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【九の扉15】133)聖女、降臨する。


 (ニーア)の目に最初に飛び込んできたのは惨状だった。







 目の前には命果てた骸がそこここにある。私は思わず息を呑む。






 「これは、、、ひどい、、、、」






 地面は広範囲に焼け焦げており、骸の大半は炭となっている。


 





 当ギルドの放火魔の仕業に違いなかった。




「どうなっているの?」



 私たちは道を外れ、崖と反対の斜面に身を隠すように様子を伺ったのだけど、そこから見えた光景がこれだ。


 ウェザーが言った通り、みんなは先ほどの洞窟を利用して、その場に止まって戦っていたみたいだ。みんなの姿は見えないけれど、たくさんの魔物が洞窟を遠巻きにしているので、あの中にいることは伝わってくる。


 洞窟の周辺は魔物の死体だらけで凄まじいことになっている。流石にこれだけ仲間がやられたら魔物たちも攻撃を躊躇しているようだった。


 そんな遠巻きにしている魔物の元へ、さらに洞窟から炎の輪や雷が襲いかかっており、その都度魔物が逃げ回っているので、もはや攻め手はどちらかよく分からないような状況だ。とりあえず、ノンノンとダクウェルは元気だということはわかった。


 急いで合流したい気持ちをグッと抑え、状況を確認する。崖から落ちた際に指摘されたように、下手に出ていったら私たちが狙われて、みんなが危険になる可能性もあるのだ。


 なかなか攻めあぐねている魔物たちだったけれど、不意にまとまって攻め寄せ始める。けれど洞窟からは反撃がない。というか、あらぬ方向に雷が走るなど、ここからは見えない敵と戦っているうちに、周辺の魔物が寄せてきたという感じだ。


「インビジブルもいるみたいだ」ウェザーが囁く。インビジブルも撤退せず残っていた。


 姿の見えぬ敵を相手にするというのは、雲を掴むような話だ。一体どうすれば良いのだろう。考えているうちに、魔物の群れは洞窟への距離を縮め、もうすぐそこまで迫ってきている。


「ウェザー!」


 私の呼びかけに「分かってる。僕もなんの手も打たずに魔界に来たわけじゃないんだ。予定外の展開で使う暇はなかったけれど、策はある」


 そう言いながら自分の荷物入れの中から拳大の袋を取り出した。


「ニーア、リープサイズはまだ出せるかい? 確かホルプルスを斬った時ってすごく大きな鎌にできたんだよね? そのくらい。可能な限り大きくしてほしい」


 問われた私はニーア棒に力を込めて確かめる。瞬間移動もしたので使えるか心配だったけれど、問題なくいけそうな感じがある。一眠りしたのが良かったみたい。


「大丈夫」


 私の言葉に満足そうに頷くと、ウェザーが続けた。


「じゃあ作戦を話そう、、、、まずはゲオルさん、この辺りに留まってなるべく大きな攻撃をしてほしい。敵に当てなくてもいいんだ。相手が何事かと警戒するほど派手なら派手なほうがいい。それからーーーーーー」


 ウェザーの話を聞いて、私たちはそれぞれ自分の役割を確認。


 さあ、反撃の時だ!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「見えぬ敵というのは思いの外厄介ですね。レジー、あなたは前に出ないように。フィルさんの警護を」ジュニオールは後方にいるレジーとフィルを気にかけながら、前方を牽制する。


 どの角度からいつ攻撃してくるか分からない敵というのは想像以上に厄介だ。ジュニオールは自らの持つ風の加護を使って、インビジブルの攻撃がレジーたちに及ばぬように防御していた。


 そのため攻撃はノンノンとダクウェルに任せっきりである。


 元々攻撃力のある2人だ。洞窟を背にして戦えばそれなりどころか優位に事を進められるくらい頼りになる。


 当初牽制しながら逃げ、崖から投げ出された仲間との合流を主張したダクウェルだったが、ノンノン、フィル、レジーは揃って「この場で敵を引きつけるべきだ」と主張した。


 ウェザーなら必ず無事で戻ってくるから、それまで待ったほうが良いと。


 ジュニオールとしてもその意見には賛成だ。敵を背にして逃げるのは簡単なことではない。まして、相手にはインビシブルもいるとなればなおさら。さらに、無事に逃げ切れたとしても逸れた者たちと合流できるとは限らない。


 それに、これはあくまでジュニオールだけの考えではあるが、最悪中の最悪、はぐれた四人のことを諦めて、撤退するということも選択肢に入れて置かなければならない。であれば、帰還の扉から遠ざかるのは好ましくない。


 結果的にダクウェルも折れて、洞窟を拠点に魔物を捌いているのだが、ここまでは互角以上とはいえ、状況は厳しい。とにかく敵の数が多い。このまま消耗戦となれば、不利になるのは目に見えている。


 どうしたものかと考えていると、「くっ!」とノンノンが低くうめいた。腕を切られたらしい。インビジブルだ。魔物の攻勢がひと段落して、こちらも一瞬気を抜いたところを狙ってきたか。


「ノンノン!」レジーの声にノンノンは「だいじょうぶだ。傷は浅い」と手を挙げて答えるノンノン。それでも生傷だらけである。


 大ケガは万能薬(エリクサー)やポーションを使って回復しているが、それとて数に限りがある。


 インビシブルの攻撃でこちらに動揺が生まれたことを感じ取った魔物達が、再び距離を詰め始める。これ以上はウェザー達を待っていられないかもしれない。この攻勢を凌いだら、撤退を提案すべきかもしれない。



 そう、考えてきた時だ。



 どおおおおおおおおん!



 洞窟の外で巨大な音が聞こえ、魔物達の視線がそちらに集中する。



 だから魔物達は全く気づいていなかった。



 洞窟の入り口に、ふわりと降り立った大きな獣と、それに乗った小柄な少女に。



 少女はその体格に似合わぬ、異常に大きな鎌を抱えている。



 少女はすぐさま、迫り来る魔物の群れに向かって、自分の体の5倍はあろうかという巨大な鎌を振り抜く。直後、魔物達は凍りついたようにその場で固まった。


「ジュニオールさん!」


 ジュニオールがその圧倒的な光景に思わず息を呑んでいると、同じく狼に乗ってここまでやってきたウェザーが、何かの袋を持って駆け寄ってきた。


「大至急! ジュニオールさんのギフトでこの粉をこの辺一体に撒いてほしい! 急いで!!」


「あ、ああ。分かりました」


 再会の挨拶もそこそこに、ジュニオールは言われるがまま、風を巻き起こす。袋の中にあったのはキラキラと輝く細かな粉。


 ジュニオールの巻き起こした風に乗って、周辺一帯に巻き上がった。


 粉は、魔物に触れると強い光を放つ。


「あれは?」


「異世界で見つかった苔の一種ですよ。熱を感じると強く輝く特性がある」


 言いながら周囲をキョロキョロと見渡す。



「いた! ノンノン! あそこだ!」



 ウェザーが指差す先には、誰もいないはずの場所で苔が強い光を放っていた。



 瞬時に槍を突き出すノンノン。雷撃が走る!



 完全に虚をつかれたインビシブルは、ノンノンの雷に正面から射抜かれて倒れ込んだ。



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