく。
こうして、異世界で何をしでかすかわからない相手を隣に、唐突に釣り大会が始まったのである。




