【二の扉開】014)ジーノの紹介客
「、、、、暇だ」
私がギルドで仕事を始めて10日が過ぎた。ギルドに加入した私に、最初に割り振られたのは受付だ。
我がギルド「ミスメニアス」はオンボロ、、、もとい、少々前衛的な建物内にあるものの、一応、申し訳程度に受付カウンターが存在する。
ただ、いかんせんギルドメンバーの多くが人ではない。私はさほど、と言うか全くと言って良いほど抵抗がないけれど、人ならぬ彼らたちを擬人と呼んで蔑む人たちは多いため、受け付け向きでない。
そんな人たちはこちらからお断りだけど。
それに、人には向き不向きというのものがある。このギルドには「愛想」という概念をどこかに打ち捨てて来た人たちもいる。例えば私と同じ、ギルドの中でも数少ない人間の女の子、レジーは良い例だ。
レジーは私と同じくらいの歳の子で、元はとある冒険者ギルドに所属していた。職業は盗賊、トラップ解除のスペシャリストだ。かっこいい。
ただ、レジーは若干、人よりも多少、賭け事が好きな女の子で、危うく高額の借金を背負わされそうになったところをウェザーに助けられて、借りを返すためにギルドに転がり込んで来たらしい。
普段からじっとしていられない性格らしく、「受付だけはごめんこうむる」と言って、本日もカジノという名の、ある意味異世界へと旅立っていった。
最初に経緯を聞いた時は少々驚いたけれど、冷静に考えれば、無限回廊の挑戦費用を全額つけにして、なおかつ出発までの食住を全面的にお世話になり、最終的にはギルドに転がり込んだ私と、やっている事は大差ないので、ぐうの音も出ない。
かような経緯で私に受付のお鉢が回って来たのだけど、受付、本当にいる? と言うレベルでお客さんが来ない。時折遊びに来る喋るフクロウのセルジュさんと、胴体の長い可愛い生き物、ハルウとじゃれるのが主な業務となっている。
受付から見える外は良い天気で、思わず「ふわあ」とあくびが出た。
そんな私の横を、槍の穂先が揺れながら通り過ぎる。カウンターから身を乗り出してみれば、ノンノンがちょこちょこと歩いていた。
「ノンノン、狩り?」
「うん。いっぱい獲ってくるぞ!」
ふんすッと気合を入れて尻尾をピンとさせるノンノン。ノンノンは狩りがうまく、少なくとも10日はお客さんが来ていない私たちギルドの大切な食糧を確保してくれる頼れる存在だ。
「頑張ってね!」と送り出すと「おう!」と気合を入れて出て行った。
そんなノンノンと入れ違いに、ギルドに入って来た大きな影があった。燃えるような赤い髪が特徴的なジーノさんだ。
私はこの間ジーノさんのギルドでちょっと怖い思いをしたので、思わずぎゅっと身構える。けれど私の行動など意に介さないジーノさんは「やあ、ニーア。いい天気だね。ロブはいるかい?」と聞いてきた。
「ロブさんならまだ寝てます。昨日ウェザーの星読みに付き合っていたみたいです」と答えると、ジーノはめんどくさそうに首を振ってから、少しだけ天を仰いで何かを考える仕草をする。
それからニヤッと笑って、
「お客を紹介してやるよ。どうせあんたたち、暇だろ?」と決めつけた。。。。暇だけどさ。
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ジーノさんは「詳しい事は本人から聞いておくれよ。じゃ!」と行って早々に去って行く。あからさまに面倒なお客さんを押し付けた感が凄い。
だけど、ジーノさんが去った後に残されていたのは、身なりのいい紳士然とした人だった。とりあえず目があったのでぺこりと頭を下げて事務所へ案内する。
ジーノさんが連れて来たお客さんは、ウルドさんと名乗った。私がお茶を案内しているうちにタイミングよくウェザーが起きて来た。ロブさんも一緒だ。
タイミングよく起きたのかと思ったら、ジーノさんの胴間声で叩き起こされたらしい。
揃ってあくびをしながら登場したウェザーとロブさん。身長の高いロブさんがウェザーが並ぶとまるで親子のようだ。
最も、鋭い目つきにキラリと光る眼鏡をかけたロブさんと、年中眠たげでのほほんとしているウェザーでは全く似てはいない。
私の時と違って、事務所に入って早々にウェザーがウルドさんに気づいて「誰? お客さん?」と聞いた。
「ジーノさんから紹介されたお客さんです。なんだかロブさんに用があったみたいですよ?」
私から声をかけられたロブさんは「ほう?」と言いながら目を細めてウルドさんを品定めするように眺めた。うん。およそお客様に向ける視線じゃないな。
ただ、ロブさんは別に悪気があるわけではないのだ。こう言う目つきの人なのである。よく誤解されるけれど。なんなら初めて会った時、私は「ひっ」と小さく悲鳴をあげたけれど。
「あ、、、あの、、、」
困惑するウルドさんに、ロブさんは「私がロブだが?」と愛想ゼロで言い放ち、ウルドさんの表情をこわばらせる。完全に来る所を間違えたと言う顔をしている。
仕方なく私がお茶を持って行きながら「ロブさんは目つきは悪いですが、悪い人ではないので安心してください。寝起きで一層悪そうに見えるだけですから」とフォローを入れる。
「そ、、、そうですか」及び腰で答えるウルドさんと、「失礼な、私にもお茶を」と言いながらウルドさんの対面に座るロブさん。
ウェザーはいつものように定位置のデスクの椅子に座る。あの目の開き具合だと、まだ半分くらいしか起きてないな。
完全に場の空気に飲まれていたウルドさんだったけど、何かを決意した真剣な表情になってロブさんを見て、口を開く。
「ジーノさんに伺ったのですが、ロブさんは異世界の食べ物に詳しいとか、、、探して欲しい食べ物があるのです、、、」
その言葉を聞いたロブさんのメガネがキラリと光る! そして先ほどとは打って変わった笑顔で前のめりになりながら「なるほどなるほど! 詳しくお話を聞きましょうか!」と手を差し出し。あまりの変わりようにウルドさんが目を白黒させる。
私は苦笑しながらその様子を見てから、ふと視線を移すとウェザーは寝ていた。