【一の扉閉】013)赤髪の案内人に絡まれた!
「おやおやおや!!」大股でずんずんと私に近づいてくる赤髪の女性。その迫力で地面が揺れるような錯覚に陥る。
その人は私の前まで来ると、ガシッと両肩を掴んで顔を近づけた。
「あ、あのう、、、、」
私がどうして良いのか分からずに固まっていると、ジーっと私を見つめてから
「うん。やっぱりアンタ、なんか特別なギフトを持ってるね! ウェザーのところで断られたら私が買い叩くつもりだったのに! ウェザー! この娘、私によこしな!」
一方的に言う女性に私が目を白黒させている間に、ウェザーがため息をつきながら断る。
「ジーノさん、、、悪いけどニーアはウチの戦力だから譲れないよ」
その言葉を聞いて私は少しドキリとする。ちゃんと戦力として見てもらっているのが嬉しかった。しかし、なおもジーノと呼ばれた女性は引き下がらない。私に視線を戻すと再びぐっと顔を近づけてくる。
「お嬢ちゃん。ウチのが儲かるよ。ウチにしな!」
と迫力充分に私に語りかけるけれど、私も負けじとぐっと力を込めて
「わ、私はウェザーのところから移る気持ちはあ、ありませんから!」
と伝えると、ようやく私の肩に置いた手を離した。
お金は返さなければならないけれど、セレイアの木を見つけてくれたウェザーや、私を迎え入れてくれたセルジュさん達に恩義も感じている。ウェザーからいらないと言われない限りは出てゆくつもりはなかった。
「うーん、これは失敗したね。どうせウェザーにも断られると思ったから、そこから商談と思ったんだけど、ウェザー、アンタがあの条件で受けるとはね!」
そのように言われたウェザーは「僕と言うか、セルジュさんが強く推したんだよ」と苦笑する。
「ああ! またあのフクロウか! 全く忌々しい奴だ!」言葉は乱暴だけど、ジーノは笑顔だ。セルジュさんを嫌っているわけではないのだろう。
「それで、もうあんたらの要件は終わったのかい!?」
「いや、報告は済ませたけれど、これからニーアのギルド証の申請をし、、、」
ウェザーが全てを言い切る前に、ジーノは畳み掛けて来る。「ならアタシもちょっと本部に用があるから良かった。終わったらその辺で待ってな! ウチのギルドでお茶をご馳走してあげるよ! ウェザーも帰るんじゃないよ!!」
と、お茶に誘われているのか喧嘩をふっかけられたのか分からない勢いで、返事を聞くこともなく受付の奥へとずんずんと姿を消す。私が呆気にとられてウェザーを見ると、ウェザーは肩をすくめて諦めたような顔をしていた。
そうして私のギルド登録が終わって、ジーノさんがどんな人なのか聞こうとした矢先、聞き覚えのある足音が奥から迫ってきた。
「終わったかい!?」その声とともに、私たちは半分連れ去られるようにして、ギルド連盟本部を後にするのだった。
ジーノさんのギルドは案内ギルドの連盟本部のすぐ近くにある。私も一度立ち寄ったことがあるので知っているのだ。その時は門前払いとなったのだけど。
すげなく断られた私たちが、トボトボとギルドを離れる時に声をかけてくれたのがジーノさんで、その時「駄目元で行ってみな」と教えてもらったのがウェザーのギルドだった。なので感謝はしているけれど、、視線の圧が凄い。
ジーノさんのギルドに入ると、様々な場所から「ギルド長、お帰りなさい!!」との元気な声が響く。お客さんもしっかりとした装備のパーティが多く、全体的に自信に裏づけされた活気みたいなものがある。
「来客だ! 私は奥にいるから、何かあったら呼んでおくれ!」
大通りに負けない喧騒の中、微妙に注目を浴びながら、そそくさとジーノさんについて奥の部屋へ。
入った部屋は見るからに高価そうな調度品が並んでいる。多分、ジーノさんの部屋なのだろう。ギルドの職員の人が用意してくれたお茶を手に腰を落ち着けると、ジーノさんが「NO.1案内ギルド、紅翼団へようこそ」とカップを掲げた。
「い、いただきます」とジーノさんに合わせてカップを掲げてお茶を口にしたところで、ウェザーが「けど、三指に入るのは認めるけれどNO.1は言い過ぎだよね」と言って、ジーノさんから「ああん?」と睨まれる。
そして沈黙。空気が重い、、、、
「あの〜、さっき私の事を見て特別なギフトを持ってるって、、、、」
話題を変えようと私が切り出すと、ジーノさんはニンマリして私に視線を移す。
「違ったかい?」
「、、、、少し珍しいといえば、珍しいのですが、、どうしてわかったのですか?」
私はあまりギフトのことを人に喋らない。この街で知っているのはウェザー達だけだ。そんな私の疑問に答えたのはジーノさんではなくウェザーだった。
「ジーノさんは鼻が効くんだよ。恐ろしく勘がいいと言うか、ようはちょっとおかしいんだ」
「ウェザー、アンタに変人呼ばわりされるのは心外だね。案内人の中でも一番の異端児はアンタだろ」とジーノさんが返す。
ウェザーも心外だと言う顔をしながら「ニーア、この人は特に金の匂いに敏感だから、下手に隙を見せると根こそぎ持ってかれるよ」といえば、ジーノさんが「ニーア、アンタこんな商売下手なギルド長の下じゃあ、満足に飯も食えないよ」と煽る。板挟みの私はしどろもどろだ。
ひとしきり言い合った2人はようやく落ち着いたのか、ふうと大きな息を吐いてからお茶を口にする。
そこで「ギルド長、すみませんが、、、」と、恐る恐る部屋に入って来る職員が来たのを潮に、私たちは紅翼団のギルドを後にすることになった。
ギルドを出て少し歩き、人気がなくなって来たところで立ち止まった私は「つ、疲れたあああああ〜」としゃがみこむ。
「あれ? どうしたの?」ときょとんとするウェザーをキッと睨んでから「どうしたのじゃないですよ!? ウェザーとジーノさんって仲悪いんですか!? なんにせよ私を挟んで喧嘩しないでくださいよ~、生きた心地がしなかった! そもそも何のためにお茶に呼ばれたんですか?」と一気にまくし立てた。本当に怖かったんだから!
興奮する私にウェザーは苦笑いしながら「目的ならしっかり達成してたよ」と言う。
「どう言うことです?」
「要はジーノさんは新入りの様子を探っていたんだよ。ギルドに入って来たときの様子や、僕とのやりとりの対応。それにジーノさんだけじゃない。ギルドの中で変な視線感じたろ? 職員何人かがニーアをチェックしていたんだ」
そんな風に言われると、怒りを忘れて背筋に寒いものが走る。
「何でそんなことするんですか?」
「んー、まあ、色々あるんだろうけど、一番は付け入りやすそうか? ってことこかな」
「付け入りやすそう?」
「そう。美味しい情報をペラペラ喋りそうか、簡単に騙せそうか」
なにそれ、怖い怖い。
「情報共有は案内ギルドの絶対条件だけど、利益共有はないからね。利用できるものは利用するのが大手の案内ギルドだよ」
「でも、私をミスメニアスに紹介してくれたのは、、、」
「ジーノも言っていたろ。多分僕が断るだろうって。実際僕は最初はニーアたちの依頼を断った。多分だけど、その後切羽詰まったところで、君のギフトを確認して、使えそうだったらギルドに引き入れようって魂胆だったんじゃないかな。そうすればジーノに頭が上がらないだろ?」
「怖っ」
「がめついけれど、あれで中々面倒見は良いから、普通に付き合う分には仲良くしておいて損はないよ」
「、、、、さっき散々言い合っていた人にそんなこと言われても、、、、」
「まぁ、案内ギルドも、冒険ギルドも癖のあるやつが多いから、安易に信用するなってことさ」
ウェザーの言葉に、私は絶対騙されないようにしようと密かに誓うのだった。