【二の扉閉】021)思い出の味の真実
ガチで命に関わる危険もあるので、知らないキノコを口にしてはいけません。約束だよ!
「ここって、、、なにも無いですよ?」
私たちの眼前にはがらんとした洞窟が虚しくあるだけ。ウルドさんが味わったという神の食べ物など存在しない。ここにあるのは幻覚を引き起こす、ひからびたキノコ。
「あるよ、ほら」
ウェザーが指し示した先には、透き通るような水をちょろちょろと蓄える泉だ。つまり水ってこと? まぁ、確かに遭難した人に一番大事なのは水だろうし、極限状態ならただの水も甘露かもしれないけれど…
「ロブ、持ってきたやつで調べてよ」
まだキノコを摘んで楽しそうに眺めていたロブさんが、ウェザーに指示されて荷物入れの中から透明な筒状の物を取り出すと、泉の水を汲んだ。
しばらく筒をふったり光にすかしたりしていると、ある瞬間、突然水が金色に変わる。
「おお! これは!?」筒を振っていたロブさんが興奮した声を上げ、筒をウェザーに手渡した。
「やっぱり。そういう事だよね」とウェザーも納得顔。ちょっと、2人だけで納得していないで説明してくれないかな。
置いてけぼりの私たちをよそに、ウェザーとロブさんはなにやら専門用語を使って、楽しそうに話を進めてゆく。たまりかねたウルドさんが「あの、、、」と口を挟みかけた瞬間、
ぱくり
なんとロブさんが、幻覚作用のあるというキノコを口にすると、そのままもぐもぐごくんと食べてしまった!
「なななな何してるんですか!?」
私があわてて駆け寄ると、ロブさんは身体を震わせて、
「おお、なるほど、なるほど、、、うふふふふふ」と静かに笑い始めた。普通に怖い。
ロブさんの直前で足を止めて、今度は少し後ずさる私の目の前で、くすくすと笑い続けるロブさん。2人だけだったら私、怖すぎて泣いていると思う。
ドン引きする私と、夢の中へと旅立ってしまっているロブさんの様子を楽しそうに眺めていたウェザー。
私がそちらに視線移すと、しかたないなあと言うように、先ほどの金色の液体をロブさんの口に突っ込んだ。びくりと身体を震わせたロブさんは、力なくゆっくりと地面に伏せる。
なになに!? どうなってるの!?
状況を呆然と見つめる私たちの前で、倒れていたロブさんがのそりと動きだし、何事も無かったように立ち上がる。
「なるほど、これは強力な幻覚だな。うんうん。粉末にして持って帰る事はできないものか」と何事も無かったように、再び幻覚キノコを採取し始める。
私は今度こそ流石にウェザーの腕を掴んで
「説明して! 怖いから!」と訴えた。
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「この泉はね、薬湯なんだよ。」
「薬湯?」
「水だから厳密には湯、じゃなけれど、この場所に湧き出すまでに、様々な薬の成分がしみ込んで、混ぜ合わさって薬の効果を発揮しているんだ。効能は解毒以外に、体力の回復、他にも色々な効果があるかもしれない」
それを聞いたウルドさんが、
「それでは、私が助かったのは、その薬湯を飲んだから、、、、」
「そうです。一緒に助かった案内人の記録を見て、もしかすると、と、当たりを付けてはいましたが、予想通りでした」
説明を受けたウルドさんは、しかし少し納得がいかない感じで首を傾げる。
「ですが、確かあの時は洞窟を去るまで食べ物はここにあったと記憶していますが、、、」
「今、ロブに飲ませたのは、金色になっていたでしょう。あれは薬に変える特殊な薬品が入っていたからです。ウルドさんが飲んだのは、ちゃんとした薬になる前の原液のようなものだから、効果が出るのに時間がかかったのでしょう」
「そう、だったんですか、、、」
結局、食べ物は幻覚だったという事ははっきりして、少々肩を落とすウルドさんに、ウェザーが慰めるように続ける。
「たしかに神の食べ物はありませんでしたが、やはり貴方は神の物を口にしたんですよ」
「それは、薬湯の事ですか?」
「ただの薬湯ではないですよ、この水は。万能薬の素なのです」
その言葉に、ウルドさんの目が大きく見開かれる
「万能薬!? 瀕死の者すら蘇らせるという、あの!? それこそ神の飲み物ではないですか!?」
「ええ。その万能薬です。ちょっと飲んでみますか? みんなも飲んでみるかい?」
「え? 飲んでも大丈夫なんですか?」私が代表して聞けば、ウェザーは「ロブさんを見ての通りだよ」というが、ロブさんが見本では不安しか無い。
それでも好奇心にあらがえずに、おそるおそる万能薬の素を一口飲んでみる。
「甘い、、、美味しいかも、、、」
ほのかに甘くて、清涼感もある。それに飲んだら身体がポカポカと暖かくなってきた。回復してるってこと? 私が自分の身体におかしな所が無いか確認している間に、横で同じく泉の水に口をつけたウルドさんが「ああ!」と大声を上げた。
びっくりして横を見れば、ウルドさんが震えながらふたたび崩れ落ちる所だった。え、やっぱり危ない水なの!? 私が動揺していると、ウルドさんは「これだ、私はこの味を求めていたんだ」と涙を流す。
ウルドさん、よかったね。
こうして依頼人の目的も無事達成できた私たちは、ウェザーが用意していた大きな革袋に大量の万能薬の素を汲んで、帰還の準備を始める。
準備している私たちの横で、ロブさんがウェザーに
「そんな薬湯よりも、この幻覚キノコ、持って帰らないか?」
と、万能薬を捨ててゴミを持ち帰るための交渉を行なっていた。




