【三の扉閉】035)それぞれの思惑、悪そうな人達。
とても悪そうな顔をしたゲオルゲガーさんと、とても嫌そうな顔をしたウェザーを見比べながら、私はおずおずと手を上げ「あの、”ギルド戦”ってなんですか?」と質問する。
ウェザーからは「脳筋の冒険者ギルドの悪き風習だよ」という辛辣な返答が届き、
ゲオルゲガーさんからは「最も公平で神聖なものだ」というフワッフワな返答が返ってきた。うん。何を言ってるのか全然分からない。
私が困惑していると、ちょこんと座っていたゲオルゲガーさんの秘書、リズさんが小さくため息をついてちゃんと説明してくれる。
そもそも”ギルド戦”という言葉自体が通称で、本来は”ギルド合同挑戦”というのが正しい。
本来の意図は高難易度の、つまり無限回廊の奥の方の扉に挑むにあたって、互いの戦力のすり合わせのために行われるもの。つまり冒険者ギルドの上位パーティ同士や、自パーティと案内ギルドとの相性を確認することを目的とする。
ところがいつの頃からか、主に冒険者ギルド間で揉め事が起き、どちらも引けない案件だった場合にパーティ同士が同じ扉に挑み、規定時間内により良い宝を手にしてきた方の言い分を飲む、という事にも使われ始めたらしい。
”ギルド戦”は冒険者ギルド連盟本部が入場料を払って取り仕切る。
その代わりに手に入れた宝はどちらのパーティもギルド本部へ提出する義務がある。また、勝敗も本部が決めるので、異議や約束の不履行はそのまま冒険者ギルド全体へ喧嘩を売ることと同義。
連盟から除名されれば、ギルドとして無限回廊に挑戦することもできなくなる。つまりこの街で冒険者ギルドの運営は実質不可能になるので、冒険者ギルドにとってはとても神聖なものとして考えられている。
なるほど、2人の言っていることが間違っていないのは分かったけれど、どちらかといえばウェザーの言葉の方が私にはしっくりくる内容だ。と、そこで私はふと気付く。
「あれ? 冒険者ギルド間の、ってことは、私たち案内ギルドには本来の”ギルド合同挑戦”以外は関係ないですよね?」
「ああ、嬢ちゃん、よく気づいたな。だが、別に両者の同意があれば冒険者ギルドと案内ギルド間でも成立はする。安心しろ、その場合も支払いは俺たち冒険者ギルド連盟の本部だ」
、、、、誰もそこは心配していませんけれど。
「じゃあウチは断るんでこの話は終わりだね」
あっさりと言うウェザーに、ゲオルゲガーさんは「まあ、待て待て! ちょっと話を聞け!」と手を挙げて止める。
「お前らにもちゃんと利益がある話だから、な! まず、向こうが出してきた条件だが、ゴーウィン商会がギルド戦で勝ったら、先日の費用とメンツを損ねた損失分を金で補償しろと言うものだった」
「何それ!? 勝手なことを!」私が憤慨すると、ゲオルゲガーさんは「まだ続きがある」と続ける。
「無論、先ほど言ったように、今回の件、ミスメニアス側に落ち度がないことはわかっている。だから当初は受理しない方向で考えていたわけだが、そこで俺は考えたわけだ。この際、実力はそこそこだが評判の悪いゴーウィン商会を潰す好機ではないかと」
「つまり、、、こちらの報酬はゴーウィン商会のギルド権ってこと?」
ウェザーが途中で口を挟むと、ゲオルゲガーさんは我が意を得たりとばかり大きく頷く。
「やっぱり話にならないね。負ければ金を払って、勝っても欲しくもないギルド権だ。話は終わり、さ、お帰りを」
「だから待てと言っておる。せっかちは嫌われるぞ!」
とにかく断りたいウェザーと、意地でも動かないゲオルゲガーさんがしばし睨み合う。
「、、、手に入れた宝はお前らにやる。ゴーウィン商会が勝った場合も、だ、それからお前らが負けたら、払う金の半分は俺が持つ」
ウェザーの片眉がピクリと動く。
「あの、それじゃあ冒険者ギルドの本部は何の利益もないんじゃ?」急に私たちに都合の良い条件が出てきて私は何が裏があるんじゃないかと訝しんでしまう。
けれど、ゲオルゲガーさんは難しそうな顔で大きく息を吐く。
「ギルド資格の取り消しというのはそれだけ簡単ではないということだ。さらにいえば、お前らが手に入れたゴーウィン商会のギルド権は、本部が責任を持って買い取る。当然、それなりの金額で、だ。どうだ?」
これだけ聞くと、悪くない話に聞こえるけれど、、私がウェザーに目をやると、下を向いて口に手を当て何か考え込んでいる。
その手の下、何だか笑っているように見えるのだけど? そうしてウェザーの口から出てきたのは
「足りないな」という一言。
「何だと! おい、これでもかなり便宜を図っているのだ。いくら何でもガメツすぎるぞ!」ゲオルゲガーさんが立ち上がって肩を怒らせるけれど、ウェザーは気にしない。
ゲオルゲガーさんをまっすぐに見つめて「条件を変えようよ」と提案する。
「条件を変える?」
「そう。僕らが負けた場合の負担はしなくていい。それと、勝った時に手に入れたギルドの権利はタダとは言わないけれど、相場よりも格安で譲るよ」
「、、、代わりに何を寄越せというのか?」
「話が早くて助かるよ。代わりに欲しいのは、、、」
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ミスメニアスとの交渉の帰り道、ゲオルゲガーにリズが声を掛ける。
「宜しいのですか? あのような約束をして」
「まぁ、あの男なら悪用はせんから、大丈夫だろう」
考えているような考えていないような返答に、リズは嘆息する。
ゲオルゲガーは冒険者としては超一流だが、こう言ったところは結構雑だ。
それでいて義理堅いので約束は守ろうとするから困る。リズは問答を諦めて、別の懸念を口にする。
「そもそも、ゴーウィン商会のカインといえば、それなりに名の知れた冒険者ですよ? 案内ギルドに勝ち目があるのでしょうか?」
それに対して、ゲオルゲガーは少し不思議そうにリズを見て、「ああ、そうか」と、妙に納得した顔をする。
「あれは、リズがまだギルドに入る前の話であったか」
「あれ、とは?」
「うむ。ミスメニアスのウェザーは、あの”グリーンフォレスト”のパーティメンバーの一人だ」
「グリーン、、、、ええ!!」
グリーンフォレスト。
事実はわからないが、彼らは、”ほんとうのとびら”に最も近づいたと言われている。
今は人々の記憶の中にしか存在しない伝説のパーティの名前が飛び出し、リズは驚きの声をあげるのだった。




