【幕間1-2】023)ニーア、武器について考える①
「ニーアの武器ねぇ」
セルジュさんからアドバイスを受けた翌朝、早速ウェザーに相談してみた時のウェザーの第一声だ。
事務所にはウェザー以外に盗賊の女の子、レジーがハルウを構いながらソファにごろ寝していた。
「ダメかな?」
あんまり芳しくない返事に、少し不安になる。拒否されるとすればいろんな理由は考えられるけれど、一番の理由としては「お金」かな? 私はこのギルドに絶賛借金中なのである。ウェザーが渋るとすれば、武器が私のお給料より高いとか?
「もしかして、武器ってすごく高いの?」
そんな私の言葉に、ウェザーが一瞬「?」という顔をしてから、「ああ、違う違う。お金の話じゃないよ」と否定する。
お金に関しては先日の万能薬のおかげで、大変潤沢なので、別に経費として購入するのは構わないそうだ。
「それよりも、ニーア、武器って使ったことある?」
言われたハッとなる。ここに来るまでは教会でうふふと日々穏やかに過ごしていたのだ。料理でナイフくらいは握ったことはあるが、私に剣を振り回すような力があるとは自分でも思えない。
「ナイフくらいなら…、何とか?」
消去法で残った、唯一の武器らしいアイテムを提案すると、レジーが「ニーアちゃん、刃物はやめておいた方がいいよ」とハルウを構いながら会話に割り込んできた。
「そうかな?」
「うん。間違いなく向いてない。自分の手を斬るのが関の山だよ」
レジーは私よりも小柄で年下だけど、その身軽さで十分に戦力になっている。やっぱり力はないので得意武器がナイフだ。一度練習を見たことあるけれど、素早い動きでとても様になっており、かっこいいなと思ったものだ。
そんなレジーが「やめた方が良い」と追うのであれば、やっぱり私に刃物は向いていないのだろう。
「うむむ。じゃあノンノンみたいに槍? それとも弓? 棍棒や斧は持てないし…」
私がうんうんと唸るのを見ながら、レジーが呆れたような声を出す。
「あのさ、セルジュさんから言われたのは”触媒になるもの”なんでしょ? じゃあ、別に武器にこだわる必要はないんじゃないの?」
確かに。
「でもさ、折角だから武器の方が何かあった方がいいかなって思ったんだけど…」
「いや、みんなニーアちゃんに戦闘力は期待してないと思うよ」
と清々しいほどはっきりと言われて、私は「ぐう」と声を上げる。
そんなやりとりを愉快そうに見ていたウェザーが、パンパンと手を叩いて注目を寄せると
「じゃあさ、レジー、ちょっとニーアの買い物に付き合ってあげてくれない?」
言われたレジーは「えー」と渋る。別に私とレジーの仲が悪いわけではなく、こういう娘なのだ。基本的に面倒くさがりで、ゴロゴロしているかカジノにいる。盗賊なので逃げ足は一級品で、よくノンノンやロブさんに注意されて、逃げ回っている。
「手数料出すからさ」
ウェザーがそういった瞬間「マジで!?」とガバッと起き上がって、ウェザーを見る。「絶対だよ! 約束だよ!」と言うなり、「ニーアちゃん! 出かけるから準備して!」と早々に動き始める。そんなレジーから慌てて逃げるハルウを見送ってから、私とウェザーは苦笑するのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ん〜ふふ〜ん♪」
ご機嫌で歩くレジーと並んで大通りへと向かう…のではなく、レジーは飲み屋や娼館の立ち並ぶ裏通りへと足を向ける。
私はこの辺りにはあまり立ち寄ったことがない。まだ明るい時間なので空いているお店は少ないけれど、大通りとは明らかに違う雰囲気がありちょっとだけ緊張する。
少し怪しげな通りを歩くレジーは、時折店先の掃除をしているおじさんやお姉さんと親しげに挨拶を交わしながら、足取り軽くスタスタと進んだ。
この先にはカジノがあったはずだけど…まさか‥。
「ねえレジー。まさかとは思うけれど、先にカジノでお金を増やそうなんて考えてないよね?」
恐る恐る聞いてみると、こちらをクルンと向いたクリクリの青い目がキョトンとしてから。
「そうか、その手があったか」と呟いてから、「大丈夫だって」と笑う。
レジーの話によると、カジノの近くにおかしなものばかり売っている雑貨屋を営んでいる、お爺さんのお店があるという。
「大通りじゃなくて、こんな場所に?」
「そう。でも置いているものは異世界産だから、モノは確かだよ。ちょっとガラクタだなだけで」
「それは確かとは言えない気がするよ!?」
「でも、ニーアちゃんの求めるものって、多分大通りにはないからね。あっちは冒険者ギルドや冒険者パーティ向けの、正当な武器ばかりだから」
「それだと、私に向いているのはすごく邪道なものみたいだけど?」
「そう言っているよ?」
なるほど。レジーの中で私は色物ポジションのようだ。そのように伝えると「お金もなく無限回廊に挑戦しようとした上、サンドワームに食べられそうになったのに、嬉々として案内ギルドで働いている人は普通ではない」と言う。それだけ聞いたらどこの冒険野郎であろうか。
私の評価を覆すのは諦めて、おとなしくレジーの後をついて行く。
「あった。ここ。」
レジーが立ち止まったのはうちのギルドの建物に負けずとも劣らない、なかなかに年季の入った店構え。通りにまで何だかわからないものが溢れており、私一人だったら絶対に入らない。というか、お店だと気づかない可能性すらある。
初めて私たちのギルドに来た時のように、私が躊躇していると、レジーは「じいさーん! いるー?」と、声をかけながらさっさと入って行く。
私はレジーの後ろ姿を少し眺めてから、無限回廊の扉に挑むような心持ちで、お店に足を踏み入れた。




