【四の扉⑤】042)見知らぬ星空
カインのパーティの嫌がらせ、というか妨害工作をひとまず凌いだ私たち。いくつもの小さな滝の横を通り抜けながら、私は言葉少なに歩く。
カイン、グレア、ヒーチのゴーウィン商会でもTOP3の実力を持つという3人が、何処かで襲いかかってくるかと思うと気が気ではない。
そんな私の心配をよそに、フィルさんなどはご機嫌だ。
「わぁ、綺麗ねぇ」と、ちょっと尋常ではない大きさのリュックを平気そうに担ぎながら、周辺の景色を楽しんでいる。
「この辺ならいい獲物が獲れそうだ」とノンノンも少しだけ尻尾をボワっとさせていた。
…なんというか、私以外は大変リラックスしている。
「そろそろ休憩しようか?」
ウェザーの言葉で、フィルさんがリュックを下ろしてお茶の準備を始める。ノンノンが頑張って火を起こしているのを見て、シグルは元気かなぁ、そしてお姉ちゃんは、と思う。
私たちが初めてこのギルド、ミスメニアスを訪れてからそれなりに日々が過ぎた。お姉ちゃん達もとうに村に帰っているだろう。帰りは教会の護衛付きだから安全面ではなんの問題もないはずだ。なんとなくお姉ちゃんから手紙が来たら返せばいいやと思っていたけれど、この冒険が終わったら手紙を書くのも悪くないかもしれない。
私もフィルさんを手伝いながら、お茶の準備が整いようやく一息。一緒に出されたクッキーの甘さが体に染み渡る。クッキーはフィルさんのお手製だ。女子力高い。先ほどまでの緊張感が解きほぐされ、少しだけ周りを見る余裕ができてきた。
私たちが休んでいるのは、滝というにはささやかな、沢のように水がサラサラと流れる場所の一角。鳥の声と滝の音、そして穏やかな日差し。異世界でなければこの辺りで昼寝をしたい。
「、、、というかここはどこだろう」ふと、言葉がこぼれた。私が空間移動をしたことで、自分がどこにいるのかよく分からなくなってマッピングは諦めた。レジーもいないので再開の方法がわからなかったのだ。これは今後の課題だろう。そんなわけで、恥ずかしながら私は今自分がどこにあるか分かっていない。
「そうだね。。。ちょっとニーアのマッピング用のメモ帳貸してくれる? だいたいスタート地点からすると、、この辺だね」
私が途中まで書き込んだマップに、ざっとだけど位置関係を書き込んでいくウェザー。わあ。経験差とはいえ自信無くすなぁ。でもまぁ、この際だ「それで、目的地はどこなの?」と聞くと、「あそこ」と一番大きな滝を指差す。
「僕も初めてきたけれど、多分、ここはベティオルズだと思うんだ」
「ベティオルズ?」
「そう。ベティオルズはこの異世界に来て、物語みたいに旅情溢れる報告をした案内人の名前で、敬意を表してそう呼ばれている。結構レアな扉みたいで、挑戦記録が少ないんだけど、ベティオルズの手記の通り、大滝を囲むようにたくさんの滝があるこの風景、まずベティオルズに違いない」
ベティオルズさんは、学者の人達の依頼でこの場所を訪れた。感受性豊かなパーティだったらしくこの世界にとても感動したみたいで、報告書は実に3冊分にものぼったそうだ。
「ベテランの案内人には結構有名な話だよ」
「ふーん。ベティオルズさんの気持ちもわかるね」
「うん。これは見事だ。そしてベティオルズのパーティがこの場所から持ち帰ったのは”金の鱗”と呼ばれる大きな魚の鱗なんだ」
「その魚を釣ったのが、大滝あたりってこと? 結構距離があるのね、、」
「そうだよ。今日中には辿り着けない距離だから、今日はもう少し進んだらキャンプ。順調にいけば明日の昼頃には行けるんじゃないかな。さ、そろそろ出発の準備をしよう。多少なりとも近づいておきたいからね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その夜。ウェザーとノンノンは、交代で見張りをしながら休息をとってくれるということで、私とフィルさんはお言葉に甘えて早々に眠りについた。かなり疲れていたのであっという間に寝てしまったにも関わらず、私は夜中に目が覚めた。
なんとなく外の様子が気になって、フィルさんを起こさぬようにそっとテントを出る。パチパチと爆ぜる焚き火のそばで、ウェザーが天を仰いでいた。
こちらに気づいて、ウェザーが私に視線を移す。
「ニーア、どうしたの?」
「なんか目が冴えちゃって」
「そうか。なるべく休んだほうがいいけれど、まあいいや、ちょっと空を見てごらん」
ウェザーに誘われるまま、隣に座って空を見上げる。
満天の星、星、星。
手を伸ばせば1つくらい掴むことができそうだ。
「、、、私たちの世界と同じように、星が瞬いているんだね」
私がいうと、ウェザーが
「でも、同じに見えて、同じじゃないんだ」
「?」
「この世界にある星空は、僕らの普段見ている星図とは全く違う。僕は異世界で空を見上げるたびに、知らない場所にいるんだなと思うんだよね」
「そうなんだ、、、」
同じように見えて別の場所。そのように言われると、私も今は異世界にいるのだと実感する。
しばし2人で黙って星を見上げていると、ガサガサと茂みをかき分ける音が。
「ウェザー!」
私がいうより先に、ウェザーは焚き火から薪を取り出して松明にして、音の方へと向ける。
わずかな時間だけど、緊張が走る。
けれど、そんな雰囲気を打ち破ったのは、物音の方からした声だった。
「いやー、やっと追いついた。思ったよりも疲れたー」
「キャン!」
暗がりから出てきたのは、レジーとハルウだったのだ。




