【九の扉11】129)幻惑とミノタウロスの盾
、、、あれ? なんだっけ?
えーっと、、、、そういえば、私はお姉ちゃんとセレイアの木を探しに来たんだった。お姉ちゃんは、、あ、いた。ちょっと、置いてかないでよ。
ねぇ、待ってってば、お姉ちゃん。お姉ちゃんったら!!
「グオウ!!!!」
突然何かにのし掛かられて、私は地面に転がり込む。ごちんと頭をぶつけて「ふぎゃ」と声が出た。
「いたた、、、なんなの、もう。。。。あれ? フラージュ? あれ? お姉ちゃんは? んん? あれれ?」
見渡せば薄暗い洞窟の中だ。おかしいな、私、さっきまでお姉ちゃんと、、、いや、待って待って、なんでお姉ちゃんがこんな所にいるの? だって、今は、、、、
そうだ。今は魔界にいるんだ。あれ? なんで私、お姉ちゃんといると思ったんだろう?
少しずつ意識がはっきりとしてくる。同時に、何か恐ろしいものが胸に迫り上がってきた。何が起きたかは分からないけれど、私たちは攻撃されたのだ。
まだ私に乗りかかったままのフラージュに「ありがとう、もう大丈夫」とお腹をポンポンと叩くと、フラージュはようやく私から降りる。
谷底にあった洞窟へと足を踏み入れた後の記憶が曖昧だ。幻術のようなものだろうか?
「ウェザーとゲオルさんは、、、?」
握っていたニーア棒の灯りを使って洞窟内を照らすと、薄暗い中でゆらゆらと歩く人影が見える。
「2人とも!!」
慌てて駆け寄って腕を掴んだけれど、反応がない。ただフラフラと前に進んでいる。さっきは私もこんな感じだったのか。
ふと、何か気配がして洞窟の奥をみれば、そこにはハープを抱えた魔物のシルエットが浮かび上がっている。弾いているのだけど、私の耳には聞こえない。
「ウェザー! ゲオルさん! 気がついて!! 魔物! 敵の攻撃だってば!」
叩いたり蹴ったりしてなんとか正気に戻そうとしたけれど、2人の意識は戻らない。何かぶつぶつと小く呟きながら、魔物らしきシルエットに向かって進んでゆく。
なんだか嫌な予感がして、魔物のシルエットに光を向けると、魔物は川の真ん中に座っている。その魔物を中心に川は渦を巻いていた。取り込まれればいくらゲオルさんでもひとたまりもなさそうだ。
「止まって! 止まってったら!」フラージュとなんとかして止めようとするも、私の力じゃ止められない! 先ほど私にやったように、フラージュが乗りかかろうとするも、ゲオルさんは転がらないし、ウェザーも転がりはするも、起き上がって再び引き寄せられてゆく。
「どうしよう!?」もう水辺はすぐそばまで近づいて来ている。
「あ! そうだ!」いいこと思いつけたけれど、これって、、、大丈夫かな!? でも迷っている暇はない! やるしかないか!
私はニーア棒を握って祈ると、リープサイズをその手に形作る。
それから
「2人とも! ごめん!」と言いながら、光の鎌で2人を斬った!
びたりと動きを止めるウェザーとゲオルさん。2人には悪いけれど、これで一安心だ。なんか後遺症とかないといいけれど。。。
とにかく、2人の方は一旦保留。今度は魔物の方をなんとかしないと!
魔物は動きの止まった2人を見て、不思議そうに首を傾げつつも、楽器を持つ手は動き続けている。
「グルル」フラージュの低い唸り声。私の隣にやってきて、今にも魔物に飛びかからんばかりだ。けれど、もし魔物が避けたりしてバランスを崩せば、フラージュがあの渦巻く激流の中にとり込まれてしまう。そうなったら私に助ける術がない。
フラージュを宥めつつ、私は少し考える。
すると耳元で「油断しないで。盾を構えて」と囁くような声が聞こえた。
「えっ!? 誰!?」思わず振り向こうしたところで「早く」と再び耳に声が。私は慌ててミノタウロスの盾を構える。
その直後である。
魔物が物凄い速度で水の弾丸を私に撃ち出して来たのだ! 薄暗がりの中での全くのノーアクションでの攻撃だ。誰かの指摘がなければ私はなす術なく射抜かれていただろう。
けれど、その弾丸はミノタウロスの盾が吸収する。というか、大口を開けて飲み込んだ!
再び不思議そうに頭を傾げる魔物は、それでも立て続けに水の弾丸を打ち出し始める。
「フラージュ! 私の後ろへ!」
私は盾に力を流し込み、盾を大きく拡大させる。
パンパンパンパンと盾に当たる弾丸が、次々に盾の中へと吸収されてゆく。しばらくそのままの状態が続いたけれど、よく考えたら、向こうは川の水を弾丸にしているのだらか、永久に身動きが取れないような、これは困った、、、、
「そういえば、、、」
防御に徹しながら、何か打開策はないかとうんうん考えていると、私はあることに気づく。
私の持っているこの盾、ダルメキア水晶というレアな鉱石でできているのだけど、ダルメキア水晶って、一欠片でもギフト能力を吸収、増幅する効果を持つって誰かが言ってなかったっけ? そうすると、今まで吸収した攻撃を増幅して吐き出すことってできないかしら?
「うーんと、、、こう? それとも、こう?」盾を握りながら、吸収した攻撃をなんとか放出できないものかと試してみる。
と、なんか「これかな」って感じのイメージに、盾が反応する瞬間があった。今の感覚を忘れないうちに、意識を集中する。
突然、「どん!!」という強い衝撃が私を襲い、私は盾ごと後ろへ飛ばされる!
盾をつかんだままゴロゴロ転がって、未だ固まっているゲオルさんの足にぶつかって止まる。
「いたた、、、」何か強力な攻撃でも食らったのだろうか?
慌てて盾を構え直したけれど、そこにあるのは静寂だけだ。
恐る恐る盾から顔を覗かせれば、
果たして、魔物が座っていた場所は消し飛んで、その先には大きな穴がポッカリと開いていた。