【四の扉③】040)レジーのギフト①
互いの準備が整ったのを確認して、ゲオルゲガーさんが開始を宣言。しかし、どちらもその場から動こうとはしない。
前回私たちはカインのパーティに先行させることで、後からゆっくりと妨害工作を行なって、彼らを出し抜いた経緯がある。当然のことながら、向こうもその二の舞を警戒しているのだろう。
一方の私達も先に動いて、後をつけられてはたまらないと思っている。ノンノンやフィルさんの実力は疑いようがないけれど、戦闘の玄人が背後から襲ってくるなら、少なくとも私には対処のしようがない。一応危害を加えないというルールがあっても守られるとは限らない。人の命は1つしかないのだ。
「………どうした? 早く出発せんか」
私たちの睨み合いに堪えかねたゲオルゲガーさんが煽る。それでも動こうとしない双方に向かって
「ああもう面倒くさい! これではいつまで経っても始まらん! ウェザー! お前らは向こう! カイン、お前らはそっちに進め! さぁさぁ行け行け!!」
ゲオルゲガーさん、面倒臭くなってきたっぽい。
試合開始というよりもゲオルゲガーさんに追い払われる形で、私たちはそれぞれ真逆の方向へ進み始める。私はあらかじめ準備しておいた、真っ直ぐにマス目を書いた手帳を開いて、歩きながら進む道を書き込んでゆく。正直歩きながらだと書きづらく、線はガクガクだ。それを隣で見ているレジーが
「うん。ガタガタで見れたものじゃないね」と笑いながら指差してくる。
「もう! これでも頑張って書いているのに!」先日からレジーに教えてもらっているマッピング。今回は初めての実践練習だ。それにしても私の隣で笑いながら同じようにマッピングしているレジーの手元は線がぶれることもなく、きれいに描かれている。むう。
私だって初めての実践でうまく行くとは思っていない。いいもん。私なりに頑張るから。
それからしばらくはマッピングに必死になりながら進む。一時間ほど進んだだろうか、水音が大きくなるのに気づいた私が上空を見渡すと、そこには見ごたえのある大きな滝と、滝の作る小さな湖。
「うわぁ」
思わず両手を開いて霧のようになった瀑布を浴びる。この世界は少し暑いので、肌に当たる水が気持ちいい。
「ニーア、遊んでないでこっち」
ウェザーに呼ばれて慌ててそちらに行くと「なんでもいいからこの辺を調べているふりをして」と耳元で囁かれ、言われた通りにしゃがんで地面をキョロキョロ。ウェザーも屈んで私と頭を突き合わせた。
「予想通り、カインのパーティが後をつけて来ている」ウェザーの言葉に思わず顔を上げそうになったけれど、かろうじて堪え、「全員で追いかけてきたの?」と聞く。
「いや、レジーの見立てだと3〜4人。多分3人。僕の予想通りの人数だ」
「ウェザーは分かっていたの?」
「詳しくは後で話すけれど、可能性は高いと思った。それでニーアにお願いしたいのだけど、いいかな?」
「、、、、私にできることなら」
「うん、君にしかできない。君のギフトを使いたい」
しばらくウェザーの作戦を聞いた私は、「分かった、やってみる」と拳を握って気合を入れた。
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「おい、まだか?」
「待て、何かを探している。あいつらの動きを止めるのは、宝を見つけてからだ」
ミスメニアスの連中を遠巻きに見つめるのは、カイン子飼いの3人の冒険者だ。
3人のうちの1人、ソーヴォは周辺の物音を消すギフト持ちで、気取られずに追跡することに慣れている。もう一人のジュゲーは体から痺れ薬を生成することのできる人間だ。そして最後の一人、ハーロックは威力はそれほどではないが、自由に風を起こすことができる。
個々のギフトはそれほど強力ではないが、彼らは3人ワンセットで数多くのパーティの足を引っ張ってきた。それは無限回廊内に止まらない。
先日は契約している国の大臣の希望で、政敵である王子の取り巻きを捕らえるためにも駆り出された。彼らの、距離のある場所からの痺れ攻撃は脅威である。
3人がカインに指示されたのは「ウェザー達が宝を見つけたところで、見つからぬように痺れさせて宝を奪ってこい」というものだった。
また、万が一失敗した場合は、痺れ薬でなるべく時間稼ぎをしろという指令も受けている。帰還期限に間に合わないようにするのが理想だ。
そのためこうしてずっと動向を探っているのだ。カインからすれば、この3人は元々探索のほうの頭数には数えていない。
「おい、動くぞ」ソーヴォが指を立てて静かにするように2人に伝える。連中、先ほどまで何かを探していたが、目当てのものは見つからなかったようだ。もう少し静かな場所であれば会話も聞こえたと思うが、声は瀑布にかき消されていた。
滝の付近での探索を諦めたのか、そのままスタスタと滝壺を歩いてゆく
「滝壺を!?」
「おい! あいつら水面を歩いてねえか?」
「ばか、落ち着け、水面なんて歩けるわけねえだろ。多分あの辺は浅瀬になっているか足場にできる岩でも出てるんだろ」
「それもそうか」
「ちっ、ここで飛び出すと流石に見つかるな。迂回するか?」
「いや、あいつらがその先の森に入ったら、俺たちも同じルートを進んだほうが早いし確実だ」
そんな話をしていた時である。
突然、目の前でミスメニアスの連中が消えた。
まさに、消えた、のだ。
「おい!? どうなってやがる!?」
「あの辺に隠し扉でもあるのかも知れねぇ! 慌てて飛び出すのは下策だ。慎重に、様子を見ながら、、、」
と、3人が話していると、ひょっこりと小柄な少女だけが視界に現れた。確かレジーとかいう盗賊だ。レジーは、明らかにこちらに気づいているように指差し、くすくすと馬鹿にしたように笑う。
「、、バレてるな。どうする」
「仕方ねえ! 相手は一人だ。先にシビれさせて何処か見当たらない場所に転がしておくしかねえ!」
腹を決めた3人は、レジーに向かって駆け出した!




