【ほんとうの扉⑤】147)偽神の力
ダクウェルの炎が唸り、ジュニオールさんの起こす風が、炎の力を増幅させる。ゲオルさんがテオドールの体制を崩して、レジーが様々なトラップ道具で動きを封じる。フィルさんが牽制してノンノンが雷撃を放つ。
それぞれの個性を活かした戦い方で、次々とテオドールを打ち落としてゆく。
勝てる、そう思った。
けれど。
「また分裂した!?」
私たちの頭の上をぐるぐると飛びながら攻撃を仕掛けてくる。そして1人がやられても、すぐに分裂して8体の状態を保ち続けているのだ。テオドールの表情には余裕があり、まるで私たちを馬鹿にしているようにも見えた。
「私の鎌で!」ニーア棒を強く握るも、ウェザーから止められた。
「今使っても避けられて終わりだ。できれば一網打尽にできるタイミングを待つんだ」
ウェザーのいう通り、まとめて刈り取ることができれば分裂しても関係ないけれど、そのチャンスがやってくる気がしない。
戦況としては優勢なはずなのに、徐々に押し込まれている気がしている。こんな時、何もできない自分が歯痒い。せめて状況が良くなるように、クロノス様に祈りを捧げる。
「この程度か? まだまだ私の余力はあるぞ」
8体のテオドールが唱和しながら笑う。腹立たしい。
「余力があると言っても、いつかは力尽きるはずでしょう!」ジュニオールさんの言葉に、テオドールは不思議そうな顔をした。
「なんだ、まだ分かっていないのか?」
「何がであるか?」テオドールの一体を撃墜しながらゲオルさんが問いかける。
「私の力とは、この世界の祈りであるのだ。祈りがある限り、私は永久に戦うことができる」
「!?」
私たちの中に動揺が走る。その理屈が正しいのであれば、テオドールには今でも力が注がれている事になる。
「テオドールは口がうまい! 嘘の可能性もある!」動揺するみんなをウェザーが鼓舞して、みんな再び力を奮い始めるけれど、なんとなく潮目が変わった。
「大人しく逃げ回りでもすれば可愛げがあるが、愚かな者達には理解ができぬか、、、」
ぐるぐると回っていたテオドールの動きが止まる。8体全てが手を広げ私たちに向けると、突然体が重くなった。
「何!?」まるで上から見えない大きな手に押さえつけられるような気がする。
「気になっていたのだが、やはり神の前にあって首を垂れぬというのは不遜であろう。少々頭の下げ方を教えてやろうと思ってな」
押さえつける力は急速に強くなってくる。瞬間フラージュが小さく唸ると、力をふり絞って見えざる手から逃れようとする。
フラージュはわざと身体を大きく振って、背に乗っていた私を遠くへ飛ばすと、自らは地面に突っ伏した。逃げきれなかったのだ!
私は攻撃範囲から外れたようで、体が急に楽になる。
「フラージュ!」叫ぶ私の横に、「きゃっ」と言いながらレジーが転がり出してきた。こちらはジュニオールさんが投げたのだ。
攻撃範囲から逃れることができたのは私たち2人だけ。他の仲間は地面に縫い付けられたように身動きが取れずにいた。
どうしよう!? 慌てる私の頭に「好機」の2文字がよぎる。
8体のテオドールはみんなを押さえつけるために、同じ体制で動きを止めている。なら、今なら私の鎌、リープサイズで、まとめて動きを止めることができるかもしれない。
幸いテオドールは私たちを戦力として見ていないようで、私とレジーには目もくれない。
一気に最大出力の鎌を作って振り抜けば、、、!
「レジー、手伝ってくれる? 状況をひっくり返せるかもしれない。テオドールの気をひいてほしいんだけど」
レジーはみなまで聞かずに分かったと言って、持ち込んだ荷物から新しいトラップ道具を取り出した。
レジーは、テオドールの攻撃範囲に触れないように気をつけながら私と大きく離れた場所へ移動する。それから何かを投げつけると光と大きな爆発音がした。何かしらの目眩しのようだった。
ほんの一瞬、テオドールの視線がレジーへと向けられる。
今だ!!
私がニーア棒に力を込めて、素早く光の鎌を生み出し振り抜こうとしたその時、
「あ、、、、れ、、、?」
急に力が入らなくなって、光の鎌も消えてゆく。口の中に鉄の味が広がる。
いつの間にか、私の胸には後ろから深々と槍が突き刺さっている。
ひどく緩慢な動作で後ろを振り向くと
「8体までしか増やせないと、誰が言った?」
私を見下すように9体目のテオドールが笑っていた。