【幕間7-5】113)ウェザーの傷
「それはあんまりじゃないさ!」
口を尖らせて抗議をするのはレジーだ。私も少なからずそう思う。
そりゃあ、トッポさん達に比べれば付き合いは浅いけれど、今回だってギルドに残るために命をかけてっ頑張ってきたのだ。その気持ちが伝わっていなかたっとしたら、悲しい。
「いや、レジーやニーア、それにロブさんやダクウェルだって僕にとっては大切な仲間さ。でも僕は、君たちがこの世界の理に囚われている可能性を否定できなかった」
そう口にするウェザーの表情は悲痛で、まるで昔、裏切りにあったかのように感じた。そのくらいのことは感じ取れるくらいに顔を突き合わせてきたのである。
「もしかして、前に、何かあったの?」
「、、、僕は確かに、グリーンフォレストってパーティのメンバーだった。僕はあの、悪夢のような異世界。当時は魔界だとは思いもしなかったけれど、その中でイナンナ様に会った」
「話の腰を折ってすまないが、なぜ、神が魔界に?」ジュニオールさんの疑問は最もだ
「魔界にいたのではなく、魔界に一緒に行ったというのが正しいんです。ただし、神本人ではなく、イナンナ様の使徒と一緒に」
「待ちな、その話は初耳だ。それじゃあ、グリーンフォレストの中に神の使徒ってやつがいたことになるじゃないか」シャロさんが眉根を寄せる。自分が息子のように面倒を見ていた中に神の使徒がいたとは想像しにくいのだろう。
けれど、
「スラージャです」と一言。
「スラージャ? あいつはあの異世界で、、、」
「死んでないんですよ。スラージャは。僕を元の場所に送り届けるとイナンナ様と共に消えました。「自分は死んだことにしてくれ」と僕に託して」
「そんな、まさか、、、、」シャロさんが少しよろめいた様に見えた。
「シャロさんは特にスラージャを可愛がっていたから、本当はこの話はしたくなかった」とウェザーも悲しそうに言う。
けれど、シャロさんはすぐに表情を戻して
「そうかい、、、あの子は生きているのか、、、それならそうと早くいいな! アンタの気遣いは時々見当違いなんだよ」とウェザーを叱る。
私にもその気持ちは少し分かる気がする。たとえもう会うことができなくなったとしたって、生きているって分かったほうがずっといい。
「ごめん、、、僕にもどう説明していいか分からなかったんだ」
「あのう、、、いいかな?」ここでノリウスさんがおずおずと手を上げる。
「なんだい、ノリウス」
「どうも話が見えてこないんだけど、シャロさんはどこまで知っていて、今回の件に絡んでいるんだい?」ノリウスの疑問に答えたのはウェザーではなく、シャロさん。
「アタシはこの子が、ほんとうのとびらを探している事。見つけることができれば、ウィグラの発見につながるかもしれない事。そのためには最奥の扉へ挑戦しなければならない事くらいしか聞いてないよ」
「それだけ、、、」そう言ったノリウスさんを睨みつけるシャロさん。
「それだけ? 何言ってるんだ、ウェグラの居場所がわかる以上に、アタシに重要なことはない。ただし、ウェザーだってグリーンフォレストの一人だ、アタシにとっては手間のかかる息子の一人さ。そうである以上、無駄に命を散らす真似も、悪戯に仲間を危険に晒す真似も見過ごせないね!」
「、、、失言でした。取り消します」ノリウスさんも、ここはあっさりと引き下がる。
「話が逸れたけれど、結局ニーアちゃん達が信用できないって言うのは?」ロビーさんが話の流れを直してくれる。
「この世界に戻ってきた僕は、一度死んだほどの怪我だったから治療に専念することになった。そうしてようやく動くことがでくる様になってから、仲間に、、、グリーンフォレストのメンバーにこの話を打ち明けた」
「、、、信用してもらえなかった、そう言うことですか」とはダクウェル。
「うん。中には悪様に僕を罵る仲間もいたよ「神に向かって不遜だ!」ってね。そして生き残った全員、無限回廊への興味を失っていた」
「テオドールが、何かしたってこと?」私の言葉にウェザーは「多分ね」と返す。
「僕がどれだけ言葉を紡いでも、皆全く聞き入れてくれなかった。おかしいのは世界ではなく、お前だって。そんな中で、僕の話を唯一ちゃんと聞いてくれたのが、その道中で出会ったトッポさんと、ハーモとモニーだった」
トッポさんとハーモ、モニーの双子は3人で行くあてもなくこの世界を彷徨っていたらしい。そしてウェザーと、出会った。
「そこで僕は気がついたんだ。もしかして元からのこの世界の人間には、テオドールに逆らえない何かが働いているんじゃないかって。それに、、、」
「それに?」
そこでウェザーはシャロさんに向き直り、深く、深く頭を下げた。
「なんの真似だい?」
「ウィグラさんがいなくなったのは僕のせいかも、、、いや、僕のせいです。どうしていいか分からなかった僕は、なんとなくこのギルドへ戻ってきてしまった。トッポさん達を連れてやってきた僕らを迎え入れてくれて、この世界の人間で初めて僕の言葉を信じてくれたのがウィグラさんでした。でも、ウィグラさんはその後すぐに行方がわからなくなった」
「テオドールに消された、と? 今の話からすればなくはないですね」ジュニオールさんの言葉に、シャロさんが一瞬視線を向ける。
とにかくこれでようやく話が見えてきた。つまりウェザーは私たちがテオドールの支配下にある可能性を懸念し、また、もしも支配下になかったとしても、ウィグラさんみたいに消されることを心配したのか。
「頭を上げな」
「でも」
「頭を上げなって言っているんだ、ウェザー」
シャロさんの言葉に、ウェザーはゆっくりと顔を上げた、その顔は泣きそうだ。ウェザーはどれだけの夜を、自責の念にかられながら過ごしたのだろう。
星を見ながら、何度、ウィグラさんのことを思ったのだろう。
そう思ったら、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「アンタのせいじゃない」
シャロさんがはっきりと言う
「でも!」
「ウィグラがいなくなったのは、ウィグラ自身のせいさ。仮にアンタのために動いたとしても、それはウィグラが選んだことで、アンタのせいじゃない」
「シャロさん、、、」
「顔を上げな! 確かにアンタはグリーンフォレストの奴らとのやり取りで絶望したのかもしれない、でもご覧! 今ここにはアンタと一緒に歩みたいって奴らがたくさんいる! 後悔する暇があったら、こいつらと一緒に、うちの旦那を連れて帰ってくるんだ!!」
シャロさんの言葉にウェザーがボロボロと涙をこぼし始める。
私は思わず駆け寄って、ウェザーの背中をそっと撫でた。
「、、、、ギルド長の権利を、アンタに返す」シャロさんが言う。
「はい。。。」
「ここからどうするか、アンタが決めな」
「はい。。。。」
涙を拭うと、ウェザーは私たちを見た。
「僕は紛い物の神を”殺す”つもりだ。ここからは命の保証はないけれど、手伝ってくれるかい?」
私の、いや、私たちの返事は決まっている。
「「「もちろん!!」」」
私たちは精一杯力を込めて叫んだ!