【四の扉開】038)誓約書
「それじゃあ、トッポさん、留守の間は頼むね」
トッポさんとロブさんに見送られ、私たちはギルドを後にする。
ゲオルゲガーさんの再訪より三日後、ゲオルゲガーさんの要請でギルド戦に挑むことになった。
参加するのはウェザーとフィルさん、レジー、ノンノン、ハルウに私。お留守番はトッポさんとロブさん、セルジュさんに、普段滅多に部屋から出てこない双子だ。
私が参加するよりもトッポさんやロブさんが参加した方が絶対に戦力になると思うのだけど、これには理由がある。
まず、トッポさんは本ギルド、ミスメニアスの副ギルド長的な存在で、ウェザーが出かけるときはギルドを預かることが多い。
それに加えて今回は「もしかしたら僕らの留守を狙って、カインの手下がやってくるかもしれない」とのことで、ギルドの防衛も兼ねて男性陣2人が居残りだ。
私が居残りでないのも、「人質に取られたら困る」というのが理由の一つ。人数の少ない居残り組で、一人が足を引っ張るのは芳しくないのはよくわかる。私の戦闘能力は自分自身がよく知っているのだ。
ちなみに同じ建物内に住んでいても滅多に見かけない双子は、ハーモとモニーという。2人もれっきとしたギルドメンバーなのだけど、どんな事情があるのかずっと部屋の中にいる。一応戦闘となれば私よりも強い。らしい。
ともかく彼らに留守を任せて私たちが向かった先は、いつもの無限回廊の受付ではなく、ゲオルゲガーさんの運営する冒険者ギルド「ドフィーネ」の拠点だった。
その道中で「ねえニーア、ちゃんとニーア棒持った?」とレジーがニヤニヤしながら聞いてくる。
「ちゃんと持ってきたよ!」私は腰にある棒に手を当てながらレジーに反論する。
過日にレジーとともにお店に行って手に入れた棒。なかなか良い名前を思いつかずにいたら、何となく「ニーアの棒」或いは「ニーア棒」という名称が定着しつつあり、私は危機感を感じている。
ニーアの棒、という呼称にはさしあたって必要な情報が全て含まれており、非常に否定しづらいのである。今更私がこの棒は「祝福の杖」だと名付けたところで、多分みんなは「ニーアの棒」と呼ぶだろう。
ニーアの棒。。。。なんかいやだ。未だに「棒」と呼んでいる私が言えることではないのだけれど。
どうにかして「ニーアの棒」から他の呼び名を定着させることはできないかと考えながら歩いていると、あっという間に冒険者ギルド、ドフィーネの建物に着いた。ドフィーネは冒険者ギルドらしく、表で冒険者が目を光らせていて大変物々しい。
私たちの来訪は門番の人にしっかりと伝わっていたので、表にいたいかつい髭の男の人が親しげに声をかけてきて、ギルドの中へと誘ってくれた。
ギルド内は思いの外と言っては失礼だけど、とても洗練された雰囲気だ。設られた調度品もぱっと見で高そうな感じで、ゲオルゲガーさんのイメージとはかけ離れてる。
出入りしている人も、強者の雰囲気を漂わせた偉丈夫や、仕立ての良い服を纏い、恰幅の良さを隠そうともしない商人のような人など、さまざまな人々が出入りして、穏やかながら活気がある。
同じ大手でもジーノさんのギルドとはまた全然違うなぁ。
私が少し見た目に気圧されている中、「おい! こっちだこっち! 遅いぞ!」と洗練された屋内に響く雰囲気にそぐわぬ残念な大声。
うん、やっぱりゲオルゲガーさんはこうあってほしいという期待通りの声に、若干の安心を覚えた。
声の方へと進んでみればすでにカイン達は到着していて、優雅に紅茶を嗜んでいる。その姿はまるで貴族か王族のようで、ゲオルゲガーさんよりもギルドの絵面に馴染んでいるように見える。
裏の顔を知っている私からすれば見惚れるよりも不快感が先に立つけれど。私達をチラリと見て、余裕の表情を浮かべるのも腹立たしい。
「やあ、ゲオルゲガーさん、それにカイン。お待たせ」
私の気持ちはともかく、ウェザーは本日も平常運行で淡々と二人に挨拶。
「うむ。わざわざ足を運んでもらってすまんな」と労うゲオルゲガーさんと
「金は準備してきたのか?」と上から目線のカインは対照的だ。
ウェザーは二人を見比べて、少し考えてから「カインと会うのはこれで最後になるけれど、まぁ色々と楽しかったよ。お元気で」と微笑みながら手を差し伸べる。
カインはここで初めて顔を歪めて、差し出された手を無視した。そんなやりとりを見ながら、ゲオルゲガーさんが話を進める。
「さて、わざわざ来てもらったのは他でもない。今回のルールの確認と誓約書の署名のためだ。ミスメニアスは冒険者ギルドではないからな。きちんと説明をしなければならん」
「ちっ、面倒臭えなぁ」私たちが来たら、足を投げ出しながらつぶやくカイン。そもそもそっちから話を持ちかけてきたというのに。
「ほお、それじゃあカインは誓約書にサインだけして先に戻っても構わんぞ」
「そうさせてもらう。こんなガキどもの説明会に付き合ってらんねーわ」
そのように言ったカインは、あらかじめ用意されていた誓約書に早々にサインする。
「、、、内容を確認しなくて良いのか?」
ゲオルゲガーの言葉に、カインは面倒そうに首を振る。
「どうせ俺たちの勝ちだ。ちゃんと金だけ用意しておけ!」
捨て台詞を吐いてギルドを後にしようとするカインに、ウェザーが同じくサインをしながら楽しそうに声をかける。
「これで契約は、成立したね」と。




