【三の扉⑧】032)ノンノンの尻尾、ふわふわのしっぽ
「洞窟には挑まない、、、?」
ウェザーの言葉に私とシャヒールさんはキョトンとする。
「では、どこに?」シャヒールさんが聞くも、ウェザーの返答はあっさりしたものだ。
「洞窟とは反対の方へ行きます。多分、それほど歩かなくて済むと思いますよ」
美味しそうにお茶を啜るウェザーに、今度は私が質問する。
「え、だってここ、氷の洞窟の扉っていうくらいだから、宝物は洞窟にあるんじゃ…」
「いや? 言っただろ”氷の洞窟のある扉”だって。別に氷の洞窟の中で宝物が発見されるわけじゃないよ」
「うん? どういうこと」
「大図書館で調べた文献によれば、むしろ洞窟の中にはほとんど何も残っていないみたいだ。そりゃあ、あんなに目立つ場所にあったら、この扉を使った人たちはみんな洞窟に挑むよね。それにここは”氷の洞窟のある扉”なんて名前がつくくらい比較的無限回廊でも良く現れる扉だからね。長い年月が経って、めぼしいものはほとんど取り尽くされてるんだ」
それじゃあ、カイン達は無駄足ってこと?
「あはは、カインもちゃんと調べてくればあんな目に遭わなかっただろうにね。ほとんどウェザーの予定通りで笑っちゃったよ」と、レジーが楽しそうに言う。予定通り?
「予定通りなの?」
私、何も聞いていないけど?
「うん。君に伝えていないのも含めて予定通りだよ。ゴーウィン商会が絡んできた時点で、あいつらが強引な手で同行することは予想できたからね」
そのように言いながら、ウェザーが計画のあらすじを説明してくれる。
カイン率いるゴーウィン商会は、案内ギルドと揉めることも多く、大手案内ギルドからはそっぽを向かれている状況らしい。
相手にしてもらえるのは金でなんとかなる2流以下の案内人だけ。だからこういう絶対に外せないケースの場合、過去にも似たようなことをした話を聞いていたそうだ。
というか、私達のギルド、ミスメニアスにも以前に同行しようとして、数回断ったことがあるらしい。
なので、最初からカイン達がついてくる前提で予定を組んでいた。氷の洞窟というわかりやすい餌があれば、彼らはノコノコ入ってゆくだろうから。そのまま洞窟に蓋をして動きを封じてしまおうと考えた。
案の定カイン達は私たちに絡んできて、ウェザーの予定通りにまんまと私たちに有利な条件の協定を結び、今に至るわけだ。
私とシャヒールさん以外はあらかじめ伝えられていたため、トッポさんは無限回廊でシャヒールさんを止めたし、レジーはすぐに洞窟の入り口にトラップを仕掛けに行ったのだ。
「、、、なんで教えてくれなかったんですか!」
私が口を尖らせて抗議すると
「ニーアはすぐ顔に出るからね。知らせない方が都合がよかったんだよ。実際に無限回廊で揉めたときにニーアやシャヒールさんは、カインの言葉で顔を赤くしたり青くしたりしていた。カインはそれをみて、僕らが罠を仕掛けているということに気づきもしなかった」
すごく大事な役目だったんだよと言われても、なんだか釈然としない。
「ま、とにかくニーアとシャヒールさんのおかげで僕の予定通りにことが進んでいる。暗くならないうちに目的の物を手にしてしまおう」
ウェザーの音頭でみんなが再び出発準備に入る。誤魔化された気がしないでもないけれど、私も渋々動き始めるのだった。
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「それじゃあ、トッポさんあとは頼むよ」
出発にあたり、荷物持ちのトッポさんは、拠点を守る役割を担う。
「気をつけて」とトッポさんに見送られた私たちは、トッポさんが用意してくれた雪の上でも歩きやすくなるアイテムを足につけて、雪を踏み分けながら進んだ。
一面銀世界の森はひどく静かで、私たちの息遣いと、ギュっギュっと雪を踏み締める音だけが耳に届く。なんだか声を出すのが憚られるような、静謐な世界。
そう思っているのは私だけではないのだろう。みんな、ほとんど言葉を発することなく、ウェザーを先頭に黙々と歩みを進めてゆく。
歩き出して1時間ほど経ったろうか。そろそろ休憩したいなと思い始めたところで突然視界が開けた。森を抜けたのだ。太陽に照らされ、反射した光に目を細め、次第に慣れてきたところで私は小さく「すごい」と言葉をもらす。
見渡す限り平坦な銀世界。
「うん。記録の通りだね。ここからは足元、気をつけて。下には湖があるはずだ」
銀世界に見惚れて、ふらふらと足を出そうとした私は慌てて後ろへ後ずさる。そんな様子を見て、レジーが「ニーアちゃん、こんなに寒かったら湖面は凍りついているから大丈夫だよ」笑いながらピョンと湖の上と思われる場所に飛び乗る。
パキリ
ふと、どこかで何かが割れるような音がした。
辺りをキョロキョロする私の耳に
パキリ パキリ パキリ
パキリ パキリ パキリ パキリ パキリ パキリ パキリ
明らかに何かの音が近づいてきた。
「え、なに!?」焦る私の言葉に被せるように、「思ったよりも早くきた!! ノンノン、準備して!! ノンノン以外は森へ!」と指示を出す。
得体の知れぬ恐怖に急いで森の端へと走ると、直後に
バキバキバキバキ!! と大きな音が響いて湖面の氷が割れると、そこから氷で型取られた巨大な怪物が現れる。
「ゴーレム!!」
本で読んだとこのあるゴーレムの姿がそこにあった。
「アイスゴーレムか、クリスタルゴーレムか、どっちだろうね」と愉快そうに眺めるウェザー。私たちはそれどころではない。
ゴーレムがバキバキと腕を回すと、凍りついていた関節部分から細かな氷の結晶が弾ける。2度、3度と腕を回したと思ったら、突然、一人ゴーレムに対峙するノンノンに向かって、予想以上の速度で拳を振り下ろした!
バキャン!!
湖面の氷が砕け、同時に水柱が立ち上る!
「ノンノン!!」あんな威力の攻撃、掠っても無事では済まされない。水煙が消えるまでノンノンの安否を心配した私だったが、ノンノンはしっかりと躱して無事だった。
私はホッと胸を撫で下ろすとウェザーに「トッポさん呼んできましょう!」と訴える。小柄なノンノンになんとかできるとは到底思えない。
けれど、私に訴えにウェザーは「大丈夫だから」というばかりで、ゴーレムの拳を避ける一方のノンノンを眺める以外何もしない。
「でも!!」
と、言いかけた私は、おや? とノンノンの様子がおかしいことに気づいた。なんか、尻尾がふわふわしている。
いや、ノンノンの尻尾はいつもふわふわしているけれど、いつにも増してこう、ボワっというか、ぶわっというか、2倍くらいに膨らんでいる。
「そろそろかな」私の手前でしゃがんで、ノンノンの戦いを見ていたレジーが準備運動をはじめる。
レジーの動きに気を取られた直後、ノンノンが「行くぞ!!」と叫んだ。
ノンノンはバックステップしてゴーレムと距離を取ると、自分の身長の2倍くらいある槍を構え、グッと腰を落とす。
「たあああ!!」
気合一閃、ノンノンが突き出した槍の切っ先から電気を帯びた閃光が放たれる! 閃光は真っ直ぐにゴーレムを貫き、背中側にゴーレムの身体が吹き飛ぶのが見えた。そして閃光が通り過ぎた後は、大穴を開けたゴーレムがゆっくりと膝をつき倒れ始める。
「よっしゃ!」私が呆然としている間にレジーは駆け出しており、割れた氷の上をピョンピョンと身軽に飛び越えて、倒れゆくゴーレムの元へ。
すぐさま何やら掴んで慌てて戻ってくる。レジーがゴーレムのそばを離れた直後、ゴーレムは湖の中へと沈んでいった。




