【一の扉③】003)のっぴきならない姉妹の事情
大通りに連なる”まともな”ギルドからは相手にされなかった姉妹が行き着いた、幽霊屋敷のような外観の胡散臭い案内ギルトの中。
寝ぼけまなこの少年にしか見えないギルド長の言葉で、レデルは立ち上がってぺこりと頭をさげる。
「私はレデル、こっちは妹のニーア、それから護衛のシグルです」
「、、、、、」
レデルが名乗ってもギルド長らしき少年は黙ったままだ、というか寝ぼけてなるのかな? と、横で見ていたニーアは思う。
「あの、、、お名前を伺っても?」
「ん? ウェザー。。。」
ウェザーと名乗った少年は、眠そうな顔のまま簡潔に答えて再び話の続きを促す。レデルもそれ以上の会話は諦めて、事情を話すことを優先することに決めた。
「私たちは、セレイアという樹木、できれば苗木か、種でも良いのですが、それを探しにここまできました」
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レデルとニーアはブレンザッドのずっと西にある、小さな田舎の教会に所属する巫女だ。この国で教会と言えば無限回廊を管理するエルグ教を指す。教会は小さな町村の病院や教育機関なども担っており、どんなところでも欠かせないものとなっている。
エルグ教では無限回廊を作ったとされる神を信仰しており、そのため教会の各支部は、無限回廊で得た希少なアイテムや植物を崇拝の対象として大切に守っていた。
レデルとニーアが住んでいた支部が大切にしていたのが、セレイアという樹木だ。成長は遅く、幹も弱々しいが、夜になると発光する葉が神々しい。
夜のセレイアの姿は特別な日にしか公開されず、公開される日は近隣の町村から人々が足を運ぶほどであった。
そんな大切なものであるから、教会の者達は当番制で管理を行っていたのだが、ある日突然、その枝から全ての葉が枯れ落ちてしまったのだ。
タイミング悪くセレイアが枯れたのは公開日の朝。近隣の市民達はもちろん、周辺の教会を統括する統括長を始めとした地位のある人たちも集まっており、事態は大事になる。
最初は教会の司長が自分の命を持って償おうとした、しかし人の命を奪うほどでは、と統括長が異議を唱えて話は二転三転。槍玉に上がったのはレデルとニーアの姉妹だった。
理由は前日の管理当番が2人の姉妹だった事。姉妹はきちんと面倒を見たし、夜は鍵のついた部屋にちゃんと納めてお勤めを終えたと主張する。けれど翌朝扉の鍵を開けると、枯れていたのは事実。ということで、原因が姉妹のあるのではないかとされたのだ。
もちろん姉妹は何もしていないと訴えた。しかし、人々は原因を求め、いっときは姉妹の追放さえ俎上に上がった。
そんな中助け舟を出したのが司長と統括長だ「何もしていないと言っているのに、一方的に断罪するのはあんまりである。ここは2人にチャンスを与えてはいかがか」と。
そして提案されたのが、無限回廊より新たにセレイアの木を手に入れてくるという試練だった。資金は人々の寄付金。しかしそれでは到底足りずに統括長からも借りてこの場にやってきた。護衛のシグルは普段教会の警備に雇われている少年で、司長がせめて、とつけてくれたのである。
しかし現実は厳しく、誰も依頼を受けてくれる事なく、ここまで流れ着いてきたのだった。
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「無理だよ」
レデルが事情を説明し終わって、帰ってきた言葉はそれだけだった。
「そんな!」
レデルが顔を真っ青にして言葉を失う中、
「あの、せめて理由を聞いてもいいですか?」と言ったのは妹のニーアだ。そんなニーアをチラリと見たウェザーは、ぽりぽりと頭をかいてから、一度お茶を口に運ぶ。それからようやく口を開いた。
「聞くけど、君たちの予算はどのくらいかな?」
目が覚めてきたのか、ウェザーは容姿にそぐわない大人びた喋り方をする。
レデルが答えると「なるほどね」と言ってから続ける。
「セレイアという木の事は知っているよ。比較的採取難易度は低い。けど、”どの世界”にでもある訳じゃあない。良くて当たりを引けるのは3回に1回って所かな。それだけの回数の費用に加えて、無限回廊に挑むのに必要なのは、案内人の雇い料だけじゃないよ。食料や備品の備えはあるのかい?」
「食料?、、、それは案内人の方が用意してくれるのでは?」
「その場合は料金上乗せだね。悪いけど、知らない人の食料は費用から出せないよ」
「そんな、、、」
「ついでに言っておくけど、聞く限り君たちには運がない。運のない人たちが“あたり”を引ける可能性は低くなる」
飄々としているが、言葉は厳しい。そんなウェザーの言葉を黙って聞いていた護衛の少年、シグルが噛みつく
「色々と言い訳してるけどさぁ、要は自信がねえって事じゃねえの? ここに来るときに聞いたぜ? “臆病者”ウェザーって、あんたの事だろ?」
「シグル!」レデルに注意されてもシグルは口を噤まない
「それに、ここにいる連中、擬人だろ? 胡散臭い連中が集まりやがって、、、」
「シグル!!」シグルの腕を掴んだレデルが今度こそ真剣な顔でシグルを止める。
「、、、ちっ」レデルの表情をみて、不承不承ながら口を閉じるシグル。
シグルの様子を見てから、レデルはウェザーに向き直り、「仲間が失礼しました」と深々と頭を下げた。ウェザーはそんな様子を見ながら、ズズズと紅茶をすすると、「一つ聞きたいけど、擬人ってどう思う?」と聞いた。
ウェザーの言葉と瞳の奥に、形容しがたい圧を感じ、レデルはゴクリと喉を鳴らす。
擬人、端的に言えばこれは蔑称である。本来は「迷い人」と言うのが正しい。文字通り、異なる世界からこの世界に迷い込んでしまった者達だ。
彼ら、彼女らは”能力”を持たぬことから、エルグ教より神に見放された者と断ぜられ、人より一段下と見なされた。
それゆえにいつの頃からか擬人という蔑称が生まれ、今では多くの人がこの言葉を使っている。
教会の人間であるレデルにとって、非常に答えにくい質問だ。教義に則れば、ここにいる者達を貶めることになりかねない。レデルがどう答えていいか逡巡していると、「擬人云々はわからないけど、私はここの人たちは可愛いと思うよ?」と、ニーアが無邪気そうに笑う。
「へえ? 可愛い?」ウェザーか応じる。
「うん。そこのしゃべるフクロウさん、、、、セルジュさんっていうの? さっきまでここで寝てた動物? も可愛かったし、お茶を入れてくれたお姉さんも、ノンノン君? ももふもふで可愛いと思う」
ウェザーに物怖じすることもなく言い放ったニーアは、続けて言う
「お金のことなんですが、私がここで働いて返しますから、後払いではダメですか?」
「ちゃんと払える保証はあるかな? 確かにこの街にはたくさん仕事はあるけれど、、、」
「質草というわけではありませんが、これを」
ニーアが立ち上がり首から外したネックレスを前に突き出すと、レデルが「ニーア!?」と驚きの声を上げて腰を浮かすが、ニーアは「良いの」とレデルを制する。
「価値があるかはわかりませんが、これは、私が持っているお母様の唯一の形見です。命の次に大事なので、どれだけ時間がかかっても必ず取り戻します」
ウェザーがネックレスを受け取るでもなく、そのままニーアの顔を見ていると、「ウェザー、いじめは良くないよ? ニーアがかわいそうだよ?」と隣から声が上がった。声の主はフクロウのセルジュ。寝ていたと思っていたのに、いつも間にか大きな目をパチリと開けて、首だけウェザーを見ている。
「セルジュさん。。。そうは言ってもね、セルジュさんのご飯もちゃんとお金をもらわないと出ないんだよ」
ウェザーはちょっと困った顔で、セルジュさんに言葉を返す。
「でもかわいそうだよ? 私のご飯減らしてもいいよ?」
クルンと回した首をこてりと傾げるセルジュに、ウェザーは小さくため息を吐いて、
「セルジュさんに気に入られるのはずるいな。分かった、じゃあ、色々貸しにして、1回だけ案内してあげるよ」とネックレスを受け取った。




