【幕間2-1】036)レジーとロブさんの喧嘩
ゲオルゲガーさんが「詳細が決まったらまた知らせる」と帰っていった、その日の夜のこと。ギルドにいたみんなで夕食を終えて、お茶を飲みながらフィルさんと私がお喋りをしていると、「何よ!」「ふん、貴様こそ!!」と諍いが。
声の主はレジーとロブさんだ。比較的きっちりかっちりしているロブさんと、自由人のレジーはよくこうして喧嘩をしている。ギルドに入った当初こそオロオロしていたけれど、最近は完全に見慣れた光景だ。程よく喧嘩した後は普通にしているので、2人の平常運転である。
そんなわけで私とフィルさんはちらりと2人に視線を送った後は、再びお喋りに興じていたのだけど、今日は何やら2人もヒートアップ。
「じゃあ勝負しなさいよ!」「上等だ」と丁々発止のやり取りから、両者立ち上がったのは普段は見られぬ光景だ。
流石にただならぬ状況に「フィルさん、止めた方が、、、」と聞くも、「うーん。このくらいならたまにあるから、放っておいてもいいとは思うわよ、、、声をかけるなら止めはしないけれど、、、」と凄く曖昧な返事が返ってきた。
でも隣でこんなになってたら気にならない!? 「私、一応2人に声かけてみますね」と断って、「レジー、ロブさん」と言ったところで、2人の視線がぐるんとこちらへ。
「うひっ」と一歩後ずさって少し後悔したところを、レジーが私の肩をガシッと掴む。
「ニーア。ちょうどいいわ。今回はあんたが審判ね」
審判? 今回は? 状況のわからない私の視界の端で、フィルさんが「やっぱりこうなったか」という様にため息をついているのが見えた。
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「というわけで、今回は未知の食材ワクワククッキングで勝負よ!」
翌日早々にレジーが高らかと宣言する。
事務所にチョンと座らされた私は、状況がわからず困惑しかない。
「制限時間は昼まで、勝敗はニーアが決める! これでいいわね」
「うむ。異論はない」
着々と決められているルール。私には異論しかなけれど?
「あ、あの〜」
「じゃあ! スタート!!」のレジーの掛け声と同時にギルドから駆け出す2人。取り残される私。
「ええ〜」呆然とする私に、「大変ね〜」とフィルさんがひょっこり顔を出す。
「これ、どうすれば?」
「悪いけど、お昼まで付き合ってあげて」
フィルさんによれば、たまに2人の対決が開催され、大体近くにいた人が巻き込まれるそうだ。対戦内容は順番に決められ、今回はロブさんの番。
ロブさんは元料理人なので、自分に有利な料理勝負になった。どちらが勝っても負けても後腐れはないらしく、対戦するのが楽しいらしい。
、、、、、うん。ただ戯れてるだけじゃないの? フィルさんのいう通り放っておけばよかった。
「ニーアは災難だね? 大変だね?」
「セルジュさん。。。まぁ、仕方がないですよ。こうなったらお昼まで付き合います」
と、日中は大体事務所でウトウトしているセルジュさんにも慰められている時、私の脳裏に何か引っかかるものが。
「、、、未知の食材ワクワククッキング、、、未知の食材?」
ロブさんのあだ名は「悪食ロブ」。異世界の食材なら毒でも食べるから解毒に詳しくなって薬師をやっている。一方のレジーは普段料理をしているところを見たことがない。
そんな2人が用意する未知の食材の料理?
………私、異世界じゃないくて現世界で死ぬかも知れない。
「ま、まぁ、前にも言ったけれど、異世界の食材はあまり市場には出回らないから、心配いらないと思うわよ。多分」
フィルさんのフォローが事務所内に虚しく響いた。
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小一時間して2人が戻ってくると、私に食材をみせぬ様にしながら、キッチンへと入っていった。2人も笑顔なのに、不安しかない。
もうこうなると、異世界の食材が市場に出回っていなかったことを祈るしかない。
「ギャア!!」と、絶対に普通の食材に対しては決してあげないレジーの悲鳴が聞こえたけれど、絶対に気のせいだし、「まぁ生でも食えんだろ」というレジーの言葉も私の耳には届いてはいないのだ。全てはきのせいなのだ。
少々怪しげな香りが食堂から漂ってきて少しすると、セルジュさんがピクリと動いて、のっそのっそと窓までゆく。そして、器用に窓を開けて飛び立っていった。セルジュさん!? セルジュさあああああん!
こうして料理が完成する頃には私はすっかりぐったりしてしまっていたけれど、私の状態など全く気にしない2人は、できたと仲良く料理を出してくる。仲良しじゃん! 私の勝敗を決める必要ないじゃん! あと、ロブさんが料理と一緒に万能薬を持ってきたの、凄く気になるんですけど!!
「さ、召し上がれ」
心の中では戦々恐々としながら、差し出されたお皿を見比べる。どちらもスープ仕立てだ。ロブさんのスープは見た目も香りも良い。さすが元料理人。しかし何の食材が使われているかは全くわからないのが恐ろしい。
レジーの方は、香りよりも、まずは液体の色が土色なのが気になる。見た目は泥み、、いや、非常に個性的だ。純粋に食べたくない。
けれど、2人の期待に満ちた視線が私に突き刺さり、とても中止の宣言などできそうにないので、ここは腹を決める。
「じゃあまずは、ロブさんのスープから、、、」恐る恐る口をつけると、香草の香りが鼻を抜け、プチプチとした食感の食材が心地よい。
「あれ? 美味しい」
「当然だ」と、ロブさんは満足そうに頷く。
「まだ私のが残っているんだからな!」レジーの言葉に、泥水にもスプーンを差し込む。スープなのになんかプルプルしている。
ままよ! と口に放り込むと、こちらはクニュクニュという食感と、表現するなら薬膳の味がする。意外に悪くない。
「あ、これも悪くはない、、、」
「でしょ!」レジーが嬉しそうに微笑む。
「未知の食材っていうから、どんなものが出てくるかと思っちゃった」と少し肩の力を抜いて2人に伝えると、
「喜んでもらえて良かった。多分これならニーアも食べたことないと思ったからな」と、ロブさんが乾涸びたヒモの様なものを取り出した。それを見たレジーが「あ、なんだ。同じもの使ってたのか」と口を尖らせる。
「何なんですか? それ?」
「これか? トロールカエルの卵を干したものだ」
「ごふうっ」
私は涙を噴き出しながら、意識を失うのだった。




