【一の扉11】011)ウェザーの語る今回の真相
セレイアの苗を枯らした犯人が分かっている。
そのように言ったウェザーだったけれど、逸る私に向かって、「まずは食事にしよう」と、シグルとフィルさんに目を向けた。私としては犯人が気になって仕方ないけれど、本人に話す気がないのではどうしようもない。
「出来たぞ!」嬉しそうに料理をこちらへ持ってくるシグル。
夕食は野菜と干し肉を炒め物。他にもスープとパン、それにこれは携帯食? おまけにドライフルーツのデザートもある。砂漠の真ん中とは思えない豪華さだ。
「本当はもうちょっと節約しないといけないのだけど、今回は早々に目的の物が見つかったから、奮発しちゃった」
楽しそうに取り分けるフィルさん。先ほどあの巨大なサンドワームを振り回した上、吹っ飛ばしたとは思えない。そうだ! 私! フィルさんに助けられたんだった!
「あの、フィルさん! ありがとうございました! もうダメかと思いました!」
深々と頭をさげる私に、「あらあら」と困ったように頬に手を当てるフィルさん。
「むしろ感謝するのは私たちのほうよ〜。よくハルウを助けてくれたわ」
匂いにつられて一度フィルさんに駆け寄っていたハルウは、料理と一緒にこちらへ戻ってくると、座る私の膝の上で丸くなる。随分懐いてくれたみたい。
「あの、、、それで、さっきの力って、やっぱりフィルさんのギフトですか?」私が聞くとフィルさんは恥ずかしそうにクネクネするばかり。
見かねたウェザーが「フィルの種族は人よりも少し力が強いんだよ」と代わりに答えてくれる。少し…? と脳裏に疑問がよぎったが、本当に恥ずかしそうなフィルさんを見て、私は空気を読んだ。
「それよりも、ニーアちゃんの方が、、、あれ、ギフトなのかしら?」フィルさんに聞かれた私は、やっぱり先ほどウェザーに説明したのと同じように、使い勝手の悪い能力である事を早口でまくし立てる。自分の能力を話すときは、何を言われるかと不安でついつい早口になってしまう。
しかし私のギフトを聞いたフィルさんは「へえ〜、大変ね」と言うだけで、さして気にする風もない。配膳を手伝っていたノンノンに至っては、私の話よりもご飯に夢中だ。
少々拍子抜けした感の中、私たちは夕食を囲む。口にした干し肉と野菜の炒め物に思わず「あ、美味しい」と呟くと、シグルが「俺が火力調整したんだから当然だ」と胸を張った。
それからしばらくは楽しく夕食。お茶まで飲んで一息ついたところで、ウェザーが「じゃあ、答え合わせと行こうか」と立ち上がる。
「本当に犯人が分かるの?」
半信半疑の私がウェザーについてゆくと、ウェザーは私の腰ほどの高さのセレイアの木の前に立ち、一枚の葉っぱを指差した。
「ニーア、この木の一番上の若葉を取ってくれるかい?」
「こう?」
私は言われた通りに一番上の葉っぱをつまむと、淡い光を放っていた葉っぱは思いの外簡単に、ポキリと取れてしまう。
するとどうだろう、「わ!?」私が驚いて手を引っ込めるよりも早く、葉っぱをもいだセレイアの木は、他の葉も散らしてしまったのだ。
「え!? どうなっているの!?」
私が驚いて自分のつまんだ葉っぱをみると、光は失われ、すでに萎れ始めている。
「セレイアの木の特性なんだよ。一番上の葉っぱが散ると、他の葉も散って枯れてしまう」
「そんな事あるの?」
「うん。記録に残した案内人が詳しく書いているんだ。その案内人曰く、オアシスのような狭い範囲で群生する木だから、先に成長している幹と干渉しないような特性を持っているんじゃないかって」
私は手の中で完全にへたってしまった葉っぱを見ながらへえと感心する。自然というのはうまく出来ているのだなぁ。
「、、、でも、教会のセレイアが枯れた理由はわかったけど、犯人はわからないんじゃ、、、」
「いや、そんな事ないよ。君が嘘をついていないのなら」
ウェザーの言葉に私は少し口を尖らせて「嘘なんかついていないわ」と主張。事実、嘘はついていない。
「うん。だろうね。じゃあ、犯人は簡単だ。君の教会の司長と、地域を取り仕切る統括長だろうね」
とあっさりと言い放った。
「、、、司長と統括長が、、、嘘、だって最初は司長が責任を取るって、、、」
「でも結局取らなかったんだろう? 統括長の言葉で」
「それはそうだけど、、、」
「んで、長って名前が付くくらいだから、セレイアの木を管理する部屋の鍵も持っているだろ?」
「、、、、うん」
「司長も統括長もセレイアの木の特性は知らなかったんだろうね。そして多分、統括長が葉っぱの一枚も所望したんじゃないかな? 1枚くらいならって。それで、目立たないように一番小さな葉っぱ、つまり一番上の葉っぱをもいでしまった。あっという間に枯れてゆくセレイアの木に、2人はさぞ慌てただろう。しかしもうどうしようもない。目の前には全ての葉が散ってしまい幹だけになってしまった」
「それじゃあ、司長は初めから私たちに罪をなすりつけるつもりで!?」
勢い込む私に、ウェザーは小さく首を振る。
「うーん、そこが微妙なところなんだよね。君たちがやり玉に上がられても庇ったのは司長だし、護衛もつけてくれているし、あまつさえ足りなかった費用さえ負担しようとしてくれている。おそらく、君たちが疑われるのは予想外だったんじゃないかな? たまたま君に、犯行可能かもしれないギフトが備わっていたから疑われたけれど、本来はうやむやにするのが目的だったんじゃない?」
言われてみれば、私たちには司長に庇われる理由も見当たらない気がしたけれど、同時に、手厚い援助を受けてここに来ることができたのも事実だ。
「でも、、、他に密かに忍び込んだ犯人がいるかも、、、、」
「その場合は葉っぱだけ持って帰ろうとする意味がわからない。そこまで危険を冒したのなら、当然鉢ごと持って行くよ」
確かに。セレイアの木は近隣住民の信仰も厚かったから、単なる盗難で、失敗すればタダでは済まされないだろう。そんな危険を冒してまで、葉っぱ一枚だけというのは割に合わない気がする。
「難しく考えなくても鍵を持ち出せる人間が犯人だと思うよ」とウェザーに断じられて、反論できるほどのものも見つからず、私は私たちを送り出してくれた時の、本当に心配そうな顔をした司長の顔を思い浮かべて、がっくりと肩を落とすのだった。
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「ああ!! お帰りなさいニーア!! どこも怪我ない!?」
翌日早々に砂漠から無限回廊に帰還。無事にギルドに戻ってきた私に、駆け寄って抱きつくお姉ちゃん(デリア)。
「うん。それよりも見て! ほら!」
私は抱きつかれた拍子に落とさないように気をつけながら、頭上に持ち上げていたセレイアの苗を見せる。
教会にあったものより1まわりほど大きい。セレイアの木は、気温が高くない場所では成長が悪いとウェザーが教えてくれた。「少し成長した物の方がいいよ」という勧めに従って大きなものを持ってきたのだ。
「本当に、、、セレイアの木だわ、、、、」
泣き出しそうなお姉ちゃんに、私はそっと鉢を手渡す。
「それじゃあ、司長さんに渡すのは任せるね!」という私に、デリアは訝しげな顔をする。
「任せるって、、、一緒に帰らないの?」
「うん。ウェザーと約束したじゃない! 私がここで働いて返すって」
そのように言った私は、くるりとウェザーの方を向いて「これからは従業員としてお世話になります! よろしくお願いします!」と元気に挨拶。
私の言葉にウェザーは「え!? なんの話だい? ニーアはこの街で仕事を探すんじゃないの!?」と目を丸くする。
それを聞いた私も目を丸くして
「え!? 言ったじゃない! “ここ”で働いて返しますって!!」
と返すと、ウェザーは困ったように額に手を当て、天を仰いだ。