【三の扉⑥】030)波乱の予感と不穏な同行者
数日後。ウェザーの読みで頃合いと断じられたその日、私たちは無限回廊へ向かった。狙いはもちろん「氷の洞窟のある扉」である。
パーティはウェザーと荷物持ち(ポーター)のトッポさん。盗賊のレジー。ノンノンと私。そして依頼主のシャヒールさん。フィルさんやロブさんはお留守番だ。
当ギルド、ミスメニアスの荷物持ち(ポーター)はトッポさんとフィルさんの2人で、どちらかは必ずお留守番となる。後のメンバーはウェザーが必要に応じて参加を決めた。
3度目ともなると私もだいぶ慣れてくる。受付を終えて開門を待つため無限回廊の入り口へと移動。いつものように多くの観光客がいる入り口前に、シャヒールさんと同じ服装の男性が立っているのが目に入った。
向こうもこちらに気づいたようで、集まりの中から見知った人がやってくる。あんまり会いたくない相手、カインだ。
一緒にいた異国風の男性が、多分、シャヒールさんと王位継承権を争っているセラージュ王子その人なのだろう。シャヒールさんは先ほどから、セラージュ王子をずっと睨みつけている。
「やあ、ウェザー、それにミスメニアスのみなさん。ご機嫌はいかがかな?」
立派な鎧に爽やかな笑顔。何も知らなければ「ごきげんよう」とでも返してしまいそうな雰囲気だけど、その腹黒さを知っている私たちは全く笑えない。というか、よくもまぁ、こんなふうに近づいて来れるなと若干ひく。
「そうだね。さっきまで良かったけれど、今は微妙だよ」
皮肉で返すウェザーとカインがしばし睨み合っているうちに、門番の兵士から「開門する!! 木札を持つ者たちは、前へ!!」と言う声が聞こえてきた。
ニヤニヤしながら自分のパーティの元へと戻ってゆくカインに「むー」と思いながら、門番の呼びかけに従って無限回廊への通路を潜ってゆく。
通路を抜け、扉の並ぶ白い回廊に着いたところで、私たちは一旦待機。揉め事防止のため他のパーティ達に先に選んでもらってから扉を選ぶのだ。
以前ウェザーに「先に目当ての扉をとられたりしないの?」と聞いて見たけれど「これだけの数から同じ扉を選ぶ可能性は低いし、万が一先に使用されても次の候補があるので大丈夫」なのだそう。
そうして他のパーティが次々と扉の向こうへ消えていったのを確認。けれど1つのパーティだけ、私たちと同じように最初の場所から動かない。カイン率いる冒険者ギルド、ゴーウィンの面々だ。
「カイン、僕らが最後に入るのは知っているだろう? お先にどうぞ」とウェザーが促すも、カインはニヤニヤしながら私たちに近づいてきて言う。
「いや、我々も君たちと同じ扉に入るんだよ。ま、共闘と行こうじゃないか」とのたまった。
「共闘?」
「厳密に言えば、それぞれの王子様に公平な条件で宝を探してもらおうと言う心遣いさ。扉の先では競争だ」
それって、お目当ての場所に行くために利用して、あとは蹴落とすって言っているのと同じなんじゃ、、、
「断る。君らと同行するメリットが僕らにはないからね」
ウェザーの返答に「つれない事を言うなよ」と言いながら、カインは「メリットならあるぞ」と続ける。
何を条件に出すのかと思ったら、言うに事欠いて「そちらの王子の部下たちの安全と引き換えでどうだ?」と言い出した。こいつ、最低だ。そしてここまで黙って聞いていたシャヒールさんがついにキレる。
「セラージュ!! 貴様はこんなことをして恥ずかしいとは思わぬのか! 王族の誇りを忘れたのか!!」と少し離れた場所にいるセラージュ王子を怒鳴りつけた。
セラージュ王子も後ろ暗い気持ちはあるのだろう、一瞬顔をそらしてから、それでも「ふん!! この程度のこと、当然考えていたであろう! 危機管理もできぬ側近と王子に国は任せられぬわ!」と言い返す。
「なんだと!!」激昂して、剣に手をかけながら近づこうとするシャヒールさんを止めたのはトッポさん。ひょいとシャヒールさんを抱え「離せ!」と叫ぶシャヒールさんの背中をぽんぽんと叩く。
それを横目で見ながらウェザーが小さく首を振り、
「これは重大なギルド規約違反だけど、カインが知らないわけないよね?」
「確かに他パーティの挑戦を邪魔をするのは規約違反だが、お前らは案内ギルドだけ、俺たちは冒険者ギルドだけ。依頼主は俺のギルドと契約をしている国の王子2人。報酬はそちらのご友人の身の安全。共闘と言うことであれば問題ないだろう?」
腹が立つ人だけど、言っていることはぎりぎり成立しているような気がする。受け入れる気は毛頭ないけれど。
「そもそもその報酬の補償がないな。それじゃあ、この件、”記録預かり”にしても良いと言うことかい?」
記録預かり? 聞き慣れない言葉が出てきた。
「ああ、構わんさ。俺たちはこれ以上そちらさんに手を出すつもりはないからな。本当はシャヒール王子殿が宿で大人しくしてくれていれば、こんな無駄な事をする必要などなかった」
すごい勝手な物言いに私は段々と腹が立ってくる。それでもウェザーは表情を変えずにカインと向き合う。
「帰りはどうするんだい?」
「言ったろう? 向こうに行ったら競争だと。帰りは個々だ。なに、帰還の扉は4〜5日で復活するはずだ。問題ないだろう?」
初めて聞いたけれど、帰還の扉は一度使うと復活までに時間がかかるのか。寒いところで4〜5日、、、やだなぁ。
でも、このままカイン達がついてきたら、きっと私達よりも早く宝物を見つけて帰るんだろうな。
向こうは冒険のプロだ。つまり、カインはシャヒールさんの部下の人を人質に、絶対に勝てる勝負を持ちかけてきたったことなんだろう。
「ねえ、ウェザー、もう断って帰った方がいいんじゃないの? さっきも言っていたけどルール違反なんでしょ? どこかに訴えれば、、、」私がたまらず声をかけると、ウェザーは手を上げて待ったをかける。
「いや、カインが言っている理屈もあながち間違ってはいないから、冒険者ギルドに文句を言ってもそこまで大きな問題にはならないと思う。そのあと僕らの再挑戦を待ち構えられるのがオチさ」
ウェザーが苦虫を噛み潰したようにしているのとは対照的に、カインは破顔して
「さすがウェザー、話が早くて助かるよ」と余裕を見せる。
「、、、仕方ない。連れて行こう。ただし”記録預かり”のサインだけは先にしてもらう。僕らの大切な報酬だからね」
そのように言うとウェザーは、いつも持っている書き込み用の書物に何やら書き込んでゆく。それを見つめながら私はレジーに小声で「”記録預かり”ってなに?」と聞く。
レジーによれば、記録預かりとは案内人がギルドに報告する報告書類を、冒険者ギルドにも提出する約束のこと。ここに書かれた約束は両ギルドが責任を持って担うという約束が盛り込まれている。
今回の場合は話を持ちかけた、カインたち冒険者ギルドが守らなければならないと言うものらしい。
案内ギルドと冒険者ギルド間で言った言わないを避けるためものなのだとか。なるほど、それなら少なくともシャヒールさんの部下の人の安全は守られるわけだ。
ウェザーは書類を作りながら、カインに追加要項を説明している。
「当然のことだけど、こちらのパーティーへ攻撃をするのも禁止事項として記載するよ。後ろから狙われたんじゃたまらない」
「ふん、俺たち冒険者が案内人を狙うかよ、、、まあいい、好きにしろよ」
出来上がった書面にカインとウェザーがサインをして、これで”記録預かり”が成立したみたい。ウェザーは書面を丁寧に切り取ると「レジー、悪いけど、門番の人にこれを渡してきてくれるかい」とお使いを頼む。
レジーがさっさと入り口の門に戻って、書面を預けて戻ってくると、「それじゃあ、行こうか」と、ウェザーがのんびり歩き出した。
こうして私たちは歓迎しない相手と一緒に、扉の先へと挑むことになったのだ。




