【三の扉10】034)襲来! 冒険ギルドの本部長
アイスゴーレムのコアという充分な宝物を手にして、臣下の人たちとも合流できたシャヒールさん。
「礼は必ず」と約束しながらも、セラージュ王子たちが帰ってくる前に早々に帰国の途についた。
私たちはシャヒールさんの旅の無事を祈って見送ると、案内ギルドへの報告書をまとめて、今回の仕事は完全に終了である。
「今日はいい天気」
昨日の雨模様から一転、入り口から差し込む光を浴びながら、ハルウをモミモミする至高の時間。いや、仕事中ではあるのだけど。
シャヒールさんが帰ってから7日が経った。当ギルドは相変わらずの平常運行で、つまりすこぶる暇なのだ。
私はぼんやりと、シャヒールさんたちは今頃どの辺りかなぁなどと考えながらハルウを撫でる。
シャヒールさん達の国は海を渡って半月くらいかかると言っていたので、まだまだ道半ばではあるはずだ。
そんなことを考えていると、差し込んでいた光がスッと塞がれ、私は視線をハルウのお腹から入口へと移す。
入り口に立っていたのは熊のトッポさんよりも大きな体格の男性。立派な髭といかつい顔、この街ではよく見る、いわゆる冒険者のオーラを纏った壮年の男性が立っていた。
「こんにちは。案内の依頼ですか」
私が声をかけると、ずいっと顔を近づけて「見ない顔だな、新入りか」とギョロリとした目で私を見る。
私が思わず後ろへのけぞりながら「あの、、、」と言葉を探している間に「ウェザーはいるか?」と聞いてきた。
「えっと、まだ寝ていますけど、、どちら様?」
「そうか、じゃあ待たせてもらおう。ゲオルゲガーが来たと言ってくれ」
いうなり私の返事を待たずにギルドの奥へと入ってゆく。大きな体に隠れて気づかなかったけれど、後ろから小柄な女性がこちらにペコリと頭を下げて後を追いかけていった。
直後、「おう! フィルちゃん、お茶を出してくれよ!」とフィルさんと親しげに話す声が聞こえたので不審者ではないのだろう。私は全く受付の意味がないなぁと小さくため息をつきながら、ウェザーを起こしに席を立った。
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「やあ、ゲオルさんわざわざ来るなんて珍しいね。それにリズも。久しぶり」
ウェザーは親しげにゲオルゲガーさんと挨拶を交わしながら、少し眠たそうにあくびをする。一緒にいる女性はリズさんというらしい。
「休んでいるところ、すまんな。ところでそっちの娘は新入りか?」
「ああ、新人のニーアだよ。役割は、、、なんだろ?」
ウェザーになんだろう? と振り向かれても、私もなんだろう? としか言いようがない。
勢いで転がり込んできましたとしか説明のしようがないのだ。
二人して首を傾げる様子を見たゲオルゲガーさんは「うむ、また妙なのを拾ってきたというわけだな」と一人納得顔。妙なの扱いされた。失敬な。
用も済んだので、妙なのである私は受付に戻ろうとしたのだけど「客観的意見も聞きたいから一緒に聞いてほしい」とゲオルゲガーさんに請われて、ソファに座る。
「改めて初めまして、だ。俺は冒険者ギルド「ドフィーネ」の代表、それから現在は冒険者ギルド連盟本部の本部長を兼務しているゲオルゲガーだ。こちらは秘書のリズ」ゲオルゲガーさんが名乗ってくれる。冒険ギルドの連盟本部長ってすごい偉い人なんじゃ。。。
私がそんなことを考えている間に、ゲオルゲガーが話を始める。
「単刀直入にいうが、ゴーウィン商会から苦情がきた」
「あ!」
そういえばすっかり終わった気になっていたけれど、カイン達は無事に戻ってきたのだろうか。私が思わず声をあげると、ゲオルゲガーさんが大きな目をギョロリとこちらへ向けて「何かあるのか」と聞いてきた。
「あ、いえ、私たちは先に帰ってきたので、ちゃんと帰ってきたのかなって思って」
「うむ。”ちゃんと”の定義は分からんが、依頼主を含めて全員生きて帰ってきたぞ。手足ももげてはおらん。結局何も得ることができず、寒空の中で少ない食糧を分け合って凌いだらしい。典型的な挑戦失敗例ではあるな」
、、、まぁ、シャヒールさん達にしたことを考えると、そのくらいは罰って感じかなぁ。
「じゃあやっぱりその件で、ゴーウィン商会が文句を言ってきたってことですか?」
「やっぱりというのはどういう意味かね?」
瞬時に、私の頭の中を洞窟の入り口に罠を仕掛けて塞いだ記憶が蘇るけれど、確かウェザーが問題ないと言っていたはずだ。
「えっと、、、、」私が言い淀んでいると
「ニーアは僕らが洞窟の入り口を塞いだ事を気にしてるんだと思うよ」と代わりにウェザーが答えてくれたので、私はうんうんと頷く。
「ああ、その事ならウェザーの報告書にもあったな。ま、カインの言い分では協力体制の約束をして、互いに攻撃しないと約束したのに、一方的に破棄されたと言ってきている」
「それは随分勝手な言い訳だね。カインが言ったのは扉までは協力。異世界では競争で、攻撃しないのは向こうからだけ。僕らはそんな取り決めはしていない」
「だろうな。”記録預かり”の書面もそうなっていた」
「それじゃあ何しにきたの?」ウェザーが再び小さくあくびをして問うと
「ギルド本部に訴えがあったのだ。一応、相手にも話を聞きにくるのは私の仕事だからな。案内ギルドに提出された報告書も目を通してはきたが、当事者の話を聞きたい。入り口からの成り行きを説明してくれ」
連盟本部長というのも大変だなぁと思いつつ、ウェザーに「そういう事ならニーアの視点での説明のがいいと思う」と頼まれて、先日のやりとりを説明してゆく。
一通り説明したところでゲオルゲガーさんは腕を組んで大きく息を吐くと、
「悪い噂の多いギルドだったが、いよいよ潰すか」と不穏な事を言い始めた。
それからちょっと考えて、ウェザーに向き直る。
「なあ、ウェザー。カインから”ギルド戦”の希望が出ている。ちょっと手伝ってくれんか」
と、とても悪そうな顔をした。




