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【二の扉④】017)不思議な不思議な大図書館


 (ニーア)の眼前には巨大な空間が広がっていた。先の見通せないほどの壁面に、幾重もの通路と階段。そして全ての壁は無数の本が詰め込まれた書架になっていた。


 さらにフロアの中央にはたくさんの塔のようなものが。よく見ればそれらは螺旋階段となっており、階段を支える中央の柱にはやはり本が詰まっている。


 また、フロア内のとある一角では、ギルド職員とおぼしき人々が机に向かって一心不乱に何かを書き留めているのが見てとれる。


 地下なのに恐ろしく明るい。にもかかわらず螺旋階段に沿って天井を見上げてみれば、空には星空が瞬いているのでなんだか頭が混乱しそうだ。


「なんなの、、ここ、、、」唖然と入り口で立ち止まっていると、「失礼、通りたいのだが」と後ろから声をかけられて、私は慌てて横に飛び退く。


 軽く頭を下げ通り抜けたギルド職人が、机の並ぶ一角へ小走りに進み、手に持っていた資料を書き物をしている人に手渡すと、そのまま何やら打ち合わせを始める。


 そんな風景を横目で見ながら、私が「ブレンザットの街にこんな地下が、、、」と呟くと、ウェザーが「ちがうちがう」と否定する。


「ここは無限回廊と同じ異世界だよ。案内ギルドを創設した伝説の案内人、ロッソが”ほんとうのとびら”を見つけた褒美に神から貰ったとされている」


「ほんとうのとびらって、、、、おとぎ話の?」


 無限回廊の中に一つだけある、ほんとうのとびら。その中にはこの世界を作った神様がいて、なんでも一つだけ願いを叶えてくれる。子供の頃、無限回廊と一緒に誰もが一度は聞いた事のある寝物語。


「本当かどうかは知らないけどね。ただ、ここに入る扉は見ての通り普通ではない場所に繋がっていて、無限回廊にある扉と違ってコロコロと移転先が変わる訳じゃないというのは事実だよ」


 確かにこんな不思議な場所、神様でなければ準備できない気もするけれど、、、


「ま、ここができた経緯は僕らにとっては重要じゃないさ。さ、行こう」


 ウェザーの言葉に、なんだかとんでもない場所に足を踏み入れてしまった気がして、私はおそるおそる踏み出す。対してウェザーは慣れた様子で目的の場所へと進んでゆく。


 その道中でウェザーが「そもそも、ロブさんの言い分は成立してないんだよ」と溢した。


「どういう事ですか?」

 

「ロブさんはウルドさんの価値を、現地の生情報って主張していたけれど、その肝心の情報が古すぎるんだ」


 言われてみればその通りだ。若かりし頃のウルドさんの知るルートが、当時のままという保証はない。


「単にロブさんは神の食糧ってのに興味があったんだろうね」


「じゃあ、ウェザーはなんで依頼を受けたの?」


「……ま、そうだね。僕も興味があったってことにしておこうか」


 そんな会話をしながらしばらく進んで立ち止まったのは、たくさんある螺旋階段のひとつ。入り口付近で何か作業していた職員と何か少し立ち話をしてから「ニーア、行くよ」と声をかけてきた。


 螺旋階段は思った以上に広々としており、途中で階段に座りこんで何かを熟読している案内人もいる。ウェザーは気にする事なくすり抜けて進むので、良くある光景なのだろう。


「この辺りかな? ニーア、ちょっと調べものするから、時間をつぶしててくれる? 元の場所に戻せば、ここにある資料は全部閲覧可能だから」


「こんなにたくさん本があるのに、どうしてこの辺に希望のものがあるって分かるの?」


 私だったら目当ての場所すら見つけられずに、図書館の中で遭難しそうだ。多分、する。


「一応これでも系統立てされているんだよ。まず壁にあるのは職員がきちんとまとめて整頓された資料」


 私が壁の方に眼をやると、たしかに同じ大きさ、装丁の本が並んでいる。対して私たちがいる螺旋階段に収まっているのは、随分と雑多な感じだ。


「じゃあ、ここにあるのは元になった資料、、?」


「そういう事さ。螺旋階段には情報の元となったものが保管されている。もっとも、螺旋階段のものも写本だったりするけれど。この間、案内ギルドに報告書を提出したろ? あれもこの部屋のどこかに保管されているはずさ」


「へえ。あ、そうか、じゃあウルドさんの記録も?」


「うん。生き残ったのが案内人だったのなら、必ず記録はこの場所にあるはずだ。そしてここは異世界の海に関する事故記録が集められた塔。ある程度の時期も分かっているから、このへんにあるはずなんだよね」


「分かった、じゃあ私も一緒に探す」


「ああ。じゃあ頼むよ。でも必ず一冊ずつ取り扱う事。必ず元の場所に戻す事。でないと年代がバラバラになって後の人達が探すのが大変になるからね」


 ウェザーから取り扱いの注意を受けて、私は目についた本を慎重に取り出す。ページを開いてみれば、それは報告書というよりも手記か日記に近いものだった。


 この手記を書いたパーティは孤島に投げ出されたらしい。手記の主は、最初は変わった植物や生物を興味深そうに写生していたけれど、途中から様子が一変する。14名からなる大所帯のパーティーメンバーが次々に姿を消してゆくのである。


 姿の見えぬ敵に恐怖する文章が続く。彼らは帰還用の扉の探索も怠っていたらしい。慌てて扉を探す様も書かれていた。


 それでも見つからぬ脱出路。減ってゆく仲間。6日目から書き手が変わる。新しい犠牲者は日記の主だったのだ。日記を引き継いだ人は全滅を覚悟していたようで、「もしこの日記が人の手に渡るようであれば伝えてほしい」と、町の名前と人の名前を書き記していた。


 ところが不思議なもので、死を覚悟したその日、帰還用の扉が見つかった。帰って来れたのはわずか3人だったとある。


 私は少し顔をしかめて、それから犠牲になった人に少し祈ってから手記を本棚に戻す。この棟にあるのは海関係の事故の記録と言っていた。ということは、他の書類も似たような出来事が書いているのだろうか。


 次の本を手に取るのを少し躊躇したけれど、手伝うと言った手前、すぐ諦めるのもバツが悪い。ぐっと気合いを入れ直してページを開く。


 今度は生物図鑑のような内容だ。なんでここに? と思いながらページを読み進めると、海の小さな生き物が並んでいてほっとする。


 特に害もなく海を漂いながら船の周りをついてくる綿毛のような生物に微笑みながらページを捲る。しばらく楽しく読み進めていたら仲間を食った生物という記載があり、この場所に置かれている理由を痛感した。


 何冊めかの本を戻して、大きくため息をはく。数冊目を通しただけでどっと疲れた。


「大丈夫かい? この辺りの記録は余り気分の良くないものも多いから、もし無理だったら適当な所をぶらついてきてくれていいよ」


 ウェザーはそんな風に言ってくれるけど、私だってこれでも一応ギルドスタッフだ。最初が依頼人という形だったからか、ウェザーは時折お客様あつかいをする事があるけれど、甘えてばかりはいられない。


「大丈夫!」


 と無理にでも笑顔を作って、大丈夫だとアピールするために手に取った本をウェザーへ向けると、ウェザーが「あ!」と小さく叫ぶ。


 私が「へ?」と少々間抜けな返事を返すと。私の持った本を手にして



 「あった」と呟いた。



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