【四の扉②】039)扉の先は
私にとって4回目となる無限回廊。けれど今回は今までの3回と事情が違う。
今までは私を含む依頼主の希望を叶えられる世界を目標にして、ウェザーの星読みや資料の確認に時間をかけてから挑戦してきた。いわば予習済みの世界への挑戦だった。
けれど今回はウェザーに扉を選ぶ権利はない。選ぶのは冒険者ギルド本部のギルド本部長の役にある、ゲオルゲガーさんだ。
ゲオルゲガーさんは私たちとカインの両パーティの実力を鑑みて、無限回廊でも少し先にある扉を選ぶと宣言している。つまり私にとっては今までよりも危険度の高い扉というわけだ。
ただ、ゲオルゲガーさんも無責任に扉を選んで「行ってらっしゃい」で終わりではない。ゲオルゲガーさんを含む2名の冒険者が、私達と共に異世界に降り立つ。
ゲオルゲガーさんたちは帰還の扉の前に陣取って、私たちの帰りを待ち、両パーティが持ってきた宝の鑑定を行い、その場で勝敗を決する。無限回廊から持ち出せるのは1回につき1つだけというルールがあるための処置だ。
「それに加えて、今回はカインの奴らがお前らに危害を加えないかを確認する必要がある」とゲオルゲガーさんが補足してくれる。つまり、異世界の中で私達を全滅させて、自分たちだけで帰ってくるというのを防ぐため。両パーティの了承がなければ、帰還の扉を使用できないと取り決めた。
私たちは無限回廊に行く前に一通り説明を聞いたけれど、誓約書にサインだけして早々に帰ったカインは挑戦直前にその話を聞いて苦い顔をした。何かしら企んでいたのだろう。ちょっとホッとする。
今回扉に入るのは、私たち5人と1匹、それに審判役のゲオルゲガーさんら3人。そしてカインたちは8名のパーティで16人と1匹の大所帯。最初にゲオルゲガーさん達、次に私たち。最後にカイン達が入るということで決まった。
顎髭を触りながらゲオルゲガーさんが扉を物色する。私たちの命運がゲオルゲガーさんの気分次第というのは、あまり気分の良いもではないなぁ。
「ここにするか、、、」とある扉の前でピタリと止まったゲオルゲガーさん。
一度決めてしまえば、何の躊躇いもなく扉を開き「では待っておる」と軽く手を振って扉の中へ。流石ギルドの本部長を担うだけの胆力だと感心。
次々と扉の中へ姿を消し、あっという間に私の番。後ろも詰まっているし、私だけが躊躇するわけにはいかない。一度大きく息を吸って、私は扉の先へと足を踏み出した。
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「霧?」
頬に湿気を感じて目を向ければ、そこに広がるのは圧巻の光景。
緑豊かな小さな崖がいくつも迫り出し、たくさんある段差の中を、白い糸のようにいくつもの滝が通り抜ける、青空も相待って、青と緑と白のコントラストが美しい。
奥の方には距離があっても威容が伝わるほど、殊更大きな滝が流れ、大滝を中心に周辺を取り巻くようにさらにたくさんの滝がある。
先ほど私の頬を撫でたのは、この滝のひとつが生み出す水しぶきだった。
異世界にこんな美しい場所があるのかと見惚れる私の横で、ウェザーが「もしかして、ベティオルズ、か?」とつぶやくのが聞こえるけれど、言葉の意味を聞くよりも、まずはこの風景を目に焼き付けたい。それだけの価値がある景色だった。けれど、そんな幻想的な雰囲気を台無しにしたのは、後からやってきたカイン達。
「ちっ、歩きにくそうな場所だな」
「帰ってくるのも手間だ」
「めんどくせえな」
などと着いて早々に不満を漏らしており、情緒のかけらもない。もっとも、ここは命の危険がある異世界なのだから、景色に目を取られている私の方がダメかもしれないけれど、少しくらいは感動するべきだと思う。
私は「滝壺で汚れた心を洗って貰えばいいのに」と小さくつぶやく。
「さて、全員揃ったな。では、まずは帰還の扉を探すぞ! 近くにあるはずだ!」
ゲオルゲガーさんの音頭で、全員で帰還の扉を探す。ここは敵も味方もない。みんなで黙って協力し合う。程なくして無事に帰還の扉は見つかった。先程とは別の滝の滝壺のほとりにポツンと扉は佇んでいた。
「よし、ではここがスタート地点とする。我々はこの場で待機しているので、これ、という宝を見つけたら帰ってくるように。期限は5日後まで。一方のパーティが一人も帰ってこない場合は、もう一方のパーティに捜索してもらうのでそのつもりで準備しておけ。ギブアップの場合も両チームが帰還するまでは帰れぬのでそのつもりで」
ゲオルゲガーさんの説明にカインが手を上げる
「ゲオルゲガー、そのパーティが帰ってこないってのは、相手がどこかで全滅してたらどうするんだ?」
「死体を引きずってこい。1人でもいい。傷を見れば冒険によるものか、人の手によるものか判断できる。生き残りが一人でもいれば其奴から話を聞いて判断する」
すごく不穏な会話。相手のチームでも死体を引きずってこの場にやってくるのはごめん被りたい。
「分かった。それから、危害を加えるのはともかく、足を引っ張るのは構わないな?」
「なんだ、カイン。聞きたいことがあるなら出発前に聞け。相手を出し抜くという意味なら”可”だ。騙される方が悪い。他にも何かあるのか?」
「いや、それだけ確認できればいい」
嫌な笑顔で満足そうにしているカイン。その笑顔にぞわりとしたものを感じる。
「当然分かっているとは思うが、ルールを破れば帰還した時に、全ての冒険者ギルドを敵に回すということだけは覚えておけ」
ゲオルゲガーさんが釘を刺すも、
「もちろんだとも」
というカインの言葉には、小指の先ほどの誠実さもなかった。




