【三の扉②】026)ウェザーの質問は核心をつく
本日のおまけのキャライメージはウェザーです。作者の中では身長は少し低め。
「ウチでは無理ですね」
南の国の王子だというシャヒールさんの依頼をあっさり断るウェザー。まさか断られると思っていなかったシャヒールさん、固まっちゃってる。
「ナゼです? ココは案内ギルドでしょう?」
固まってしまったシャヒールさんに代わって、受付で声をかけてきた年配の側仕えの人が質問してくるも、ウェザーはにべもない。
「色々理由があるけど、まず第一に、貴方たちが本当に王族か怪しいから」
「!!」
シャヒールさんの後ろに立っていた2人が「◯□×△」と私には聞き取れない異国の言葉で何やら強い言葉を発すると、再び武器を構える。なんて言ってるか分からないけれど、明らかに怒ってるよ!
けれど全く動じないウェザーに、見ている私の方がハラハラする。見かねて隣にいるトッポさんへ助けを求めたけれど、トッポさんものんびりとした表情を変えぬまま状況を見つめている。大丈夫!? 大丈夫と思って良いの!?
「…聞き捨てならん言葉だが、そのような暴言を吐く以上、根拠はあるのだろうな」
ウェザーを睨みつけるシャヒールさんに、ウェザーはわざとらしく大きくため息をついて答える。
「いくつかあるけど、一番の理由は、貴方たちが冒険ギルドの人間を連れてきていないからですよ。意味、分かりますか」
ウェザーの言葉に、シャヒールさんがとても苦しそうな顔をする。私には良くわからないけれど、何やら核心をつかれたみたいだ。しばらく睨み合っていたけれど、シャヒールさんが小さく息を吐いて下を向く。
「……君が言っている通り。私は冒険者ギルドに入ることができなかった……」
「入ることができなかった?」
「ああ。セラージュに先手を打たれて門前払いされたのだ」
セラージュ、シャヒールさんと王位継承権をかけて争っている相手だけど、門前払いされたって言うのはどう言うことだろう?
「ならば他の冒険者ギルドを頼ればいいのでは?」
「……それは事情があって出来ぬ」
「では、僕は貴方たちを信用できないとしか言えません。それに、うちは見ての通りの弱小ギルドなので、王族の頼みを聞けるほどの準備はないんですよ」
その後も何を言っても首を縦に振らないウェザーに、ついに根負けしたシャヒールさんは「……分かった」と言って去っていった。
その後ろ姿を見送ってから、私はウェザーに「良いの?」と聞く。
「何が?」
「だって、王族の頼みなんでいっぱいお金もらえるんじゃないんですか? それに断ったら報復とか……」
「お金は万能薬を売った分があるから当分大丈夫だよ。それに、あの王子様、だいぶ劣勢みたいだからね。下手したら巻き込まれる」
「劣勢? って言うか王子かどうかも怪しいって…」
「ま、8割がた王族だとは思う。もしくはそれに近い人間だろうね。付き人よりも流暢に他国の言葉を操っていたし、かなり高い水準の教育を受けているんだろう。それに所作に気品があった。ああ言うのは普通に生活してたんじゃ身につかないんだよ」
「それなのに断ったんですか?」
「うん。さっきも言ったけれど、冒険者ギルドの奴らがいなかったからね」
「それ、どう言う意味なんですか?」
そういえばニーアは知らないか、と説明してくれる。無限回廊のあるこの街、ブレンザッドにある冒険者ギルドや案内ギルドには多くのパトロンがいる。特に太筋なのが”国”だ。
各国が無限回廊にある貴重品を求めて、こぞってギルドと契約している。各冒険者ギルドの有名パーティは国、あるいは王のお抱えであることがほとんど。彼らは国や王の資金力を盾に、気ままに無限回廊の奥地へ挑み、結果を持ち帰っているのだという。
国の資金力などで雇うパーティやギルドの質に上下はあるものの、ギルドと契約をしていない国は存在していないそう。国家と契約しているギルドは、契約国の要請があれば可能な限りのサポートを行うのがルール。
なので今回で言えば、まずはシャヒールさんは冒険者ギルドの支援を受け、その上で条件に合った案内ギルドを紹介してもらうのが筋で、あんな少人数で飛び込みでやってくると言うのはまずあり得ないのだそうだ。なるほど、それなら先ほどのウェザーの言葉も分かる。
さらにシャヒールさんの陣営が不利という根拠、ライバルのセラージュ王子にスーラ国お抱えのギルドを押さえられたと言うのは分かった。けれど、そこからが問題で、他の冒険者ギルドにも依頼できないとなれば、恐らくはスーラ国お抱えギルドから根回しがあったという事らしい。
そして根回しができたということは、冒険者ギルドに対しても発言権の大きい人がセラージュ陣営にいるという事。
さらに踏み込んで言えば、どの国でも冒険者ギルドの窓口はかなりの高位の人物がつく。強力な後ろ楯が相手にいると言うことはすなわち、シャヒールさん達はかなり不利な状況にあるのではないか。こんな街の片隅の案内ギルドに飛び込みでやってくる程度には。
「はー、なるほど、そういう事だったんだ…」あんな短い時間でウェザーもよく考えるものだなと私は感心する。
「とにかく状況も分からないのに、安易に受けられる依頼じゃないってことさ。悪いねトッポさん、わざわざ薪拾いを中断させたのに」
「いやー、ウェザーが言うなら、それが正しいんだろう。じゃあ、私は作業に戻るよ」と言いながらのっしのっしと森へ戻っていく。
「ニーアもお疲れ様。まずないとは思うけれど、もし本当に断られた腹いせにやってきたら、すぐに森のトッポさんとのころに逃げるか、誰か助けを呼んでね」
私も「はーい」と答えて、受付に戻る。結局ウェザーの予想通り、私が心配したような報復はなく、私も終わったこととして、今日も無事に終わったなぁと言う感想ともにお仕事を終えるのだった。
その夜のこと。
私はここのところ夜の日課にしている、自分のギフトをコントロールするための練習に、夜の森へやってきた。
今日はハルウとセルジュさんも一緒。ハルウは気まぐれにたまに一緒に来るけれど、セルジュさんは、私の秘密特訓が見つかって以降、必ず一緒に来て適当な枝から見守ってくれる。慣れてきたとはいえ、ギルドの窓明かり以外の明かりがない森の中、セルジュさんの存在は心強い。
「よし。じゃあ今日は自分の狙った枝に移動して、元の場所に戻ってみよう!」
一人で気合を入れて、棒(名前がなかなか決まらない)を握りしめたところで、ハルウが「クウウウウウ」と低い警戒音を鳴らす。
「え、なに?」
ハルウが森でこんな声を上げたことはない。不安を感じてハルウを抱えて逃げる準備をしながら後ずさると、私にも何やら争っている声が聞こえてきた。これはまずい、逃げたほうが良いと声から背を向けた瞬間、
「ぐうっ!!」と苦しげな、しかしどこかで聞いたことのある声がして、私は思わず声の方を振り向く。直後、今日依頼を断ったばかりのシャヒール王子が腕から血を流しつつ、藪から躍り出て倒れ込んだ!
「シャヒールさん!」
私が慌ててシャヒールに駆け寄ると、セルジュさんが「追手がきているよ? 逃げないと危ないよ?」と、木の上から飛び立ちながら教えてくれる。
逃げろと言われても、シャヒールさんは痛みに顔を顰めながらすぐに立ち上がれそうにはない。ここは仕方ない!
「シャヒールさん! 失敗したらごめんなさい!」
私はシャヒールさんを掴んで、ハルウも抱えたまま棒に力を込める!
ヒュっと視界が真っ白になって
次の瞬間、私たちはギルドの事務所の空中に飛び出して、バタンと大きな音を立てながら床に転がり落ちた。




