【四の扉④】041)レジーのギフト②
カインの手下を滝壺の対岸から見ていたレジーは、手下の3人が飛び出すと同時に、数歩滝壺へ足をすすめる。先ほどミスメニアスのパーティ全員が通って来たように、滝壺に沈むことなく水面に立った。
それを見た手下3人は「浅瀬がある」と判断し、一斉に滝壺へと足を踏み入れた次の瞬間である。
「うわっ!」
バシャン! と大きな音を立てて、滝壺に沈む3人。滝壺は男達の胸近くまで深さがあり、皆、慌てて岸へと戻ろうとする。岸まで後一歩という瞬間、3人の体がぴたりと止まった。
「なんだ!? 体が動かねえ!?」
「こっちもだ!」
「どうなってやがる!?」
どうにか脱出しようと乱暴に体を動かすが、水面に浸かっている胸から下がピクリとも動かない。自由に動かせる腕で水面を叩くも、硬質な反応と共に拳が跳ね返された。
「だめだ!」
「あの女の能力か!?」
混乱するジュゲーとハーロックに、「おい、”アレ”を使え!」とソーヴォが叫ぶ。
「急にどうした?」
「ばか! 後ろを見ろ!」
ソーヴォの言葉に無理くり上体をひねって背後を見ると、レジーが散歩でもするようにゆっくりとこちらへ近づいてくるところだった。無邪気そうに笑っているのがかえって恐怖を増長させる。
「くっ」慌ててジュゲーが痺れ薬を生成し始めると、風の神シルファの加護を得たハーロックがレジーに向かって風を吹かせようとする。自分達が後ろを向けぬ以上、多少は痺れ薬を吸い込んでしまうかもしれないが仕方ない。まずはあの女を無力化することで体勢を立て直さなければならない。
レジーが程よい距離まで近づいて来たところで、ハーロックはギフトを発動させ「くらえ!!」と叫んだ! 同時にレジーに向かって突風を吹かせる!
しかし
「よっと」
レジーは水面上でしゃがみ込むと、水を3人にかけるようにばしゃりと掬い上げる。すると、レジーに掬い上げられた水は、レジーの目の前に水の壁を作るようにして固まった。
レジーの作った水の壁がハーロックの風を弾き返し、行き場を失った痺れ薬がキラキラと水面に溜まってゆく。
「ウェザーの言った通りだったね」
完全に風が止まってから、レジーは再びゆっくりと3人へ近づく。
未だに身動きの取れない3人に、レジーは「ていっ、ていっ」とまるで水遊びをするように、足で水をかけてゆく。その度に3人の動ける範囲は狭まっていった。まるで氷で固められているように、先ほどまで動いていた腕も固められている。
「なんなんだ!? なんなんだお前!」
「んー? 教えてあげてもいいけれど、いくら払う?」
レジーは完全に3人の前に回り込むと3人の眼前にしゃがんでから、にっこり笑ってそのように言い、マフラーのようにレジーの首にくるまっていたハルウが「キャン」と鳴いた。
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「、、、うまくいった、、、」
私は、ニーア棒を握りしめながらへたり込む。
「上出来だよ、ニーア」
ウェザーの言葉に「ありがとうございます」と言いながら、ようやく立ち上がる。こんなに大人数を一度に瞬間移動できるのか心配だったけれど、ウェザーの予想通り私に触れている人なら問題ないみたいだ。
「それよりも、レジーは大丈夫かな?」
ウェザーの立てた作戦は、レジーとハルウを残して、残りのパーティを私が瞬間移動。カインの手下を撒くというものだった。それならレジーとハルウも一緒にと思ったけれど、
「いや、レジーにはあの場所であいつらを無力化してもらいたかったんだよ。全員で逃げたらまた追いかけてくるだろ。意外に厄介なんだよ、痺れ薬って」
「それなんですけど、ルール違反じゃないんですか? 痺れ薬って?」
「カインからすれば、僕らが後から訴えても「直接危害を加えたわけじゃない」とでもいうのじゃないかな? たまたま近くにいた猛獣に向けて使ったものが風で流れただけだ。なんて言いそうだよね」
「ずるい、、、」
「そうだよ? ま、これで相手は残り3人。だいぶ楽になったよ」
「3人? 向こうはまだ5人いますよね?」
カイン達のパーティは8人だったはずだ。私たちの跡を付けてきたのは3人なら、残りは5人。
「あと2人は調べた限りゴーウィン商会では見たことなかった。装備からしても案内人と荷物持ち(ポーター)だよ。駆け出しっぽかったから、ニーアと同じだね」
「は〜、よくそんなところまで、、、っていうか、ゴーウィン商会のギルドの人たちを、全員調べたんですか?」
「そりゃあ今回は扉を選べないなら、その時間で相手を調べるに決まってるじゃないか?」と、ウェザーは逆に不思議そうに私を見る。
言われてみれば一番効率がいい準備な気がするけれど、思いつかなかったの? みたいな顔をされるのはなんか悔しい。
「むう」私が何か言い返そうと考えていると、「ほらほら、じゃれ合うのはそこまで」とフィルさんが割って入ってきた。別にじゃれていた訳ではないのに。
「そうだね。こっから先は色々気をつけないといけないから」ウェザーが少し顔をキリリとさせる。
「また、サンドワームやゴーレムみたいなのが出るんですか?」そうであれば、私も気をしきしめなければならない。
「その可能性もあるけど、一番困るのはカインとの鉢合わせかな」
「相手はもう3人しかいないなら、無茶はしてこないんじゃないですか?」
「いや、この3人は性格はともかく、A級の冒険者だ。戦闘力も普通の相手とは比べ物にならない。残っているカインと、グレア、ヒーチの3人がいたから、ゴーウィン商会は大きくなったんだよ。残りはオマケみたいなものさ」
まだ、美しい風景を楽しむわけにはいかないみたいだ。




