【三の扉④】028)王子の意地、譲れぬもの。
本日のおまけのキャライメージはレジーです。レジーはニーアよりも少し小柄。
「ちょっと! ウェザー!?」
危険な思いをしたシャヒールさんに、捕まった方が良いと勧め始めたウェザー。私は驚いて待ったをかけたけれど、ウェザーは止まらない。
「話を聞く限り、相手の王子もシャヒールさんを亡き者にしようとしているわけじゃないみたいです。ならば、大人しく王位を諦めて捕まっていれば、然るべきタイミングで本国に帰ることができるはずですよ。それは、今の状況から考えれば決して悪い選択肢じゃない」
「ちょっと待ってください! 仮に大人しく戻ってシャヒールさんの命が無事だとは限らないじゃないですか?」
「いや、少なくとも帰国までは無事だと思うよ。でなければ既にシャヒールさんは死んでいると思う。国が2人の王子を継承権を競わせて送り出したのに、その結果が暗殺じゃあ、外聞的に色々まずいでしょ?」
「でも、シャヒールさん達がみんな殺されちゃえば、無限回廊で死んだって言ってもわからないでしょ?」
私の不穏な発言にシャヒールさんがビクッとする。
「いや、それはありえないんだよ」
「なんでです?」
「君が初めて無限回廊へ挑戦した時にフィルが説明していなかったっけ? 教会に払ったお金の流れ」
「?」私はその時の会話を思い返そうとする。なんか言われたっけ?
ーーー10日以上帰ってこないパーティは、、、先ほどの返金対象の750クルールを教会のネットワークを使って家族の元へ。つまり葬儀代というわけだ。差額の250クルールはこの辺りの手数料でもあるーーーー
「あ! 葬儀代!!」
「そう。全滅なら教会から支払われるお金。これは相手が国だろうがなんだろうが関係ないんだ。無限回廊で全滅したかどうかに関しては絶対に誤魔化せない。そして、無限回廊以外の場所でシャヒールさん達が全滅すれば、どうあれ暗殺を疑われる。けれど、生き残りを出せば当然暗殺の事は国に知られる。つまりね、セラージュ王子は軟禁をした以上は、少なくともこの場所ではシャヒールさんを守らないといけなくなるんだ」
「……その理屈だと帰国してからの保証はないってことになりません?」
「そうだよ?」ウェザーはあっさりと言いながら、「そこに関しては僕らの関知するところじゃないからね」と言い放つ。
「それは冷たくないですか!」
私が抗議すると、フィルさんが口を挟む。
「まぁまぁ、ニーアちゃん。ウェザーが言っていることは正論だから。帰国してからのことは私たちになんとかできるわけではないし、シャヒールさんの当面身の安全を優先するのなら悪い提案じゃないはずよ」。
そのように言われればまぁ、間違っていない気はするけれど、なんだか納得はいかない。
当のシャヒールさんは先ほどから俯いたまま一言も発していない。
「あの、シャヒールさん、、、」
私が何か声をかけようとしたところで
「、、、、それはできぬ」と聞き取れないくらいの声で言う。
「シャヒールさん?」
シャヒールは顔を上げて今度こそはっきりと
「それはできぬ! 争って破れるならともかく、何もできずにのこのこ帰国することだけはできぬ。それならは無限回廊に挑んで、そこで、死ぬ!」
そんなシャヒールさんにウェザーは面倒臭そうに
「無限回廊に死ぬつもりで挑むのは迷惑です」と言ってソッポを向いてしまう。
完全に会話する気を無くしたウェザー。私は仕方なくウェザーに代わってシャヒールさんに聞いてみる。
「あの、シャヒールさん、そんなに王様になりたいんですか?」
「王位はおまけだ。結果はどうあれ、私が意地をみせねばならぬのだ、、、」
「王位はおまけ?」
シャヒールさんには年の近い妹がいる。その妹の扱いが、この王位争いの結果で変わってくるらしい。
「セラージュはかつて、我が妹リヴィに求婚をして断られておる。あやつは今でもその事を根に持っており、出発前に私に言ったのだ「圧倒的な差を見せつけて継承権を得て、貴様の妹を愛妾にしてやる」と。第一夫人でも第二夫人でもなく、あのような者にリヴィを渡すわけにはいかぬ」
シャヒールさんがなんらかの結果を残すか無限回廊の中で死ぬ分には、勇気あるものとして死後も一定の立場が確保される。そうなればセラージュ王子もシャヒールさんの類系に好き勝手することはできなくなるらしい。
「セラージュの背後には国の有力な大臣がおる。あまり良い噂を聞かぬ男だが、権力だけはある。私はこの競争が不利なのは最初から分かっておった。だが、妹の、家族のためにも断るわけにはいかなかったのだ。だから、ここで降りるわけには、いかぬ。たった一人であっても無限回廊に挑んで見せよう」
シャヒールさんの悲壮な決意を聞いて、室内をなんとも言えない沈黙に包まれた。
私はソッポを向いたままのウェザーへと視線を走らせる。見れば、室内にいるフィルさん、トッポさん、ロブさん、レジー、みんな黙ってウェザーを見ていた。
少ししてウェザーが大きなため息をつく。そしてソッポを向いたまま口を開いた。
「条件は必ず生きて帰ること。生きて帰ってきても挑戦記録は教会に残る。貴方の国にも証明はできるはずだ」
「では!?」
シャヒールさんが立ち上がったところで、ウェザーがこちらをクルリと向いて、シャヒールさんを見つめて続ける。
「それから、今は無理だろうけど、帰国後に必ず料金を支払うこと。高くつくよ」
シャヒールは黙って深々と頭を下げる。
こうして次の挑戦先は「冷たい宝物がある場所」に決まったのだった。




