【一の扉②】002)もふもふの館と寝起きの男
もふもふな尻尾が特徴的な、ノンノンと名乗るコボルト? に、ニーアが「ウーファー族?」と問いかけたところで「ほっほーう」と頭上から鳴き声が降りてきた。
姉妹が見上げるより早く、ノンノンの腕に一羽のフクロウが舞い降りる。フクロウはレデルやニーア、護衛の少年に関心を払うこともなく、ノンノンに向かって口を開く。
「ノンノン、追い出すまでは良いけど外で騒ぐのは感心しないよ? 苦情が来ちゃうよ?」
「だってさ、、、こいつらが、、」空いている方の手でノンノンがニーア達を指差し、そこで初めてフクロウはクリンとこちらへ顔を向けた。
「おや? お客さんかな?」
「フクロウが喋った!?」
ニーアが驚きの声を上げるも、フクロウの方は特に気にせず「この辺りであんまり騒がないでもらえるかな? 近隣の迷惑になるかな? とりあえず中に入ってくれるかな?」とボロボロの建物へ入室を促す。
レデルとニーアが覚悟を決めてフクロウの誘いに応じる中、一番後ろを黙ってついて来ていた少年は「近隣って、、、この辺に他に家なんてねーじゃん」とぼやきながら、2人の後を追うのだった。
おそるおそる館の中に入った姉妹だったが、屋内は思ったよりも綺麗だ。ホッと胸をなでおろす。もしこれで中もお化け屋敷みたいだったら、どうしようかと心配していたのだ。
ちゃんと事務所のような設えになった部屋。中央には主人のものと思われる大きな机。その手前に応接用のソファが据えられていた。そのソファの上ではふわふわした胴の長い何かが丸くなって寝ている。その生き物? にフクロウが優しく着地する。
「ハルウ、お客さんが来ているよ? 悪いけどどいてくれるかな?」と羽を使って揺り起こす。
ハルウと呼ばれた生き物は「キュ」と可愛い声で一度鳴いて、「くあ」と欠伸をしてから、するりとソファを降りて隣の部屋へ行ってしまった。
「お待たせしたかな? 座ってくれるかな?」
フクロウの勧めに従って、おずおずとソファに座った直後、先ほどハルウが出ていったほうからひょこりと顔を出す人物が。
鼻に上にちょこんと丸メガネを乗せた、背の高い美人。けれど目を引くべきは顔ではなく、顔と同じくらいの長さで、ピンと立った黄金色のもふもふの耳だ。
そのもふもふ耳の美人さんが「あらあら、お客さん? セルジュさんがもてなしてくれているの? ありがとう」とフクロウに声をかける。
「なんなんだ、この家は、、、」護衛の少年が呟く中、「ちょっと待っててね」と、もふもふ耳さんは、手際よくパタパタとお茶の準備を始めた。
私たちが唖然としている間に、セルジュと呼ばれたフクロウは自分の役割は終わったとばかり飛び上がり、机の隣に置かれた止まり木へ着地。目を閉じると居眠りに入る。自由か。
「騒がしくてごめんなさいねー、さ、どうぞ」
もふもふ耳さん進められるままに、ティーカップを受け取り、暖かい紅茶を口にすると、少しだけ周囲を見回す余裕ができた。
いずまいを正したレデルが、正面に座ったもふもふ耳さんに「あの、ここは? それにさっきの人達は」と問う。
次々と現れる、人ならざる者達のことも気になるが、先ほど追い出された者達が、いったい何をしたのかが気がかりだ。自分たちも同じ目に合わぬとは限らない。
「さっきの? ああ、あの人達「案内のお金を払ったのに半日で帰還とはどういうことだ!」って文句を言いに来たの。最初に説明しているのにねぇ」
「どんな説明を?」
「あなた達も無限回廊へいくのかしら? あらあら、こんな可愛らしいのに~。そうね、詳しくはギルド長から説明するけれど、これ以上は命の危険があると判断したら、探索は終了。それがたとえ開始1時間でも、1分でもね。それが約束できなければ案内しない。それがうちの方針よ」
「1分て、、、それで金を請求したらじゃ詐欺じゃんか」護衛の少年の言葉に、レデルが「シグル!」と注意する。注意されたシグルはハイハイと両手を上げて口を閉じた。
「こればっかりはね、仕方がないのよ。扉は開けてみないと何が起きるか分からない。その危険も承知の上で挑むのが無限回廊。運がよければ10日だっていられるけれど、運が悪ければすぐに、死ぬわ」
「すぐに、、、死ぬ、、、」その言葉にレデルが色をなくして息を飲む
「最も、そんな不運な扉に当たる人なんて、1年に数人もいないけどね。さっきの人達はそれが理解できない未熟なパーティ。だから普通のギルドから相手にされないって事が、理解できないのよねぇ」
困ったものねと締めて、カップに口をつけるもふもふお姉さん。レデルが続けて質問をしようとした時、もふもふお姉さんの耳がピクリと動く。
「あ、ギルド長が起きたみたい。ここからはギルド長に聞いて」と、いそいそと立ち上がって、追加のお茶の準備を始めた。
それから少しして、トントントンと階段を降りる足音が聞こえたかと思うと、目をこすりながら現れたのはレデルやニーアとそう年の変わらない少年だった。
「え? 子供?」思わずレデルが呟くも、気にすることなく少年はフラフラと部屋へ入ってくる。寝癖でぼさぼさの髪に手をやって、頭を掻きながら机に据えられた椅子に座る。
「ねむい。。。。」
姉妹を気にする事なく、先ほどハルウと呼ばれた胴長の動物にも負けない大欠伸。そんな様子を見たもふもふ耳さんが、「あらあら、ギルド長、お客さん来ているんですから」とクスクスと笑いながらお茶を差し出した。
「ん」と短く答えてお茶を口にすると、そこで初めて3人の客を一瞥。
「あれ? 誰だい?」
ようやくこちらを認識して呟いた。




